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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
肥前化け猫騒動

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カミングアウト


ソウマの運転する軽自動車は、彼が拝借してきた軽バンを停めてある立体駐車場を目指して進む。大型商業施設の駐車場から10分程しか離れていない場所だが、犯行現場の目の前を通り過ぎる経路となる。


犯行現場となった大手地方銀行の駐車場には既に数台のパトカーが到着し、多くの警官の姿とそれを見る野次馬で大騒ぎになっていた。


「もう警察が動いているのかよ早すぎないか!?」

コウキが後部座席から身を隠すように現場を見てそう言った。


「いえ、奴らは保険金が目的なので早急に通報しなきゃいけないんです。」

保険会社に不信感を持たれない様、あくまで被害者を演じなければならないのだ。通報は即刻行わなkれればならない。これもタツキの予想通りだと言う。


「早速検問が行われるでしょうから、ここからが正念場です。」

対向車線側を流れに沿ってゆっくり進み、無関係を装い目的の駐車場へと向かう。


────────────────────


5階建ての立体駐車場の4階にその軽バンは止められていた。平日の昼間の為か、駐車場は4割ほどが埋まっているだけでガラガラであったが、ソウマの運転する軽自動車は軽バンの隣へと並べて止めた。


「バンの荷室にケースを運んで作業します。」


タツキは軽自動車から降りると軽バンのテールゲートを開け、荷室にスーツケースを運び入れる。荷室には大小様々な折りたたまれた段ボール箱が10個程と、ガムテープ、カッター、小型のバールなどが置かれてある。全てタツキの指示でユウセイとイツキが午前中に用意したものだった。


「まず、ケースをこじ開けて下さい。段ボール箱に中身を入れ替えます。」

コウキがバールでスーツケースをこじ開けるその間に、タツキとソウマは段ボール箱を組み立ててゆく。旅行用と思われるスーツケースは難なく開けることが出来た。

中には封の施された一万円の束が綺麗に詰め込まれていた。


「うわ!?スゲェ!一体幾らあるんだこれ!?」

「100万円100束を重ねて並べると、10㎝×38㎝×32㎝だそうです。この量だと4億円位ありそうですね。」

「4億!?マジか!?」


今までTVの画面越し位でしか見た事の無い大金に、現実感が伴わないままソウマとコウキ少しの間手が止まった。『さ、詰め替えますよ!』のタツキの声に我に返る。


「ソウマさんは軽自動車に空のスーツケ-スを積んで屋上へ移動お願いします。」

「解った!」

ソウマはタツキの指示に従って軽自動車にスーツケースを乗せ、屋上の適当な場所へと軽自動車を移動させる。


「この宅配100サイズの箱4つにお金を分散して入れて下さい。」

コウキは震えそうになる手で札束を箱に詰め替える、滑り止め付の手袋をしていなければ札束を落としていたかも知れない。タツキは大金を前にしても平常心を保っている様だ。ほとんどの札束を詰め替え終える直前にソウマが戻って来る。


「お二人供、手袋はそのままで作業着を脱いでこっちの箱に入れて下さい。」

80サイズの段ボールに二人の使用していた作業着と小道具を詰めこむ。タツキは作業着を着たままで作業を続けている。バール等の小道具も別の箱に詰めた。


「お前は作業着着たままなのか?」

「はい、僕はこのままで宅配業者を装います。この箱もその小道具です。」


そう言ってタツキは住所を記入済みの宅配の送り状を取り出し、3人で段ボール箱の一つ一つに貼り付けた。送り状の配送会社控えや届け先控えを回収し、用意したバインダーに綴じた。

さらに荷室に用意していた他の小道具、メール便の梱包を助手席に置き、『(有)上杉軽配貨物便』と書かれたマグネットシートを車体の左右、後部に張り付けるとどこから見ても軽配車両の完成となった。


「これで検問の目を欺きます、流石に荷物の中身を調べるなんてことは絶対あり得ませんからね。そして検問を過ぎた後に郊外の防犯カメラの無い個人店の宅配取扱店に持ち込み、配送を依頼します。」


検問を通り抜けたあとに、タツキの作業着や小道具含めた証拠品を全て箱詰めして潜伏先へと送ってしまうのだと言う。『証拠を近くに捨てるとそこから足が付くが、遠く離れた場所へと送ってから少しづつ処分すればバレない。』と。


自分が拝借してきた軽バンが何処から見ても軽配車両になった様子を見ていたソウマは、ある事に気付いた。『(有)上杉軽配貨物便』の表記、お前、苗字記載してんじゃないか!?不味くないかそれ?ソウマがタツキに問う。


「ああ、この表記ですか?全く問題ありませんよ。皆さんに名乗った『上杉 達希』って元々偽名ですから。」

タツキはあっけらかんと重大な事実を話した。


「は!?タツキが偽名!?」

「最初から正体隠していたってのか!?」

「ええ、騙してたみたいで申し訳ありませんが、皆さんを巻き込まない様にする為にも仕方なかったことなんです。」


元々ソウマ達の後輩の一年生などではなく、「上杉 達希」と言うのも実際に一年生に居る不登校の生徒の名前を騙っただけ。詐欺グループが幾ら血眼になって『タツキ』を探そうとしてもソウマ達には辿り着かない様になっているのだと言う。


「『イツキ』さんの名前が出る度、返事しそうになって最初困りました。ようやく最近『タツキ』にも慣れてきたんですけどね。」


『タツキ』はそう言いつつ最終的な見落としが無いか周囲を確認し始めた。


「・・・うん、大丈夫そうだな、じゃ、行きましょう乗って下さい。」

タツキに促され、未だ混乱したままのソウマとコウキだったが勧められるままに荷室に乗り込んだ。本来の後部座席は検問で怪しまれない様に折りたたまれ、座る所が無い為荷室に直接座る形となった。


「なぁタツキ・・・本名は聞かないからこのまま呼ばせてもらうが、お前、これからどうするんだ?」

ソウマは外から見えない様荷室で姿勢を低くしつつタツキにこれからの事を尋ねた。


「そうですね、軍資金も入って事ですししばらく予定通り人を探しますが、資金が乏しく成ったらまたどこかで同じ様な事をする事になるんでしょうね。」


タツキの言葉にはどこか寂し気な口調が感じられた、探し人が見つかるまでこんな事を繰り返していくしかないのか・・・。自分達には帰れる場所もあり、将来もどこかの大学を出て、どこかに就職し、普通の家庭を築く事になるのだろう。


しかし、この目の前のタツキを名乗る少年にはそんな普通の未来は訪れないのだろう。ただ、それはこの『タツキ』が選んだ道なのだ、普通の人生よりも『大切な人を探す』という道を選んだのだ。他人がどうこう言う事ではない。


しかし、それも「大切な人」が見つかってこそだ。もし見つからなければ・・・。


「では行きますよ、しばらく窮屈でしょうが我慢してください。」


『タツキ』の運転で軽配車両を装った軽バンがゆっくりと発進した。




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