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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那


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6/6

初心に還る。


崖下の草むらで車体の底面を星明りに晒したランクルは完全に沈黙していた。

ルーフは潰れ、ピラーは変形し、キャビン内部の男も微動だにしない。


ランクルから少し離れた場所で仰向けに大地に横たわる金髪美女の姿があった。

着ていた服は所々が破れ、露わになっている白い素肌には怪我や傷は一切無いが動く気配が全くない、生命活動を停止してしまったのか。


『・・・・お腹・・・減った・・・。』


五月は空腹が過ぎて動けなくなっていた。正確に言えば動こうと思えば動けるのだが、胃袋が空の状態で動くと胃の辺りで耐え難い不快感がする為、動きたくないのだった。動かずにいれば不快感は襲って来ない、何か口に入れる事が出来れば・・・。


日頃から貯めこんでいた膨大なカロリーも、今回の大立ち回りと身体の修復に根こそぎ持っていかれてしまった。もう少し暴れる時間が長かったり、身体の損傷具合が酷ければ意識を保つことも難しかったかもしれない。・・・この程度で何故?


五月はこうして横たわっていれば、自分を死体だと勘違いした烏とか野生生物が寄って来ないか、来ればそれを捕食するつもりで動かずに只管天空を見つめていた。

天空には普段そこにあるはずの月の姿が無かった。


『あ、・・・今日は新月だったか・・・。』


道理で今一調子が出ないはずだ、あの程度の人間などに苦戦するとは・・・。

五月は己の不調の理由に今更思い当たった。満月ならばあの程度の人間が百倍居て武器を使おうが不覚を取る事は決して無いのだ。しかし新月ならばそうはいかない、一歩間違えれば死んでいたかも知れないのだ。


五月はとある事情で異世界から送られてきた俗に言う『人狼、ワーウルフ』である。


その生態は月齢によって左右され、満月の時はほぼ不死身と成り体を欠損しようが忽ち再生し、疲れも知らずに一晩中でも戦い続ける事も出来よう。

しかし新月の時は体の再生にも時間がかかり、不死身とは言えなくなる。


元居た世界では弱肉強食の世界であり、常日頃から月の満ち欠けには敏感だった。

満月時の人狼に敵と呼べるものはほぼ居ないが、新月時に体調の優れない時は死の危険も僅かながらあったからである。こちらの世界ではその危険もほぼ無い。


昨年の今頃、「五月」と呼ばれる過ごしやすい時期にこちらへきて早一年が過ぎようとしていた。その間、人狼の命を脅かす者など一切居なかったお陰で自分の生態にも無頓着になってしまっていた。


今や月を見て思うのは『カスタードクリームのドーナツが食べたい。』だった。

此方へ来てから甘くて美味しいものの豊富さに驚き、時間が許せば甘味を取り続けていた。其の所為でいつの間にか狼の誇りも肉体もどっぷりと糖蜜に漬かってしまっていたようだ。


『・・・今回の一件は良い教訓に成った。気を引き締め直そう。』


気を引き締めてどんな相手にも油断せず、月齢に応じた対応をしなければならない。

そう思い知らされたのも収穫だ。甘味は甘味として制限する気は全くないが・・・。


そんな事を五月が考えている間に此方へ近づいてくる小さな足音がした。

草を掻き分けて近づいてくる足音、気配からして四つ足の犬・・・いや猫か?

此方の世界でも元の世界でも猫は食べた事はないが背に腹は代えられないし、贅沢も言えない。もう少し近づいたらとっ捕まえて喰うか・・・。


『・・・メイ様、なんか物騒な事考えてないですか?』

『!?お前は・・・?』


五月が意思を感じた方向へ目をやると、そこには迷い猫の「茶々」が居た。


『これ、お口にあいますか?』

茶々は五月に向かい、加えていたモノを差し出した、ウサギが一羽。


そうか、お前は、家を抜け出してこんな山まで狩りに来ていたのか。

五月はウサギを受け取ると体を起こしてその皮を剥いで身に齧り付いた。


ウサギってこんな味だったっけ?そう言えばこちらの世界では調理された肉しか食っていなかった。生の肉も売ってはいるが調理された物を食べ慣れていると、生で食べる気になれず口にしていない。数年前までは生肉が普通だったのに・・・。


『・・・任務を遂行する為にも初心に還ろう。生肉を食べていた頃の様に』


職務怠慢で元の世界に戻されては甘味が食べられなくなる、それは絶対嫌だ。

元の世界に戻る?こちらにはいつでも入れるお風呂があり、未だ食べていない甘味は山の様にあるのだ、無理無理、絶対無理。絶対帰りたくない!


ウサギの肉を胃に入れるとようやく不快感が無くなった。まだ空腹ではあるが、これ以降は甘いものか調理した肉でお腹を満たしたい。そう言えば帰り道に焼肉屋があったな、そこでお腹を満たして事務所に帰ろう、それが良い。


『よし、帰るぞ茶々。』

『ちょ・・・私まだ狩りをしたいんですが?ねぇ、メイ様?』


五月は嫌がる茶々を引っ掴むと、星明りの山の中を街目掛けて駆けだした。


────────────────────


「えー!?何で入れないのー!?」

「ですから、そのお姿はちょっと・・・って、何が有ったんですか!?」


五月が焼肉屋のドアを開けた直後にレジ前に居た女性店員に入店を拒まれた。

その騒動に賑わう店内の大勢の客の箸が止まり、視線が一斉に五月に注がれる。


何しろ五月は銃で撃たれ、ランドクルーザーと格闘して、崖から落下した為本人は平気でも、着衣は破れ所々が血に染まった半裸の状態で、何故か片手に猫をぶら下げている。これで入店の許可が出る方がどうかしている。


『そう言えば少し前にパトカーがサイレンを鳴らしていたいたし、犯罪被害にあった直後で混乱した被害女性に違いない!』と勘違いした店員が警察に通報しようとした事で、面倒に巻き込まれるのを嫌って五月は店を飛び出した。


・・・・・・・・・・


「あー!もう!あいつらの所為だ!戻ってもう一発づつぶん殴ろうか!?」

この格好になった所為で店に入れなくなったと気付いた五月が文句を言いながら事務所に向けて歩いていると青い軽自動車がゆっくりと近づいて来て、真横で止まった。


「私の勘ってよく当たるんですよね、着替え持ってきましたよ五月さん?」

「ヤヨイ!迎えに来てくれたんだ?」

こういう結果になるだろうと予測して弥生が着替えを持って迎えに来てくれた。

軽自動車に五月は乗り込むと狭い車内で器用にスウェットに着替え始めた。


「ヤヨイ、焼肉食べたい。あそこの焼肉屋行こう?」

「あー、あそこはバイキングだから駄目ですよ?別の店にしましょう。」

「えーなんで?お腹すいた。」


営業妨害で出禁になっちゃいますよ?と弥生が説明するも今一理解していない風の五月を宥めすかして、他の店に向けて車を発進させた。




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