暴走
駅へと続く道を歩きながら彩音はメールの送信者である少女へ電話を掛けた。
『確かこの子は事務所で二人の男に襲われていた子だったな』彩音は思い出した。
1回目のコールですぐに相手が出る。
『もしもし、愛琉々(あるる)です!サイオンさんですか?』
連絡が待ちきれなかった様に電話に出た愛琉々は切羽詰まった様な声だった。
「うん、僕だよ。何か困った事が起きたのかい?」
『うん、ちょっとお父さんの事で相談したいんです、会えませんか?』
電話越しに「管狐」を飛ばせるか試してみたが、距離が有り過ぎるのか不発だ。
向こうの状況は不明だが、焦って電話を取った割には緊急の用件とも思えない。
『向こうで奴らに言わされてるんだな・・・。』
なんとかして彩音に連絡を付けて呼び出すようにでも言われているのだろう。
少し試してみようかと彩音は考えた。
「ちょっと今、某県に居るんだすぐには会いに行けないかな?」
『・・・』
少し間が開いて返事が来た。
『某県って、あたし某県の出身なんです、そちらで会えませんか?』
「いいけど、僕はこの辺詳しくないから。何処で会うんだい?」
再び少し間が開いて返事が来た。
『あの、あたし、お父さんが暴力を振るうから逃げ出してきたんですけど・・・』
何処で会うかの答えは無いまま、愛琉々は身の上話を始めた。時間稼ぎだな。
『奴等、今頃マップで場所を探してるんだろうな・・・。』
彩音はそう思うと自然と笑えて来た、自分を始末する場所を探しているのか。
『それで、〇〇市の欅の森運動公園でどうですか?家の近くなんです。』
今からそちらに向かうので夜になりますが、待っててもらえますか?と聞いて来たので、夜の23:00頃に運動公園で落ちあう様に約束して電話を切った。
「今から電車を乗り継いでも間に合う距離じゃない。間に合わせるには車で高速道路を使うしかない。さて何台で何人来るんだろうね。」
そう呟きつつ、彩音は面白そうにスマホをポケットに入れた。
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夜22:55 〇〇市 欅の森運動公園
月明かりの運動公園には既に利用客の姿は無かった。中央に70m×100mの芝生のフィールドがありその周囲を400m6レーンのトラックが囲む、ナイター設備もあるが今は消灯している。このフィールドが愛琉々との待ち合わせ場所に指定されていた。
彩音は歩いて運動公園にやってきた。利用客の姿は見えないが駐車場には県外ナンバーの高級車が10台ほど停まっていた。明らかにそのスジの関係者の車だった。
彩音はそれを無視してフィールドへ向かう。
フィールドの中央に5人の厳つい男と一人の少女が居た、彩音は無言で近付く。
あまりに悠々と歩いてくる所為で男達の方に困惑が生じていた。10mまで近づいたところで一人の男から声が掛かった。
「おい、そこで止まれ、逃げないとはいい度胸してるじゃねぇか?」
「・・・別に僕が逃げる理由なんてないよね?それと何で呼び出した訳?」
彩音は何故彼らがわざわざ彩音を呼び出しのかが気になっていた。子供に輩の面子を潰されたから?僕がヤクザ者を10名あっという間に制圧してのは知ってるはずだが。そんな理由で呼び出してもコイツ等には何のメリットもないはずだけど・・・?
「武藤さん、間違いない!コイツです!去年現金4億円を奪って逃げた小僧です!」
武藤と呼ばれた厳つい男の隣の男が彩音を見て叫ぶ、『こいつが犯人だ』と。
「ああ、あの時のおじさんかぁ。その節は騙されてくれて有難う御座います。」
なるほど、そう言う事か、あの時の保険金詐欺の一味とコイツ等どこかで繋がっていたって事か。事務所の防犯カメラにでも映ってたのを見つかったのか。あの時の金を奪い返す、なるほどそれでリスクを取ってでも僕を呼び出した訳だ。
「この嬢ちゃんの命と引き換えに金を返しな、下手に動くとぶっ刺すぞ。」
男の叫び声が合図だったのか、トラックの外周から20人程の男達が手に拳銃を構えた状態でゆっくりと近づいて来ていた。周囲を囲まれ拳銃で狙われていては迂闊に動く事も出来ないと輩達は考えた様だ。拳銃も距離があっては当り難い、仲間に流れ弾が当たる事もあり得る為、男達は彩音から10m程の距離を取って止まった。
「人質を取った上にいい大人が銃を持って大勢で一人を脅すってどうなの?」
「お前が妙な術を使うとか聞いたんでな、念の為だ。さ、金はどこだ?」
「・・・もう使っちゃったから、残ってないよ。」
「てめぇ!ふざけんじゃ・・・!?」
『ぎゃ!?』『がっ!』『ぐふっ!』周囲の男達が一斉に地に倒れ、胸を搔きむしり、腹を押さえて地面で藻掻き苦しみだした。『管狐」が全ての男に地獄の苦しみを与える。何故か全く影響がないはずの愛琉々も力なくその場に倒れ込んだ。
「愛琉々!?どうしたんだ愛琉々!?」
彩音は倒れた彼女に駆け寄り、其の身を案じる。離れていて解らなかったが彼女は立っているのがやっとだった様だ。彩音が「管狐」でその身体を掻しかめると、その身体に無数の痣を発見し、咄嗟に彩音は彼女の考えを読んだ。
彼女はコイツ等に彩音の連絡先を教える様脅されていたが、恩人の彩音を守る為に決して口を開こうとしなかった為、男達に暴行を受けていたのだった。業を煮やした男達は彼女に妹が居る事を突き止め、妹を同じ目に合わせると脅し彩音に連絡を取る様強制した事が「管狐」によって解った。
『・・・なんて汚い大人達だ!!』
彩音は男達に対して激怒し、「管狐」達も彩音の怒りに呼応してさらに数を増やし、その力を増大させた。男達を苦しませていた痛みは更に激しく変化し、男達は声もなくその場で藻掻き苦しんだ。その時、彩音の腕の中で愛琉々が言葉を発した。
「サイオンさん・・・女の子たちが売られちゃう・・・助けて・・・」
その衝撃的な告白に彩音は武藤と呼ばれたボスらしき男の心を読んだ。
武藤はカップルズホテルで保護していた少女たちの存在を知ると、その身柄を確保し、所持金を奪い、今回の損失に当てる為に彼女らを外国に売り飛ばす準備をしていた事が判明した。その方法も、外国で売春させてある程度金を生み出させた後に、まだ健康なうちに臓器を売る事まで視野に入れた極悪な方法だった。
『・・・・こいつら!これが人間のやる事か!!??』
公的支援を受ける支援活動を隠れ蓑に、行き場の無い少女達に居場所を与える代わりに、薄汚い大人達の欲望のはけ口となる事を強要する大人達。
両親を事故で失った子供を養子として受け入れた後、自分の再婚の邪魔になると見るや両親の保険金を騙し取って、着の身着のままで追い出す欲にまみれた大人達。
家の繁栄に繋がらないと我が子を他所に養子として追い出して、才能の有る無しで跡継ぎを選んだ挙句、自分達はそれにぶら下がるだけの大人達。
醜い大人達の所業に怒りが爆発した彩音に反応し、先程数が増したばかりの「管狐」が更にその数を増し、彩音の怒りの感情を喰らい凶暴化して暴走し始めた。
怒りの感情を喰らわれた彩音の意識は遠のき、更に凶暴化した「管狐」達は主の命も待たずにその力を周囲に振るい始めた。




