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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
肥前化け猫騒動

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月下の少年


上弦の月が微かに照らす路の上、一人の少年が歩道を歩いていた。


彩音は現金の入ったカバンを肩から下げ、町工場を後にして深夜の幹線道路を進む。

途中にあったコンビニに入り、ペットボトルのお茶とおにぎり2点とアイスクリームを買い、コンビニの袋を下げて再び夜の道路を歩く。


先程から何台かのサイレンを鳴らしたパトカーとすれ違っている、目的地はあの闇バイトの『信長』の町工場だろう。自分がリークしたのだから間違いない。


実行犯たちが襲撃する目的地と時間とを前日に警察に知らせておいて、当日彩音は別行動をとって町工場に向かった後、実行犯たちが確保された時点で警察に町工場に指示役が潜んでいる事を伝えていたのだ。


これで標的にされた老夫婦も被害を受けず、実行犯たちも罪を重ねずに済み、指示役も死なない上に五体満足で済んで一件落着。誰も不幸に成る者は居なくて済んだ。


『信長』が逮捕されたら金庫の金は警察に証拠として確保されてしまい『信長』の手元には残らない。どうせ手元に残らない金で自分達の命の代価として支払ったのだ、指示役たちも自分に感謝してくれるだろう、彩音は思った。


────────────────────


保険金詐欺事件から数か月、彩音の操る「管狐」は進化した上にその数を更に増やしていた。当初、他人の心を読み周囲の情報収集をするのが主な役目だった「管狐」は、今や他人に干渉し体調不良や深刻な危害を加える事すら可能となっていた。


そしていつの間にかそれらの第一世代の子が生まれたのか、第二世代と呼べる新しい「管狐」が増え、第一世代の役目だった情報収集を担うまでに成長していた。

電話越しに『信長』に住所を聞いた際、相手が口にしなくても頭の中に浮かんだ住所や周囲の光景を「管狐」が感知して彩音に伝える事など簡単な事だ。


刃物を持った相手などは、第一世代の「管狐」が相手に干渉しその動きを封じる程度、わけもなかった。場合によってはそのまま息の根を止める事すら容易い。

『信長』の使っていた携帯電話も手に入れた。『上』とやらに接触する事も容易いだろう、しかしまずは今晩手に入れた現金を安全な場所に確保してからだ。


肩から下げたボストンバッグは重量が15㎏程あった。全部が一万円札の束だと1億5千万円程か、今や彩音は持っただけで金額の目安が付くまでになっていた。


「1億5000万円か、依頼する興信所を増やしてみようかな。」


目的の「探し人」は未だ見つからない。年齢と名前しかわからない上、少し調べた結果「杠」が貰われていったとされる清水夫妻の姓になっているであろう事と、「杠」の名前も戸籍上使用可能な常用漢字に含まれていないと言う理由で改名されている可能性すらあるとの事だった。


手掛かりがほとんどなくなった様な状況だが、彩音は諦めていない。逆に考えれば「清水」の姓の少女を探して6歳の頃に養子になったかを調べて行けば、いずれ見つかるだろうと考えたからだ。


しかし実際には口で言うほど簡単な事ではない。その為には膨大な手間暇がかかり、それ相応の資金も必要となってしまう。だが、普通の一般人なら難しいだろうが、自分には「管狐」があり、資金を稼ぐなど訳も無い事だ。

既に出身地の県内と隣県の4県内は調べて、居ない事が解っている。この調子で行けば数年以内に何らかの結果が出るはずだ、そう考えればこの仕事も苦にならない。


そう考えて歩いていた彩音の後方から、サイレンを鳴らしていない小型車のパトカーがやってきて速度を落として彩音の傍らへ停まった。

『こんばんわ、ちょっといいですか?』そう言って車から警官を降りてきた。

職務質問か。こんな深夜に高校生位の少年が道を歩いているのだ、当然だろう。


「ああ。お仕事ご苦労様です、ちょっと夜食を買いに来たんですよ。」

「袋の中を見せて貰っても良いですか?」


彩音は警官に手に下げたコンビニの袋を開けてみせ、怪しい物が入ってない事を証明する。アイスクリームを買ったのはコンビニから遠くない場所に住んでいると言うアピールの為だ。警官は彩音が他に荷物も持っていない事から問題ないと判断し


「ご協力有難うございました、夜も遅いですから気を付けてお帰り下さい。」

「はい、アイスクリームが解けないうちに戻ります。」


彩音も警官にそう返して、パトカーが立ち去るのを見送った。そして足元に置いたボストンバッグを改めて肩に掛けると再び歩き出した。警官は足元の大きなボストンバッグに全く気付かなかったが、これは「管狐」が視界から隠していたからだった。


他人の目には見えない存在の「管狐」が物体の周囲を包むと、その物体は他人には見えなくなってしまう。その性質を利用して彩音は警官からボストンバッグを隠していたのだ。この性質を利用すると彩音は彼自身の姿を隠すと言う事も可能になる。


今の彩音にとっては防犯カメラを騙す事すら容易い。堂々と貴金属店に入り、貴金属を怪しまれずに持ち出す事すら朝飯前だが、それはしない。彩音にとってはそれはあくまで犯罪であり、自分がやっているのは悪人を懲らしめてその所持する金品を頂く事、それは世の中の為になるからである。


これは自分の為に行っているのではない、お姉ちゃんを救い出す為だ。

ましてや悪人を懲らしめるのなら全てが許されるのだと。


彩音の標的とする悪人の規模が大きければ大きい程扱う金額も多くなり、その結果お姉ちゃんが見つかるのも早くなるのだ。


「もう少しの辛抱だよ、待っててねお姉ちゃん。」


彩音は頭上に鈍く光る上弦の月にそう呟いた。



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