ヤヨイ
彩音はカップルズホテルに行き場の無い少女たちを集め、一時の避難場所とした。
その数13人、残り7人は彩音から支給された100万円を手に親の元へと帰った。
親からの虐待等で帰れる場所の無い少女達は、100万円を元手に自立する必要があるが、彼女らの年齢は14歳~17歳。働く場所も業種も限られる。
こういう行き場の無い少女たちを救うのが支援施設の役目なのだが、施設自体が少女達を食い物にしていようとは、更にこれが行政から認証を受けた団体だと言う。
『汚い大人たちめ!』
彩音が心の中で吠えた瞬間『ミシッッ!』音をたてて事務所の壁に亀裂が入った。
「ひぃっ!?」
「若年女性支援団体やすらぎ」の事務所のカウンターに座る派手女が悲鳴を漏らす。
その声にようやく派手女の存在を思い出した彩音は、彼女に言う。
「ああ、おばさん居たの?僕は所用で居なくなるけどあの子らの面倒見ててね。」
「・・・はい、あの・・・面倒見るってどうすれば?」
「それをやろうと設立したのがこの施設じゃないの!?」
彩音の怒声に更に壁が裂けた。派手女は顔面蒼白となる。
『行き場の無い少女達に居場所を与え、寝泊まりする場所と食事を与える。』
それを理念に設立された組織だ。それをそのまま運営すればいいだけではないか。
彩音はたまに様子を見に来る事を派手女に告げ、本来の活動に真剣に取り組む事を約束させた。もし約束を破ったら・・・それ以降は敢えて言わなかった。
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彩音は自分から関わった案件については全て一応の解決の目途が付いた事を確認し、彼本来の目的へと立ち返る事とした。興信所が見つけた『信楽 弥生』が卒業したと言う高校へ行き、情報を収集しその足取りを追うのだ。
高校のある某県に向かう為、公共交通機関を使い移動しながらも興信所と連絡を取り、新たな情報が無いか確認し、マップアプリを見ながら場所を確認する。
在籍していたのは何処にでもあるようなごく普通の公立高等学校の様だ。
興信所からの連絡で『弥生』は児童養護施設から高校へ通っていたことが解った時には、彩音はその事実に心がかき乱された。清水家に養子として貰われていったはずなのに、数年後には扶養を放棄されて施設へと放り出されたのだ。
『お姉ちゃんは2度も捨てられたのか。』
彩音は身勝手すぎる大人たちに翻弄され続ける『弥生』の身の上を案じる。
養護施設で育ったのなら、施設には高校卒業までしか居られないはずだ。今は何処で何をして暮らしているのか?不幸に見舞われて居ないのか?進学は経済的に厳しいだろう、どこかで働いているのか?・・・居場所はあるのだろうか?
どうしても若年女性支援施設での少女たちの境遇と重なってしまう。向こうに着くまでは何もできない為、なるべく考えない様にしているのだが、不安がなかなか消えてくれない。不安を紛らわせようとスマホの画面を見ていても内容は頭に入らない。
『某県か・・・資金集めの行動では拠点にしたことは無かったな。』
彩音はこの数年各地を行き来しそこで大金が動くことを知ると、その場所で情報を集め、不法に金儲けをしようとする犯罪者の金を横取りする事を繰り返してきた。
某県でその資金集めをやった事は無かった。ただ一度、保険金詐欺の横取りした金の受取先として某県内のビジネスホテルに行き、3日程滞在しただけだった。
『もうあれから一年近くたつのか、時間の流れは早いな・・・。』
そういえばあの時はとんでもないお姉さんがいたっけな。すれ違いざまにマンションのエレベーターを使うのが面倒だからと、二階に飛び上がった忍者みたいな人が。
意味も無く他人と接触する事は避けてたのに、あの時ばかりは驚いて思わず声を掛けてしまったな。連れのお姉さんも僕以上に驚いて固まってたっけ。
『あ、そうだヤヨイ、これ使って。』
固まりすぎて忍者のお姉さんが投げたカギを見失って、僕が拾って。
何故か二人とも何を考えてるのか判らなくて・・・一体何だったんだろう?
思わず、ビジネスホテルの場所を聞いたら、この辺は初めてだって言ってたのに、何も見ずに向こうの角を曲がったところだって、確信してたっけ。
『あ、そうだヤヨイ、これ使って。』
『・・・え?ヤヨイ?・・・弥生・・・!?』
まさか!?と彩音は雷に打たれたような衝撃を感じ、思わず天を見上げた。
弥生・・・名前としては、そう珍しいものではない。たまたま探し人と同じ名前だったのかもしれない。でも、心の中が読めずに興味が出て少し会話を試みて
『あ、あの、お姉さん。この辺に〇〇ってビジネスホテルないですか?』
何故、僕はビジネスホテルの場所なんて聞いたんだろう?
あの忍者みたいなお姉さんの正体が気になっていたし、カギを拾った事でお姉さんも僕に手を振ってくれてたから、『お姉さん、凄いですね』とか『何かやっておられるんですか?』とか2階のお姉さんに聞くことはあったろうに。
何故、目の前のお姉さんに、すでに知ってるホテルの場所を聞いたんだ?
無意識に忍者のお姉さんではなく目の前のお姉さんの反応が知りたかったのか?
僕は、いや『管狐』が目の前のお姉さんに何かを感じていたのではないのか?
『管狐』が反応した、心の読めない「弥生」さん・・・。
『もしかして・・・いや、間違いない!彼女だ!「弥生」お姉ちゃん!』
彩音は確信した。思わず「管狐」を向かわせようとしたが、電車で3時間以上かかる場所とあっては、流石にそこまでは「管狐」を送る事は出来なかった。




