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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
人狼「メイ」

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月下の人狼


紅い月明かりの下、北方の城壁から見渡す平原には1000を超える魔物の群れがイグニスの街を目指して進軍して来るのが目視できた。


遠く離れた王都では上空に邪神を封印した魔法陣が浮かび上がり、その封印が解かれる時が刻一刻と近づいて来ていた。王都では王国の誇る魔導士団が集中して配置され対邪神戦の準備に追われているそうだ。


邪神に対抗するべく王都には人類の最高戦力が集結していた。

「竜の加護」を受けたドラグーン「アレックス」、世界各国の危機を救った救国の英雄ビーストロード「マサキ」、王国マジックアカデミアの誇る王国魔導士達。

それでも、此度復活する邪神に対しては心許ない、と言うより不利だ。


さらに邪神は人類最高戦力に揺さぶりをかける為、世界各地に魔物の集団を送り込む念の入れようだ。各地を守るのはそれぞれの国所属の衛兵と冒険者達しかいない。


戦力的には圧倒的に不利だ、高さ10m程の城壁を頼りに時間を稼ぐ間に、王都での戦いで邪神を封印する事が出来れば魔物の集団も居なくなるはずだ。その希望的観測に掛けるしかない。


ここアイントラハト共和国、イグニスの街は以前、邪神の使徒により街中に病原菌をバラまかれ壊滅の危機に瀕した事があったが、「マサキ」の活躍により街は救われた為、その時の恩を返そうと冒険者達の戦意は他の都市より高かった。


それでも、いざ目前に魔物の集団が迫ると、恐怖なのか武者震いなのか解らないが体が震えて来るのを冒険者達は感じていた。魔物はゆっくりと進んでくる、ゴブリンやオークと言った魔物達が逸る事無く、規律正しく進んで来るさまは異様だった。


「・・・奴等、声一つ立てずに向かって来るとはしっかり統率されてやがる。」

「バラバラに攻めて来て呉れりゃまだやり様はあるんだがな・・・。」

「魔物が集団戦なんてマジかよ・・・。」


城壁の上で冒険者達が目前の魔物達の統制を見て思惑が外れたとばかりに戸惑う。

その魔物の侵攻は一定の距離でピタリと止まり、さらに冒険者達は混乱する。


「おい!奴等途中で止まっちまったぞ?」

「まさか奴等、矢の届かない距離を理解しているのか!?」

「この距離じゃお互いに攻撃は出来ないぞ?一体どうする・・・。」


冒険者達が混乱する間に、魔物の集団の後方に一斉に多数の魔法陣が展開された。

魔法陣が輝き、直後に攻撃魔法が城門に向けて一斉に放たれ、着弾する。


『ビシッ!』雷撃、火球が城壁と城門に吸い込まれ、頑丈な城壁も流石に軋む。


「奴等!この距離から魔法で一方的に攻撃するつもりか!?」

「拙い!こっちから手が出せないうちに城門を破られちまう!」


魔法攻撃を受け、軋む城壁の上で冒険者達は焦る。魔物達は無駄な戦いを避けて戦力を維持したまま城門を破って侵攻するつもりだ、ゴブリンやオークの考える策であるはずがない。この集団は邪神の手の者により完全に支配されている、手強すぎる。


焦る冒険者達の間を掻き分け擦り抜けて、一人の美女が城門の上に立つ。


「お前らは手を出すな、あたしが行く。」

金髪の美女はそう言うや。10mの高さを物ともせずに跳び、城壁前に降り立った。


「メイさん!?一人で行くなんて無茶だ!?」

「いくらあんたが救国の英雄のメンバーだからってこの数は無理だろう!?」

「あんた!武器すら持ってないじゃないか!?姐さん!無茶だ!」


救国の英雄と共に『ツヴェルグ同盟国』や『シュタール帝国』で邪神の使徒と戦い続けてきたメイだが、このイグニスの街でその活躍を目にした者は一人もいなかった。


冒険者達が普段目にしていたメイは、酒場『ヴィルトカッツェ』の用心棒として仕事の合間に料理を頬張っている姿や、屋根の上で昼寝をしている様な姿ばかりだった。

その彼女が武器も持たずに戦場に降り立つのは無謀としか思えない。


城壁前に降り立った美女に対し、やはり魔物の集団は動かず後方で魔法陣が輝く。

一斉に放たれた攻撃魔法が城門前のメイに着弾する。

『カッ!』凄まじい閃光と爆発が続き、吹き飛ばされた瓦礫や砂が舞い落ちる中、抉れる地面の上にメイは両足でしっかりと大地を踏みしめて立っていた。


その身体は魔法によって引き裂き砕かれ、立っていられるのが不思議なほどのダメージを受けていた。が、そのダメージがあっという間に修復し、赤い月明かりの下にその美貌が再現し、その美しい余裕の笑顔は魔物達を混乱に陥れた。


彼女はいわゆる「人狼」、普段から常人離れした戦闘力を発揮するが、満月の元ではその力は最高潮に達し、活力も無尽蔵に湧き出でる。今宵は紅い満月が天空に光り、月の眷属たる「人狼」に最大限の加護を与えているのだ。


「・・・魔法を使って来る奴は、そこか。」


メイは足元の一抱え程もある岩を拾い上げ、その重さを確かめ思い切り振り被る。

その全身のしなやかで凄まじいパワーを発する筋肉を巧みに操り、振り抜かれた腕はカタパルトの様に大岩を射出する。


放たれた岩は大気を切り裂き、進路上の魔物達の身体をミンチに変えつつ、目標の魔導士の胴体を吹き飛ばしても尚勢いを落とさずに虚空へと消えていった。

この一撃で平然としていた魔物達に動揺が広がり、冒険者達も我が目を疑う。


「なんだありゃ!?魔物が一列吹き飛んだぞ!?」

「なんてパワーだ!?北の恐竜を殴り殺したって噂は本当だったのか!?」

「今ので20体位吹き飛ばしてるのか!?これなら1000体マジで倒しちまうぞ!?」


メイは混乱する魔物の集団にもう一発を射出し、魔導士を一人と多くの魔物を道連れにする。この魔物の肉盾がまるで役に立たないと見た魔導士達は、一斉に魔物に城壁前の美女に向かって攻撃するように指示を出す。


一斉にメイに向かって突進する魔物達。迎え撃つメイはにやりと笑うと、紅い月明かりの下迫り来る魔物達に向かって跳躍した。




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