被弾
「思ってたより現金が多くて良かったな!」
「全部で2000万位はあるぞ。」
「俺達の分け前幾らになるんだ?」
廃倉庫の中では20人程のガラの悪い男達がテーブルの周囲に集まって、浮かれた様子で今回の収穫を確認していた。2000万円超の現金と3丁の自動拳銃、弾倉には8発の弾が装填されていたが、2発をヤクザ者に使ってしまった為、残弾は22発。
金庫の中には拳銃と現金と借用書等の書類、各種帳簿等があったが足がつくのを警戒して現金と拳銃を用意したバッグにかき集めてきた。
現場に残した工具類も念の為、隣りの県の中古ショップで購入した。その際もその辺りのパチンコ屋で負けて暗い顔した見ず知らずの男を雇い、いくらかの金を与える条件で購入させる程に念を入れた。
何しろ最近は万引きでも防犯カメラの映像があれば、現行犯でなくとも逮捕される時代だ。極力証拠となり得るものは残さぬ様、車のナンバープレートもその辺の駐車場に停まっていた車から外した物を取り付け、偽装もした。
証拠隠滅は十分過ぎる・・・はずだった。
「ちょっとアンタたち!いい加減にしてよね!?」
「風香!?」
廃倉庫の一角の旧事務所に後ろ手に結束バンドで拘束された、二人の制服姿の女子高生が会話に割り込む。足がつかないよう証拠を残さないよう、細心の注意を払って準備していたはずなのに、まさか一カ月もの間不在だった事務所にヤクザ者が戻って来る日にかち合ってしまうとは・・・
日頃の行いが悪い所為で神に嫌われてしまっているのではないかと本気で悔やんだ。
金庫にあった拳銃でヤクザはなんとかやり過ごしたが、玄関先でこんな奴らに出くわし顔まで見られてしまうとは、なんという運の悪い日だ。
「・・・どうするんだよコイツ等?」
「顔を見られちまったからなぁ。」
スマホを取り上げて山の奥深くに置いて行って逃げる時間を稼ごうか、と考えが纏まりかけたところで、風香が叫ぶ。
「あたしの父さん、金龍組の組長だからね!あんたら絶対許さないから!」
「ちょっと!風香!?それは!?」
風香の言葉に男達の顔色が変わる。お互いに無言で顔を見合わせ、頷く。
そして腕に派手なタトゥーを入れた一人の男が風香に近づいてしゃがみ込み、その顎に手を当て正面から顔を見つめて、言った。
「悪いな、嬢ちゃん。それを聞いたらそのまま帰す訳には行かなくなっちまった。」
「なっ!?ちょっとそれどういう事!?」
男の言葉の意味に思い当たり、風香と朔夜の顔面が蒼白となる。
「アンタらの事、あのヤクザ者相手にパパ活でもしてるガキかと思ってたんで関係ないなら口止めして逃がすつもりでいたんだが・・・運が悪かったな。」
『俺達もヤクザ相手に一生逃げ回るなんて御免だからな、悪く思わんでくれ。』
そう言うと男はテーブルの上に置いてあった拳銃に手を伸ばした。そこへ一人の小柄な男が口を挟む。
「なぁ、どうせやっちまうなら最後に楽しませてもらおうぜ?」
「ああ、そうだな、この世の最期の思い出にお互い楽しもうじゃねぇか。」
男達が一斉に下卑た笑みを浮かべて、二人の少女に群がり出した。
「ちょっと!止めて!」「嫌!許して!」
周囲から男達の手が伸び、腕を取られ自由を奪われ服が脱がされようとされる。
「嫌ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
風香の叫びと朔夜の声にならない泣き声に男達は調子付く。
「叫んだってこんな山の中になんて誰も来やしないぜ?」
「幾らでも大声上げな!そっちの方が興奮するってもんだ!」
その直後、鍵をかけていたはずの頑丈な扉が派手な音をたてて開口した。
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倉庫の建屋を揺るがす破砕音と共に、外開きの観音開きの頑丈な扉が周囲の枠ごと内側へと弾け飛んだ。トラックでも突っ込んできたかのような衝撃だったが、違った。
その開口部には暗い星空をバックに、一人の金髪美女が蹴り上げた右足を下ろしている姿があった。
男達が何事が起ったのかと呆然としている間に、金髪美女の五月はごく自然に事務所内へ足を踏み入れ真っすぐに少女達の元へと進む。我に返った男の一人が相手は女と見て調子付く
「おい!姉ちゃん此処をどこだと・・・。」
そう言い掛けたところに五月は左手を薙ぎ払い、胸元に車の衝突に等しい衝撃を受けた男は事務所の壁へ叩き付けられその場に昏倒した。残った男達は異様な事態に我に返り、一斉に侵入者から距離を取ろうとする。
五月は何事もなかったかのように進み、障害物となっているテーブルを蹴り飛ばし、上に載っていた札束は帯が破れて桜吹雪の様に事務所内に舞い散った。
慌てた男の一人が隠し持っていたナイフを取り出し、咄嗟に朔夜を人質に取った。
「おい!そこまでだそれ以上近付くとこの嬢ちゃんの顔を刻んじまうぞ!」
男がそう言った直後、3m程あった五月との距離は一気に0となり、男の右手はナイフを持ったまま五月の左手に掴み取られていた。誰もが時間が飛んだのかと錯覚に囚われていたその時。
「ぎゃあああああああああああああああ!?」
叫んだ男の右手がプレス機械で潰されたかのように、五月の左手の中でその体積を縮小し夥しい赤い血液が溢れ出した。自らの手が男の血で汚れた事に顔をしかめた五月は左手を振り払い、反動で壁に叩き付けられた男の右腕はあり得ない角度で曲がる。
残った男達は一斉に五月から距離を取り、後には二人の少女が残された。
「さ、表に迎えが来てるから先に帰って。」
五月は朔夜と風香にそう言って帰宅を促した。震える足に力を入れ何とか立ち上がった朔夜は礼を言い表に出ようとし、この場に残る風な五月に尋ねた。
「あの、五月さんは一緒に帰らないんですか?」
「車に怪我人がいるし、あたしは途中にあったお店でご飯食べて帰りたいから。」
20人近い男達を前に、ごく平然とした態度の五月と言葉を交わした朔夜は
『五月さんが言うなら絶対安全なんだな。』と思い直し、そのお店がバイキング方式だったりしたら出入り禁止になるんじゃないかな、と心配する余裕すら生まれた。
「風香、行こう。五月さんが来てくれたからにはもう大丈夫。」
「・・・うん、あの・・・五月さん?あ・・・ありがとうございます。」
二人は連れだって表に出て、ヒロの運転するフーガに乗り込むとヤスを病院に連れて行くために廃倉庫を後に、夜の峠道を街の方向へと消えていった。
それを見送った五月は恐怖で固まる男達に向き直り、左手に付いた血を一人の男の衣服で拭い去りごく自然な口調で問うた。
「まだやる気のある奴は遠慮せずにかかって来い。」
男達が青ざめた表情で動く気が無いのを確かめると、五月は興味が失せたような態度で事務所を後に星空の駐車場目指して歩き出した。
『パン、パン』と乾いた音が響いた直後、五月の背中と腰に紅い染みが浮かんだ。
足を止め、何事が起ったのかとゆっくりと振り向いた五月の視線の先には、拳銃を構えたタトゥーの男の姿があった。




