実践
タツキが主に活動しているという書店に着いた。
入り口横のレジに居た女性書店員がタツキを見て、小さく手を振る。
それを見てソウマはタツキがこの書店に歓迎されている事を知る。
『確実に店の協力が得られているらしい、凄いな。』
店側にはこちらを警戒する様子は微塵もない、タツキの言うノーリスクは間違いない様だ。夕方の書店には学校帰りの学生らの姿が多く見受けられる。さて、誰を見張れば良いのやら。
「なぁタツキ、誰が怪しいと思う?」
コウキがタツキに問いかけると、タツキは笑いながら言った。
「怪しい奴なんて、そういう目で見てたらすぐに解りますよ。」
そう言われてコウキもソウマも周囲を見渡すが、特に怪しい奴など・・・居た。
本棚の前で手に取ったコミックスを見てはいるが、視線は微妙に周囲に配られている風な女子高生3人組がすぐに解った。その向こうで真剣にコミックスを物色している者とは明らかに雰囲気が異なっている。
『・・・俺達も傍から見たらこんな風に見えていたのか。』
ソウマはその事実に今更ながら背筋が凍る思いがしていた。自分達が書店で万引きをしていた頃には思いもしていなかった事だ。万引きと呼ばれる『窃盗』が『暴行』よりも処罰の重い犯罪で、現行犯でなくとも逮捕されると言う事実を知った今となっては、よくもこんな危ない橋を渡っていた物だと冷や汗が出る。
「さて、目標を見つけましたね。証拠の動画を取りますよ。」
タツキに言われユウセイがスマホを取り出し、書棚の陰に隠れて棚の上からスマホを構える。通路には姿を晒さずにスマホに映る映像で目標の行動を観察し、彼女らが肩から掛けた口の開いたカバンにコミックスを収めた現場を記録する。
「うわぁ。やっちゃったよ。なんか見てるこっちがドキドキするな。」
ユウセイが自分のスマホに映る映像を見た感想を小声でコウキへ語りかけた。
語りかけられたコウキだけでなく、ソウマもイツキもその映像に釘付けとなる。
現場を見た事で若干緊張はしたが、ファミレスでクレーマーに対峙した時と比べたら、特に問題もない。自分でも落ち着いていると感じる。
やがて彼女らは何も買わないままレジの横を通り抜けて、書店の外へと出た。
その後を少し遅れてタツキ達5人が付いて歩く、その間にソウマは女子高生らを観察する。自分達とは別の私立の高校の制服を着ており、少し化粧をして遊びなれた雰囲気のある女子高生の様だ。生活に困っている風でもなく遊ぶ金欲しさの行動か。
「ねぇ、お姉さんたち、一緒にカラオケに行かない?」
突然タツキが彼女らの前に回り込んで軽い口調でナンパをし始めた。
『いきなりナンパかよ!?』
ソウマ達も多少粋がってはいるがナンパなどした事が無かった為、タツキの行動に驚かされた。コイツは相手が大人だろうと高校生だろうと全く動じていない。
『俺達も場数を踏めばこんな風に成れるんだろうか?』ソウマがそう思っていると、女子高生たちは声を掛けてきたタツキを面白そうに囃したてる。
「なーにー?君、一年生?見かけに寄らず結構度胸あるね?」
「もしかして後ろのお兄さん達もお仲間?ナンパとか縁無さそうなんですけど?」
「アタシらそんな暇じゃないんで、バイバーイ。」
揶揄い気味に断ろうとする彼女らに対しタツキが言う。
「書店での件で話があるんだ、お姉さん達に拒否権は無いよ?」
其の途端に女子高生らはあからさまに動揺しだした。『何の事か解らない。』『何かの間違いじゃない?』なんとか胡麻化そうと焦る様子が手に取るように解った。
「それを話し合う為に、そこのカラオケボックスに行きましょうか?」
タツキはスマホを見せながら有無を言わさずに先頭に立ち、カラオケボックスへと動揺する彼女らを誘導した。
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カラオケボックスの一室に集まった男子高校生5人と女子高校生3人の間には、お世辞にも楽しそうと言える雰囲気は無かった。
「とりあえず書店でカバンに入れた本、此処に出してくださいね?」
タツキに言われて恐る恐ると言った風情で彼女らはカバンに入れた本をテーブルの上に置く。3人で合計7冊のコミックスを「窃盗」した様だ。
「あのね、万引きとか軽く考えてるんだろうけど、窃盗って立派な犯罪でね『10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金』に処せられるの知らないでしょ?」
彼女らは『10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金』の言葉に驚愕する。
タツキは更に追い打ちを掛ける
「窃盗で逮捕されたなんて学校に知れたら、バレーボール部は活動停止の可能性もあるよね?そうなったら全校生徒とOB達から一生恨まれるよ?」
彼女らは万引きと言う名称に『可愛い悪戯』程度の認識しか持っていなかった為、そこまで自分達の人生に大きな影響を及ばすとは全く考えていなかったようだ。
「ただ、心から反省するんだったら警察には言わないで上げますよ?」
優しく微笑みながら言うタツキの提案に彼女らは飛び付いた、我先にと。
「反省するする!だからこの事は内緒に!お願い!」
「ほんっとうに反省してます!だからこの件は秘密に!ね?ね?」
「黙っててくれるなら何でもするから!ね?」
差し伸べられた手に我先へと縋りつく彼女らにタツキは3枚の名刺を差し出す。
そして『万引き撲滅活動』の活動内容を説明したあとで
「この活動に賛同してもらえるなら心から反省していると判断できます。」
彼女らは差し出された名刺を各々手に取り、そこに書かれた文章に目を通す。
『会費として月5000円支払う事』『支払方法は以下のメアドに電子マネーで送る事。』『会費の支払いは高校卒業までに期間とする。』彼女らは内容を確認した後、小声で相談をして『これ位なら・・・』『学校に知られるよりは・・・』と話し合い
「わかった、この条件飲むから秘密にしてよね?」
「勿論です、この活動に賛同して頂けるって事は心から反省してるって言う証明ですからね。ありがとうございます。」
タツキがそう言った事であからさまに安堵する女子高生らだった。
「じゃあ、あたしらもう帰ってもいいよね、親が心配するし?」
「はい、いいですよ。ただもう一つだけ良いですか?」
タツキの言葉に『まだ何かあるの?』と不満が漏れた彼女らだったが
「ドラッグストアで盗った化粧品、それも置いて行ってくださいね?」
タツキのその言葉に彼女らは顔面蒼白となり、ソウマ達も驚愕した。
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女子高生らが出て行ったカラオケボックスに残った5人。タツキは取り出したエコバッグに彼女らの置いて行ったコミックス7点と化粧品10点を収納した。
これから元の所有者である店に返還するそうだ。これらがタツキ達の信頼と実績に繋がる証拠品となるのだ。
「あ、それとこれ作ったんで使って下さい。」
そう言ってタツキは4つの紙ケースに入った名刺をそれぞれに手渡した。
「これって、彼女らに渡してた名刺だよね?わざわざ作ったんだ?」
イツキが手渡された名刺を見ながら質問する。会費の支払い条件などが表記してある、成程これを先程の様に見せながら説明すれば楽か、これは便利そうだ。
「名刺って案外安いもんですよ?100枚で500円位から作れますから。それぞれのメアドが載ってます、さっきの3枚はコウキさん、ユウセイさん、イツキさんの物を渡しました。ソウマさんは次の機会になります。」
後回しにされた形のソウマだったが、別にそれはどうでも良かった。ただ、一つ気になった件が有ったのでタツキに改めて聞く。
「なぁ、なんであいつらが化粧品を盗ったって解ったんだ?ドラッグストアに寄った所なんて見てないし、そんな暇もなかったはずだが?」
「ああ、それですか。カバンの中に化粧品が見えたからカマかけたんです。」
ああ、そうだったのか。と一応納得した、自分達と違ってそこまで見てるのかと驚かされたし、踏んだ場数が違うのだろうとソウマは思った。
ただ、それでもソウマにはどうしても引っ掛かる物があった。彼女らがコミックスをカバンから取り出すとき、カバンを抱え込むようにして中身を見えない様にしていた場面しか思い出せなかったからだ。『俺の記憶違いか?』
しかし、年頃の女子が見ず知らずの男の目の前で不用心にカバンの中身を見せるとも思えない、いや焦っていた所為でそこまで思いが至らなかったのか。
『タツキには本当に中が見えたのだろうか?』そこにソウマは引っ掛かっていた。




