増えるリスク
それ以降、たまに『割の良いバイト』が紹介されるようになった。
タツキが言っていたように、リスクに応じて金額が上がっていくようだ。
ある日などは何が目的なのか皆目見当が着かないが『ある場所に置いてある粗大ゴミを夜中にある場所まで移動する』と言う物だったり、『商業施設の駐車場内に長期間不法駐車している車を夜間に動かして、河川敷の駐車場に移動する』という、なんとなく事情が察せられるものまで多岐に渡っていた。
車の移動などは、不法駐車の存在に悩んだ商業施設からの依頼なのではと考えられた。なにしろ不法に駐車されていても所有者に無断で勝手に移動する事は出来ず、警察に言った所で所有者を調べて移動するように依頼する事位しか出来ないのだ。
ソウマ達も車の運転だけならオートマチック車なら問題なくできるが、放置車両のカギが無ければ始動は出来ないだろうから依頼は受けられないなと思っていた。
しかし『大丈夫』というタツキの言葉を信用して夜間に現場に着くと『何故か』真新しいスペアキーが用意されていてボンネットに置かれていた。ここまでお膳立てがされていると言う事は、依頼人は本気なのだと理解した。
世の中には法の不備で困っている人たちが大勢いるのだが、当人が解決する事が難しい事のなんと多い事か。今回も商業施設と無関係の善意の第三者が絡めばあっという間に問題は解決する。つまりその善意の第三者になる事で礼金が手に入るのだ。
『無免許運転というリスクはあるが、困っている人の為だ。』という建前で不法に駐車場を占拠する車両の移動を行い、その結果10万円もの大金を手に入れた。
ソウマ達はこれ以降、『困っている人の為なら多少のリスクは問題ない。』と考える事になっていく。
そして数日後、とんでもない高額の依頼が舞い込んだ。
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「報酬が100万円!?」
「そりゃ一体どんなバイトなんだ!?」
「とんでもなくリスクが高いとかじゃないよな!?」
カラオケボックスの中でソウマ達4人はタツキから超高額のバイトがあると聞かされ、驚愕していた。お互いに顔を見合わせ、どうするか迷っていた。
タツキが説明するには、リスク自体は今までやってきた事の積み重ねとも言えるもので、これまでの事を考えたら大した違いは無いのだと言う。
ただし、一晩で今までやってきた事の幾つかを組み合わせた事を順序立ててやり切らなければならないのだと言う。具体的には
・夜中に2台の放置車両からナンバープレートを外して来る事。
・夜中に指定の2台の軽自動車をそれぞれ指定された場所へと移動させる事。
・打ち合わせ済みのとある人物と計って、その人物からカバンを奪う芝居をする事。
以上の事を順序立ててやる事で、報酬として一人当たり100万円になるのだと言う。
ソウマ達はリスクと100万円の報酬とを頭の中で天秤にかけた。リスク自体は「ナンバープレートの窃盗」と「無免許運転」が考えられる。しかし捨ててあるのも同然の放置車両からナンバープレートを外す事が窃盗になるのか?と言う疑念が湧く。
『ナンバープレートも捨ててあると言っても良いのではないか?』それを持ってくることが『窃盗』になるのか?いや、成る訳がないとソウマ達は考えた。
他者の所有物をその者の意に反して所有する事、それ自体が立派な窃盗罪であるが大金を前にした時点で、彼らの正常な判断力は失われていた。
軽自動車の移動も、施錠してない軽の車内に置いてある鍵を使ってエンジンをかけ、それを夜間に指定された場所へと移動させるだけだと言う、それも警察に見つからなければ問題はあるまい。
『商業施設の放置車両の移動と全く同じだ、問題ない。』
そして最後の一つ『とある人物と示し合わせてカバンを奪う芝居をする。』これが良く分からない。芝居をする事でどんなリスクが発生するのか?それ以前にそんな芝居をする必要性とその意図が解らないのはどう判断すればいいのか?
この『芝居』についてタツキは何か知っている様だが、なるべく知らない方がやり易いと言う理由で教えてくれないのだ。しかし、この件の中では最重要なポイントと言える。一体何故そんな事をするのか?それに納得のいく答えが無い限り、軽々しく受けるわけにはいかない。ソウマはタツキに説明を求めた。
「んー、仕方ないなぁ。本当に秘密ですよ?」
タツキは困ったな、という表情をしつつ仕方ないか、と笑いながら言った。
「簡単に言えば依頼主は保険金詐欺を企ててます。」
「保険金詐欺!?」
ソウマ達は思いもしなかった言葉を聞いて、困惑しお互いの顔を見合わせた。




