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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那


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暴風


五月は己の背中と腰に手を回し。そこに赤い血が滲んでいる事を確認した。

先程の男の血を拭ったはずの左手にも真新しい血液が付着する。


「おい!やり過ぎじゃないのか!?」

「うるせぇ!やられっぱなしでいいのかよ!?お陰で俺たちゃヤクザ者から逃げ回る羽目になっちまったんだぞ!!」


タトゥーの男の方に向き直った五月に対し、男は再び発砲する。

『パン』発砲音と共に五月の右肩に新しい赤い染みが付着した。


五月は無言で右肩を左手で抑え、男が両手に構えた拳銃がこの現象を引き起こしたのだと理解した。そして他の男が別の拳銃を構え、倉庫内にあった廃材を手に持った男達が、五月に襲い掛かる素振りを見せたその時、五月とタトゥーの男の距離が0となった。


「がっ!?」


五月の右の掌底を左肩に受けた男は吹き飛び、倉庫内の盗難ランクルのボンネットに叩き付けられた。その光景に恐怖した男達は拳銃と数を頼みに反射的に五月に襲い掛かる。


放たれた銃弾は全て躱され、角材を振り下ろした男が強烈な蹴りを喰らい壁に飛ぶ。

至近距離で五月に銃口を向けた瞬間、拳銃ごと払われた男の右腕は勢い其のままに大きく弧を描き、複数の関節を砕いて自身の背中に張り付く。


五月の速度とパワーに恐れを抱いた男は手にした鉄パイプを投げ捨て捨てるも、五月は一度敵対した者には容赦せず躊躇する事無く回し蹴りを喰らわせる。

五月に敵対した事を激しく後悔しながら逃走を図る者が続出するが、五月の暴風の様な力の発散に一方的にその数を減らし続けていった。


脆弱な人間相手ゆえに、五月は相当に手加減をしていた。この様な雑魚共には殺す価値など無い。五月にとって殺す価値のある相手とは自分と互角に戦える者だけなのだ。弱い者などを殺しては自分の魂に「穢れ」が付いてしまう。


強者に叩きのめされた者が取るべき道は二つ。


叩きのめされた恐怖の記憶と共に己の不甲斐なさを噛みしめて細々と生きるか。

恐怖を克服し弱かった己を悔い改め、研鑽を積んで再び強者に挑むか、だ。


『こいつらの中に再び立ち上がって来れる者が居るか、否か。』


五月は20人の男達を平等に分け隔てなく叩きのめした。気を失い動かない者、苦痛にうめき声を上げる者、その反応は様々だが経験上言える事がある。

恐怖と苦痛から逃れる為に気を失う者は負け犬と成る者がほとんどだ。再び挑んでくるのは恐怖と苦痛に負けず立ち上がろうとする者の中にしか現れない。


しかし、この場の奴等には立ち上がろうとする者の姿は無い。五月がこちらの世界に来てそのような腹の据わった者などにお目にかかった事など一度もないのだ。

若干の寂しさを味わいながら、立ち上がる者の居なくなった廃倉庫を後に五月は駐車場を後にし道路に向かって歩き始めた。


その時、後方でエンジンの始動音がして五月の姿がLEDの前照灯の光に晒された。



────────────────────


始動したランドクルーザーの直列4気筒 2.7Lエンジンが吠え、五月目掛けて突っ込んでくる。運転席には最初に張り倒したタトゥーの男が苦悶の表情を浮かべたままステアリングを握っていた。


『立ち上がって向かって来る者が居たか!』


生身では到底かなわぬ相手、しかしなんとか一矢報いたいとの思いからタトゥーの男は重量2240㎏、163psの車体を武器に再び五月に挑みかかった。


「・・・・この化け物が!女だろうと容赦はしねえぇぞ!」


アクセルをベタ踏みされたランドクルーザーは一気に加速して、動かぬ五月を襲う。

それに対し五月はランドクルーザーに向き直った直後その場で腰を落とし一歩も退かぬ姿勢を見せる。


「!?逃げねぇのかよ!!??おい!!」


タトゥーの男は強者の五月が慌てふためいて逃げる姿を拝めさえすれば、一矢報いたと自己満足してのそのままランドクルーザーで逃走するつもりであった。

しかし相手は逃げる気は毛頭ない、『マジか!?』と心で叫んだその瞬間。


五月とランドクルーザーが正面から衝突した。


────────────────────


五月はフロントグリルを胸部で受け止め、両手はバンパー下部に回し脚は後方のアスファルトに突っ張る形で全身に力を込めた。

ランドクルーザーはその巨大な4つのタイヤから白煙を上げながら前に進もうとするが、鼻先を抑えられタイヤは虚しくアスファルトに削られていくだけだった。


「なんで!?動か・・・ねぇんだよ!?」


大きく唸るエンジン音に男の悲鳴にも似た叫びが重なる、コイツは化け物か!?と。

そしてフロントウィンドウ越しにランドクルーザーの巨体を受け止めた金髪美女の姿をした化け物の顔が見えた。


LEDの強烈な光を逆光に女の姿がシルエットで浮かび上がる。タトゥーの男ははっきりと見た、女の両目が金色に輝く様を。『コイツは人間じゃねぇ!』


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

男は恐怖のあまり、咄嗟にシフトレバーを操作しシフトダウンした。低いギアで増えたはずのトルクでもランドクルーザーは一向に進まない、それどころかフロントがゆっくりと持ち上がって来ていた。

4WDの前輪が浮いて前輪が停止し、後輪に駆動力が配分されるもさらに白煙の量が増え、ゴムの焼け焦げた匂いが周囲に色濃く漂い始めた。


『!?』

ゴムの焼ける不快な刺激臭が五月の人間離れした嗅覚に襲い掛かり、まるで鼻の奥を殴られたような錯覚を感じた瞬間、五月のバランスが崩れバンパーから両手が離れた。


落下したランクルのフロントが跳ね、五月の身体を救い上げるような動きとなり、五月の両足がアスファルトからわずかに浮いた瞬間、枷から解放されたランドクルーザーは駆動力を取り戻し五月をボンネットに乗せたまま一気に駐車場を駆け抜けた。


咄嗟の事にブレーキを踏む事も忘れアクセルをベタ踏みしていた男と、ボンネットに張り付いたままの五月と共にランドクルーザーは道路を爆走し、ガードレールを突き破りそのまま夜の虚空へと跳躍した。




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