告白
タツキの突然の宣言にソウマとコウキはタツキが何を言っているのか一瞬理解が出来なかった。タツキはそれも当然だと思っていたのか改めて言う。
「お二方にはご迷惑を掛けませんから協力してください。」
タツキにそう言われ、何に協力すればいいのかソウマが聞き返した。
「えっと、何に協力するって?」
「ですからこのお金の持ち逃げですって。」
「・・・・持ち逃げ!?」
ようやく言われた事の意味に気付き、ソウマとコウキは仰天した。
「おい!これを持って逃げるって言うのか!?」
「それはマジでヤバイだろ!?保険金詐欺の連中敵に回すって言うのか!?」
流石にそれは不味いだろうと二人は焦る、車の窃盗にすら躊躇したのに、いきなり保険金詐欺の主犯格たちを騙して逃げ切る事などどう考えても不可能だし危険だ。
「顔バレしてるのは僕だけですし、皆さんの情報は全く漏れてません。」
「いや、それにしてもお前が滅茶苦茶危険なのは変わりないだろう!?」
「確かに俺達は奴らと一切関わっていないが、お前が危険だ、無茶だ!」
ソウマもコウキも相手の情報は一切知らないし、全く関りも無い。ここからヘマをしなければ身バレする事もないだろう。しかし、タツキは打ち合わせ段階から奴らとがっつり関わっているのだ、どこまでも追いかけて来るだろう。
「探してる人を見つける為なら僕はどんなことだってやりますし、どんな危険も掻い潜って見せます!ソウマさん達のリスクはほとんどありません!」
タツキが強い決意を込めた口調でそう宣言する。ソウマとコウキはルームミラー越しに目が合いわずかな時間、無言で見つめ合い、苦悶する。
『あまりにもタツキが危険すぎる』ソウマがそう思いタツキをちらりと横目で見ると、いつも笑顔のタツキも流石にこの時ばかりは真剣な、不安そうな表情をしている事に気付いた。その表情を見たソウマの脳裏に自分の声が再生された。
『困っている人の為なら多少のリスクは問題ない。』
以前、不法駐車車両を移動する際に、自分の行動を正当化する為に言った言葉だ。
当事者にはどうする事も出来ない事でも、善意の第三者の立場ならやれる事がある。
不法な行いをする者に対して、無関係な自分達だけが鉄槌を下せるのだ。そんな思いであの時は行動したのだった。
『それに、保険金詐欺と言う犯罪の片棒を担ぐと言うのはどうなのか?』
ソウマの脳裏に突然その疑問が浮かび上がった。改めて考えて見れば今現在自分達は犯罪の手伝いをしているのだった。例えて言えば万引きしている奴らを手伝って、周囲に人が居ないか見張ったり、店員の気を逸らしたりしている様な物だ。
タツキと俺達は、そんな万引きと言う犯罪を未然に防ぐ為、万引きしようとする奴らを改心させるために、あくまで「ついでに」口止め料の様な物を頂いて来たのだ。
俺達がするべきは『犯罪の片棒を担ぐ事。』ではなく、奴らの計画を未然に防ぎ、其の上で口止め料を貰う事ではないのか?
ソウマはその確信めいた考えに至った。
「タツキ!お前、今、困ってるんだよな!?」
「え?僕が困ってる?」
いきなりソウマにそう言われ、タツキは思わず聞き返した。ソウマは構わず聞く。
「探し人が見つからなくて困ってるんだよな!?」
「え?あ、はい!とても困っています!」
タツキの返答にソウマは頷いて、コウキに呼びかける。
「タツキが困ってるんだ!多少のリスクは問題ないよな!?」
「あ?・・・ああ!それなら多少リスクがあっても構わないな!」
「ソウマさん!コウキさん!」
タツキが満面の笑みで叫ぶ。ソウマとコウキもタツキの表情に笑みが零れた。
「タツキ!これからどうすればいい!?」
「はい!まずは予定通りに大型商業施設の駐車場へ向かって下さい!」
タツキの言葉に車を運転しているコウキが驚く。
「このまま奴らの待ってる所に行くってのか!?」
「いえ!奴らが居るのは屋上です、僕らが向かうのは地下駐車場です!」
「ああ!俺が用意した軽自動車の置いてあるところか!?」
「そうです!その場所まで行ってください、コウキさん!」
タツキがここで今まで準備した事は全て、この為だった事を明かした。
2台の軽自動車を用意したのも、ナンバープレートを準備したのも全てはこの大金を安全に持ち逃げする為の準備だったのだ。これから確実に一つ一つの行動を間違えなければ、この計画は確実に成功するとタツキは断言する。
タツキの指示通りに車は大型商業施設の駐車場へと乗り入れた。そしてそのまま駐車場内を移動し、屋上ではなく地下駐車場へと向かう。
「大型商業施設に入る所は奴等も見張って確認してるはずです。予定通りに駐車場に入った事で奴等も安心して油断してるでしょうから、ここで車を乗り変えます。」
そしてコウキが運転する車は自分が用意した軽自動車の元へと辿り着く。
その軽自動車の隣に車を停め、タツキは指示を出す。
「この軽自動車はソウマさんが運転してください。僕とコウキさんでスーツケースを後部座席へ積み込みます。」
タツキとコウキがスーツケースを一つずつ運んで後部座席へと乗り込む。
運転席のソウマがそれを確認して軽自動車をゆっくりと出発させた。
「このまま、俺が用意した軽バンの所まで運転すりゃいいんだな?」
「そうです!万一ここで車を乗り換えているのが見つかっても、奴らが追うのはこの軽で、それを躱す為にもう一度乗り換えます!」
その為にタツキは軽自動車を2台用意していたのだ、此処で見つかっても良いように。さらにナンバープレートも別の物と取り換えると言う念の入れようだ。
防犯カメラに映っていたとしても、逃げる時間は相当稼げるはずだ。
ここまでのタツキの準備と行動に瑕疵はないはずだ。予定通りに上手く行っている事にソウマとコウキはこの計画が成功する事を疑う余地がなくなりつつあった。
このまま行けば間違いなく成功だ、そう考える二人にタツキが声を掛けた。
「あ、上手く行って落ち着いたらお二人に1000万円ずつ送りますね。」
「1000万円!マジか!?」
「おい!そんな大金くれるって、これから相応のリスクがあるってのか!?」
思いもよらぬ大金を送ると言う言葉に二人は驚愕しタツキに聞き返す。
「いえ、そんなことありませんよ?これは僕からの感謝の気持ちです。」
タツキが言うには、二人を説得する前からすでに金を払うつもりではあったが、説得する際にその事を言ってしまうと『金が欲しくて了承したように思われるのが不本意と感じて』断られる可能性が高くなるのを恐れて敢えて言わなかったのだと言う。
「・・・俺達がそう考えるだろうと思った上でのことだったのか・・・。」
「タツキ、お前、俺達の性格知り尽くしてるんだな・・・」
「短かったけど深い関係だったと思ってます、あと少しご協力ください。」
三人とスーツケースの乗った軽自動車は大型商業施設の駐車場を後にした。




