活動開始
次の日の放課後、タツキの指定した商店街にあるファミレスに集合した。
まだ16時を回ったばかりで腹も減っていない為、フライドポテトを摘まみつつドリンクバーを利用し、タツキが今日の活動の説明をする。
「まず、私立の選伊都学園の生徒が狙い目です。」
「そこって野球とバレーの強豪校だよな?」
「ええ、そうです。だから生徒が窃盗とかバレたら大変な事になります。」
タツキがアイスコーヒーを飲みつつそう説明する、『だからそうなったら自主退学する事になるよ?』って説得するんです、と。
「出場停止とかになったら、全校生徒どころか歴代OB達からも恨まれますからね。だからそんな馬鹿な事をするんじゃないよ、って説得しやすいんです。」
確かに全校生徒から一生恨まれる事を考えたら、月に5000円払う位安い物だ。自分が同じ立場に立ったらと思うと、一も二もなく速攻で払うと約束するだろう。
しかし、そう上手く説得できるのだろうか?と、4人は内心で思っていた。
タツキは人懐っこさとその話術で人の心の中にするりと入り込んでくる。
初対面ではタツキが万引き未遂を防いでくれたとは言え、どういうつもりで声を掛けて来たのかと、身構えていたのが不思議なくらいにいつの間にか警戒心が薄れてしまっていた。気付けば談笑しながら食事を共にしていた位だ。
この説得と言うのはタツキだから上手くいやれているのではないか?
彼らは内心不安に駆られていた。高い飛び込み台から遥か下方のプールに飛び込もうという段になってから若干怖気づいた。あまりの高さに足が竦んでしまったのだ。
せめて何かきっかけがあれば・・・誰かに背中を押してもらえればあるいは・・・。
ソウマがそんな事を考えていた所、店内で騒動が起きた。
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「料理が出てくるのが遅かった所為で大事な商談に遅れたじゃないか!一体どう責任を取るつもりだ!?」
サラリーマンらしき客がレジのところで大声を張り上げて女性店員を怒鳴りつけている所だった。料理が出てくるのが遅くて約束に遅れたと訴えている様だが、そんなに時間の無い時に飯なんか食ってんじゃねーよ、とソウマは思った。
「丁度いい、ユウセイさんスマホで動画撮りながら付いて来てもらえます?」
タツキがそう言いつつ立ち上がる。ユウセイは何をするんだと思いつつ言われた通りにタツキの後をスマホを構えて付いて行った。残った3人は何をするのかとタツキの行動を見守る。
「本部に言って店長をクビにするように言っても良いんだぞ!・・・いや、これは言い過ぎたかな?取り消そう、いいな取り消したぞ?」
サラリーマンは嫌らしく笑う、取り消したと言いつつ『そう言う行動を取る事も出来るんだぞ』と脅してるのと同じだ、クレームを入れるのに慣れた悪質なクレーマーの様だ。店長に迷惑が掛かる事態を恐れた女性店員は泣きそうになりながらひたすら謝罪していた。
「お前が幾ら頭を下げても意味無いんだよ!一体この不始末をどう責任を取るのかと聞いてるんだよ!?この商談で損失がどれだけ出ると思ってるんだ!?」
泣きそうな店員を見て更にクレーマーは調子に乗った。
「早くしないとどんどん遅れるんだぞ!?さぁ!一体どう責任を取るんだ!?」
「へぇ、おじさん白昼堂々ファミレスでカスハラですか?恥ずかしいなぁ。」
タツキが男の背後からあからさまに挑発する。その言葉に男が驚く。
「関係ない奴は引っ込んでろ!俺は店員に説教してるんだ!」
「見てて気分悪いし、脅迫の現場に立ち会ったんじゃ無視できないんですよね?」
『脅迫』の言葉にクレーマーは一瞬怯むが、相手が学生と見て気を取り直す。
「店長をクビにすると言った件か?あれは取り消したから問題ないぞ!?」
「え?取り消せると思ってるんですか?証拠の動画もありますよ?」
「聞いてなかったのか!?はっきり『取り消す』と言ったんだぞ!?」
クレーマーは自分の言った言葉をタツキに言い聞かせる。
「何言ってんですか?おじさんが言ったのは『店長をクビにする。』と『それは取り消す。』ですよ?言葉は上書きなんて出来ないんです、積み重なるだけです。」
落ち着いた口調で真っ向から否定するのと同時に、タツキはクレーマーに対して距離を詰めて生意気そうな表情をわざと見せつける。「頭悪いなぁ」小声で言った。
公衆の面前で学生に詰め寄られて馬鹿にされたと逆上したクレーマーは思わずタツキの襟首を掴んだ。と言うか、タツキがわざと掴ませるように仕向けたとも言えた。
「あ、『暴行罪』確定しました。『2年以下の拘禁、または30万円以下の罰金刑』に処せられますよ?僕達でも『現行犯逮捕』も出来ますし、警察に被害届を出す事で『通常逮捕』も可能です。証拠もあるし逃げられませんよ?」
タツキが襟首を掴まれた時点でソウマとコウキが立ち上がってクレーマーに詰め寄った。自分と同じくらいの体格のソウマと、頭一つ高く体格の良いコウキに睨まれてクレーマーも我に返って大人しく成らざるを得ない。
ソウマはタツキの言った『通常逮捕』の単語に反応した。警察に被害届を出して後日改めて逮捕される、それが『通常逮捕』だ。タツキの襟首を掴んだ瞬間の動画もあり、クレーマーは逃げることが出来ない。・・・こいつは『犯罪者』なんだ。
そう考えた瞬間にソウマの口から言葉が発せられた。
「あんた、証拠の動画もあるんだ逃げる事は出来ないぞ?どうするつもりだ?」
コウキも彼我の立場を理解し『現行犯逮捕』の言葉に反応する。
「現行犯逮捕って警察じゃなくても出来るんだよな?やってみるか?」
コウキの言葉に自分の置かれた立場を理解した男は露骨に狼狽え始めた。
「ちょっと待ってくれ!襟首掴んだだけで暴行罪なんて本気か!?思わず手が出ただけだろう?な?な?」
「この行為は立派な『暴行罪』に当たります。突き飛ばして怪我でもさせると『傷害罪』で『15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金』ですよ。警察呼びますから待っててくださいね?」
タツキはそう言ってスマホを手に取り『脅迫と暴行なんて無茶しましたね?』と言いつつ、画面をタップし始めた。
「待ってくれ!俺が悪かった警察は勘弁してくれ!ちょっと虫の居所が悪かっただけで悪気は無かったんだ!頼むこの通りだ!」
男は態度を急変させて両手を合わせ、拝むように必死で頭を下げだした。タツキはそれを見て成り行きを見守っていたファミレス店員に聞く。
「怖い思いをしたのはお姉さんです、どうしますこの人?」
「・・・あの、他のお客様に迷惑が掛からなければそれで良いです。」
店員がそう言った事に安堵したのか、男は礼を言いつつ詫びの言葉を言う。
「あ、でも見逃す代わりに名刺を置いてって下さいね?」
「は?名刺?どうするんだ?」
男はタツキにその真意を問う。
「二度としないと反省してるなら名刺置いてっても問題ないでしょう?それともまた同じ事する可能性があるって事ですか?もしそうなら・・・」
「解った!もうこんな事はしない!これで見逃してくれるんだろうな!?」
男は慌てて名刺を取り出すとタツキに手渡し、そのまま逃げる様に代金を支払ってファミレスを出て行ってしまった。その後ろ姿を見送ったソウマとコウキはタツキやユウセイ、イツキと顔を見合わせ、思わず笑みが零れた。
「皆さんお騒がせしました、もう大丈夫ですよ。」
注目を浴びていたタツキが様子を伺っていた店内の人達へ声を掛けると、
『よくやった!兄ちゃん!』『見ててスッとした!』『ご苦労様、貴方達。』とあちこちから声が掛かった。その称賛の声に照れながらソウマ達は席へと戻る。
そこへクレーマーに対応していた女性店員と店長がやってきて礼を言った。
「ありがとうございました、お陰様で無事に済んで助かりました。」
「いえ、僕達も見てて不快だったもので。お仕事とはいえ大変でしたね。」
「よくある事なんですが今日は一寸酷かったですね。本当に助かりました。」
店長と女性店員が改めて頭を下げた後、テーブルの上の伝票を手に取り
「代わりと言っては何ですが、今日の代金は結構です。どうぞごゆっくり。」
「わぁ、良いんですか、ありがとうございます。」
タツキは嬉しそうにそう答えると、店長と女性店員は厨房へと戻って行き、その途中で女性店員はタツキに向け小さく手を振った。それを見ていたソウマ達は少し黙った後に、口を開いた。
「・・・そうだよな、相手は犯罪者なんだ、なにも俺達が委縮する事は無いんだ。」
「だな、証拠もあるしクレーマーだって大人しくなるしかないんだ。」
「相手は客の立場でクレーム付けて来るから店も立場上弱く成らざるを得ないけど、俺達は同じ立場なんだから怯む事は何もないよな。」
「それに『窃盗』って『暴行』より罪が重いんだな、さっき聞いて驚いたよ!」
先程まで「窃盗」の犯人に支援の説得をする事が出来るかどうかと考えていたが、クレーマーに対峙した一件で不安は解消してしまった。大声を上げる大人の男に対しても堂々と対処出来たのだ、高校生を相手にするなど何の問題があるだろうか。
なによりも声を掛ける相手は此方で選べるのだ、面相臭そうな相手は無視すればいい。タツキが店から報酬を得ないと言ったのはそんな理由もあるのだろう。
「なんか完全に吹っ切れたな、後はタツキに手本を見せて貰えば問題ないな」
「そうだな、なんか凄く上手く行く気がして来たぞ。」
そして彼らは「万引き撲滅」を目標に活動を開始した。




