保険金詐欺
「保険金詐欺?なんだそりゃ?」
「何って、保険金を騙し取る事ですよ?」
「いや、それは解る。何で芝居がそんな事に関係してくるんだって事だよ?」
困惑する4人を前にタツキが依頼人の意図を説明する。
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数年前とある貴金属店の店員が、政令指定都市の大手銀行前で出金したばかりの数億円を奪われると言う事件が発生した。犯行は10人以上による組織的な物で結果的に全員逮捕されたが、被害金額の全額の回収には至っていない。
被害を受けた貴金属店は保険会社に保険金を請求したが、保険会社は警備の手薄さに被害者の落ち度があるとして支払いを拒否。その結果訴訟にまで発展したが、裁判所からは保険会社への保険金支払いを命じている。保険が効くなら損は無い。
そんな前例がある事を踏まえ、依頼人は今回の保険金詐欺を思いついたそうだ。
今回の『カバンを奪う芝居』と言うのは、その名の通り被害者と同意の上で行われる芝居なのだ。カバンを強奪したように見せかけて、奪ったカバンを指定された場所まで運ぶというのが仕事内容なのだと言う。
「・・・・なぁ、それって結構ヤバくないか?」
「カバンを奪う際に怪我でもさせたら強盗致傷になるんじゃないのか?」
「そのカバンをどうやって何処へ運ぶかも問題だよな?」
「依頼人に俺達の身元がバレるのも不味くないか?」
4人は不安そうに意見を出して話し合う、100万円の金額は魅力だが捕まってしまっては元も子もない。極力リスクは取りたくないのだ、ここは受けない方が良いか。
「相手にはリスクを極力減らす為の提案をして、了承してもらってます。」
『リスクは今までとそう変わらない』タツキが落ち着き払ってそう言う。
半信半疑の視線の中、タツキは今回の流れを説明した。
まず銀行前で依頼者からカバンを奪う方法だが、最初相手は路上を歩く被害者の背後から乗用車で近づいて一気に制圧してカバンを奪う方法を提示していた。
タツキはそれを、被害者が乗用車を用意して銀行の駐車場に乗り付け、カバンをトランクに乗せた後、その車ごと奪う様にと変更させたと言う。
被害者を制圧する方法も、相手は威力の弱い催涙スプレーを使う事を予定した様だが、それでは『傷害』になってしまうので、モデルガンを用意して相手を脅した後に手錠をかけて行動不能にする方法に変更させた。
最後にカバンの受け渡し場所だが、相手は人気の無い港湾施設を指定してきたが、そこからの逃走手段に乏しい。その為、郊外の大型商業施設内の駐車場に車を放置して相手に回収させることで、自分達は商業施設の客に紛れて逃げる事を提案し、それも了承されたと言う。
『商業施設に車を放置って、あの放置車両もまさか・・・?』
ソウマはその可能性もあった事に気付いた。あの車両も何かしらの事件に使われていたのかもしれない。世の中は自分達の知らないところで色々な事件が起きているのだと実感する。放置車両が警察に押収されていないと言う事は、足が付かなかった証拠にもなる。
もちろん事件性が無かった事も考えられるが、今のソウマにはタツキのリスク低減の方法が非常に理にかなったもののように見え、あの放置車両もその証拠の様に思えていた。『タツキの言う様にリスクはかなり低いんじゃないか?』そう考えた。
「それと車を奪う際も更に自然な流れに見える様に提案しています。」
タツキはさらに車を奪う際にも小細工をすると言う。駐車してある車の後部に紐で空き缶をぶら下げ、運転手が車を動かした際に後ろで音が鳴るよう細工を施す。
運転手が異音の正体を確かめに車を降りて後ろに回った際に、運転手を制圧する。
そうする事でエンジンのかかった車をあっさり短時間で奪え、運転手もエンジンを掛けた車から無防備に降りる不自然さの理由付けにもなる一石二鳥のアイデアだ。
ソウマはこのタツキのアイデア群に内心舌を巻いた。『コイツはそこまで考えてこの仕事を成功させようとしているのか。』タツキが此処まで考え抜いたのだ、リスクはほとんど無い、と半ば確信めいた考えに至った。それは他の3人も同様だった。
「・・・確かにそれならリスクは低いな。」
「逃走経路の事までしっかり考えてあるのなら・・・行けるんじゃないか?」
「短時間で車を奪って商業施設までの移動。時間にして10数分か、それなら・・・」
「相手を制圧する時もケガをさせる訳じゃあない。実質は車の移動だけか・・・。」
4人の心は『やれる、やるしかない。』と仕事を受ける方向へ大きく傾いた。
なによりタツキがここまでお膳立てしてくれているのだ。それに応えなければ仲間ではない、と考えるまでに至ってしまった。
頭の中でシミュレーションを行う。銀行の前で車を奪う、その際は作業着を着て駐車場の整備をしている様にでも見せかければ不振には思われまい。
車を奪った後の逃走経路を臨機応変に二通り用意しており、それぞれに逃走用の軽自動車を用意するそうだ。その為の偽装のナンバープレートと2台の軽自動車を夜のうちに準備するのが今回の仕事のキモとなるらしい。使わないかも知れないがそこまで徹底する事でリスクを極限まで減らすと言う。
「よし!やるか!?」
「ああ!やろう!」
「タツキがここまで考えてくれたんだ!やるしかない!」
「これだけの準備をするんだ失敗は考えられん!」
4人の行動は犯罪の片棒を担ぐ事になるのだが、リスクの程度を重要視するあまりこれが「保険金詐欺」という立派な犯罪だと言う事を軽視してしまっていた。
「車で移動するだけだ。」バレなければ、捕まらなければ、何の問題もない。
タツキと4人は早速細かい準備の打ち合わせに取り掛かった。




