若年女性支援団体
「信楽」は近江国甲賀郡の地名であり、焼き物で有名な場所である。
「彩音」の苗字である「信楽」は読みが違うが元は「信楽」から派生した苗字だと言われている、忍者の里「甲賀」と「管狐」は何か関係があったかも知れないが、彩音にしてみればそんな事はどうでもいい。
「お姉ちゃん」がもし養子縁組を解消されていた場合、現在は「信楽」を名乗っているかも知れない、という考えは彩音に微かな希望と不安をもたらした。
全国に数十万人居るとされる「清水」では探すのが容易ではないが、「信楽」は1000人と居ないのではないか?そのうちの18~19歳の女性となれば、そう多くはあるまい「清水」より探すのが容易に成ろう。
興信所に相談したところ、この1~2年の間に高校を卒業した者の「卒業者名簿」や「同窓会名簿」を当たれば、珍しい苗字の「信楽」は見つかる可能性は格段に上がると言う。それなら今契約している興信所全てに「清水」ではなく「信楽」に変更を依頼しようとしたが、少し考えて止めた。
現在契約している興信所はそのまま「清水」を追わせて、「信楽」を新たに各地に支店を多く展開している大手興信所に頼んだ方が効率が良い。支店で連携を取りながら名簿を当たって行けば、同じ名簿、同じ地域を探すような二度手間はしなくて済む。
早速、大手興信所の本店に名簿から「信楽」を探すように連絡を取った。
『名簿業者に当たれば名簿は手に入るがそれなりに金がかかる。』と言われたので、手付代わりに1000万円を送る事にした。人を雇って中身を知らせずに現金の入った小箱を本店まで持って行かせたのだが、向こうで中身を確かめた時は仰天した様だ。
しかし苗字が「信楽」に戻っていると言う事は、清水家と縁が切れたという事実を示す事になる。非常事態だ、「お姉ちゃん」は無事なのか?
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それから数カ月後。
昨年の某県の公立高校の卒業者名簿から『信楽 弥生』の名前を発見した、と興信所から連絡が入った。年齢的には彩音の2歳上なら昨年の卒業生で間違いない。
漸く掴んだ手掛かりにすぐにも某県へと向かいたい彩音であったが、すぐには行けない理由があった。
彩音は「お姉ちゃん」が不幸に成っているのではないか?との懸念から興信所に捜索を依頼しつつも待っているだけと言う事に耐えられず自分でも独自に行動していた。
親からの虐待やネグレクトで家出をし、居場所の無くなった少女たちを支援する「若年女性支援団体」として都道府県に登録された団体内で性加害が行われていると知り、その団体を潰すべく活動していたのである。
『お姉ちゃんが絶対に居てはならない場所』、『すぐにでも救いの手を差し伸べなくてはならない場所』から手当たり次第に『お姉ちゃん』の捜索、それと同時に弱い存在を利用する悪質な大人達に鉄槌を喰らわしているのだ。
連絡があった時間、夜の22:00を回った頃、彩音はとある支援団体の事務所に突入する寸前だった。22:00を回っていると言うのに事務所内は煌々と明かりが灯り、「公的女性支援団体 やすらぎ」と表記してあるの看板もLED電飾に照らされ、存在を主張していた。
2022年に女性支援の法律「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(女性支援新法)」が成立し、2024年の施行を見据え「支援団体」が多数出現したのだが、中には守るべく少女を食い物にする悪質な業者も多数存在していた。
この「公的女性支援団体 やすらぎ」も、そのうちの一つだった。
施設では行き場の無い少女たちの為に、無料で短時間の休憩や、安らげる場所と食事を提供し、今後の生活の不安への相談にも応じる所謂「駆け込み寺」の様な存在として、公的機関から認可されているのだが、実態とは全くかけ離れていた。
彩音は無言で入り口の両開きのドアを開け中に入った。待つ間もなく入り口横の受付カウンターに居た人物からから声が掛かった。
「当施設をご利用の方は氏名を書いてください。通称ニックネームでも結構です。」
入り口で派手な格好をしたとても職員には見えない女性から、用紙に記名するように言われた。一応利用者として登録する為らしいが、本名でなくても良いのは個人情報を知られたくない少女の為、プライバシーを最大限に考慮する為だそうだ。
一件、問題が無さそうに見えるが、悪意を持って施設に入り込もうとする者にとっては身バレの可能性が無く、好き勝手出来る場所とも言える。その証拠に、事務所内では少女の姿は見えず、何故かガラの悪い男がスマホ片手に時間を潰していたり、誰かと電話をしていたりと、少女たちが安らげる場所ではあり得なかった。
「ねぇ、おばちゃん。ここ女性支援施設らしいけど、そこに居るガラの悪い奴等って見た目がアレなだけで女の子なの?」
彩音に「おばちゃん」と言われた派手な女が眉を顰めるよりも早く、「ガラの悪い奴等」が反応して一斉に立ち上がった。その数5人、各々彩音を面白そうに見て言う。
「威勢がいいな?兄ちゃん。世の中には兄ちゃんみたいな生意気なガキを高く買ってくれる物好きもいるんだぜ?そっちを紹介してやろうか?」
「丁度手頃な家出娘が居なくて暇してたんだ、ちょっと俺達の相手をしてくれよ?」
ひょろりとした体格の彩音を見て男達は嫌らしく笑う、それに対し彩音は男達を全く無視して事務所の奥のパーテーションに向かって歩き出した。
「ちょっと、坊や!勝手に歩き回るんじゃないよ!聞いてんのかい!?」
受付の派手女が彩音を引き留めようとし、男達も彩音を制止しようと声を荒げる。
「おい!待てって言ってんだろう・・・が!?」
「お前、一体何を・・・・!!??」
男達は次々とその場に崩れ落ち、苦悶の表情を浮かべもがき苦しみだした。
受付の女は目の前で起こった出来事に理解が及ばず、受付の椅子から立ち上がれないでいたが、ようやく我に返り何処かへ電話をかけ始めた。
「とりあえず死にはしないからさ、3日位は反省しながら苦しんでなよ?」
彩音は最初にパーテーションに向かって歩き始めた時から、態度も速度も変えずに進んでパーテーションに手を掛けたと思えば、あっさりと引き倒した。
「!?」
「なんだお前は!?」
パーテーションの裏では泣き顔の半裸の少女を二人の男が弄んでいた。男に口を押えられた少女は突然現れた救いの神に涙目で救助を訴えて来る。
「・・・何が女性支援施設なんだか?・・・どけよお前ら。」
彩音がそう言うや、二人の男も顔面蒼白となって腹を抑えて藻掻き苦しみだした。
「管狐」にかかれば体調不良から悶死まで彩音の裁量でどうにでも出来るのだ。
殺す程ではないが、数日は地獄の苦しみからは逃れられまい。彩音が少女に声を掛け服装を整えさせてソファから立ち上がらせた時、入り口が騒がしくなった。
「誰だてめぇ!?何してやがる!?」
「一人で乗り込んでくるとはいい度胸してんな!?」
総勢10人程の堅気には見えない輩が口々に彩音を恫喝している最中だった。
この支援施設は彩音の集めた情報の通り、この手の輩によって運営されていたのだ。
『・・・全く、汚い大人たちめ・・・。』
彩音の心の中に輩への憎悪が沸き起こった瞬間、「管狐」は急激に成長し、その数を増したのみならず、荒れ狂う意思の奔流となって輩達へと襲い掛かった。




