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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
肥前化け猫騒動

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肥前化け猫騒動・了


「さて、今回の騒動も無事解決した事ですし私達はこれで失礼します。」

三毛猫の器の処遇も決定し、旧家の古物の再鑑定も好条件で再考される事になり、全てが良い結果に終わった事で、政光は隆興へとそう告げた。


「もう少しゆっくりして行ったらどうですか?料亭で一席設けたいと考えているんだが、昭和天皇もご宿泊された由緒ある料亭が佐賀市にありまして。」

政光は義経と視線を交わして、隆興へ応える。


「ありがとうございます、しかしこの後も戻ってからの予定がありましてね。それにこの後に佐賀の高伝寺へ行ってお参りをしてこようかと。」

「高伝寺ですか?5日まで公開される大涅槃図でも見に行かれるのですかな?」

義経が隆興の質問に答えた。


「高伝寺へは騒動の前に領内を騒がせる事になるかもしれない事を御断りに行ったんですが、このお寺には鍋島家と龍造寺家のお墓が在るんです。藤八郎高房公の墓もここにありますので、今回の件をご報告に行こうかと。」

・・・そう言う事ですか、と隆興は神妙に口にした。


「私も近いうちに高伝寺へお参りに行かないといけませんな、猫の器を我が家で大切に守っていくとお伝えしなければ・・・。」

「私も一緒に行く!猫ちゃんに助けて貰ったのを御礼に行かなきゃ。あ、それと大学受験合格しますようにって、お願いしに。」

「美緒、そんな事お願いされても高房公もお困りになるでしょう?」

夫人の言葉に美緒が『ちぇー。』と言い、この場が笑いに包まれる。


この場の家族の雰囲気に、肥前までやってきた目的の一つが達成された事を実感した義経は、政光に対して目配りをした。政光が改めて隆興へ伝える。


「そう言う事ですので我々はこれで失礼したします。」

「そうですか、随分とお世話になりました。またこちらへ来られたら是非お立ち寄りください。その時こそ一席設けさせて頂きますよ?」

政光と義経と連れ立って玄関へ向かうと、山鼡一家も見送りに出てきた。


レンタカーに乗り込み、シートベルトを締め、窓を開ける。

『それでは失礼いたします。』と見送る山鼡一家へと別れの挨拶をすると困難を乗り越え絆の深まった家族が手を振り、車が見えなくなるまで見送ってくれた。



────────────────────



『この度は諸問題を解決する為とは言え、勝手にお名前を借りて化け猫騒動をでっち上げた事、真に申し訳ありませんでした。』


高伝寺墓所内の龍造寺高房の墓に向け、義経と政光が今回の騒動に勝手に名前を使った事を詫びていた。


高房の子が母親の身分の低さから龍造寺嫡男として認められず、結果的に会津藩預かりとなるのは史実だが、それに化け猫騒動を絡めたのは義経の創作だった。


謝罪する義経に対し、龍造寺高房の墓は何も言わない。今回義経が創作した部分以外も龍造寺家を貶めるような表現は一切しておらず、付け足した部分も龍造寺家に起きた悲劇を知らしめるものなので、特に苦情もないだろうという見込みはあった。


しかし、人々の念や想いの集まるこういう場所では何が災いとなって降りかかるか解らない。義経は努めて丁重に低姿勢で謝罪をし、結果的にとある一家が歴史の隅に忘れ去られていた『長法師丸とその母親』の菩提を弔う事となった事を墓前に報告し、観光客で賑わう高伝寺を後にした。



駐車場に停めたレンタカーに乗り込んだ直後、義経は途方もない疲労に襲われた。

シートを少し倒して体を預け、そのまま目を瞑る。車はそのままゆっくりと発進して道路を進む。


少し進むと信号のない横断歩道に小学校低学年位の子供が二人、手を挙げて道路を横断しようとしていた。それを見ていた政光は停止線で車を停めた。対向車がこちらに向かって来るのが見えるが止まる気配はなかった。


その対向車の運転手の目の前にいきなり恰幅の良い大柄な髭面の男が現れ、横断歩道の手前で仁王立ちとなり運転手を鬼の形相で睨みつけた。


『ひっ!?』

運転手は急ブレーキを踏み、髭面の男の目前で停止したが男は運転手を睨んだまま微動だにしない。その後ろを小学生二人が手を挙げたまま横断歩道を渡って行く。渡り終える直前、いつの間にか男は横断歩道上から消え失せていた。


『キツネ』につままれたように呆然としている運転手の対向車線を、政光達の乗ったレンタカーがすれ違う。運転手はそのまましばらく動けずにいた。


バックミラーでその様子を見ていた政光が義経に尋ねる。


「義経君、君、今なにかやったのかい?」

「ええ、横断歩道上に政光さんを憤怒の表情で仁王立ちさせました。」

「えー?僕じゃなくて他の誰かの幻でやってよ、恥ずかしいじゃないか?」

良いじゃないですか、旅の恥はかき捨てって言いますし、と義経。


「あー、今回凄ーく疲れました。」

「はは、今回は長時間化かしっぱなしだったから無理もないよね、」

政光の慰めの言葉に義経は不満を晴らすようにぶちまけた。


「まったく、ドンキで買った装束が安っぽいコスプレ衣装にしか見えませんでしたからね、その誤魔化しの段階からお稲荷様降臨して化け虎調伏までの約一時間、こんなに幻術を使い続けるお芝居なんて今までほとんどやりませんでしたからね。」

義経はそう言いつつ、シートに深く座り直し両手で顔を覆う。


「大体、元はと言えばお稲荷様が『佐賀で困っている少女を助けろ。』って依頼してきたときから、嫌な予感はしてたんですよ。」


『少女の家庭環境を改善しろ。』『父親の生業を真っ当な物にする為性根を叩き直せ。』『少女には身を隠すよう告げてある。』『方法は問わない。』って、お膳立てだけはやってあるから後は全て任せるって、投げっぱなしじゃないですか!、と義経。


今回の依頼だと荒事は無い為、パワータイプの「人狼」五月に出番はなく幻術を得意とする「人狐」義経の出番となった。「管狐」使いの弥生が居れば情報収取は捗るが、基本五月のお目付け役でもある彼女は五月と切り離せない。そういう理由で政光と義経の二人旅となったのだった。


「事前に少女の家の周囲を調べたら、北の方に神社仏閣が多かったから、神仏の祟りって事にしよう、何なら烏森稲荷様の祟りにするかってタカを括ってたのに。」


「いざ山鼡氏と夫人に詳細を尋ねたら『猫の幽霊』ですよ?『猫』!?神仏を勝手に祟らせるな、って事なんでしょうけど、そこから仕切り直しですよ?」

義経は『方法は問わないっておっしゃったのはどちら様でしたっけね?』とぶつぶつ言っていた。


「でもまぁ、うまい具合に纏まったよね?猫の怨念をでっち上げる事で山鼡氏も心を入れ替えて真っ当な商売する事になったし、旧家の古物の鑑定結果も良い方に変わったし、山鼡一家の家族仲も良くなるし、ね?」


「そりゃ苦労しましたからね・・・今回は最初から『これは幻だ!』って言い続けてきたからよかったものの、反対に『これは現実だ!』って言ってたら細かい粗に気付かれて見破られてたかもしれません。山鼡氏疑り深そうだったし。」

義経が化け猫騒動の際に『これは幻だ!』と言い続けていたのはそのままの意味だったのだ。幻である事が身を守るのなら、粗を見つけた方が逆に安心できる、そう言う心理を利用したという。


義経はそれまでぶっちゃけていた声のトーンを変えて神妙になる。


「今回、最初から烏森稲荷様の掌で踊らされていたようにも思えるんですよね。」

「・・・と言うと?」


「美緒さんがお稲荷様のお告げを聞いた最初の段階で『猫の幽霊』って言葉が出てたんですよ?今回の件は化け猫騒動に絡めて解決するのが正解で、私がそこにたどり着けるかどうか試されてたように思えるんですよね。」

義経の言葉に政光は、そうとも思えるけどどうなのかなぁ?と呟く。


「もう一つあるんですよ、ホームセンターで美緒さんと会った時、枝豆の苗の事を昔『畔豆』って呼んでいたって言ってたじゃないですか。」

「ああ、美緒さんとの合言葉だったんだよね?『畔豆』。」


政光が当時のやり取りを思い出す。政光は目の前の派手な格好の女性が美緒であることは匂いで解っていたが、監視カメラに映る場所でもあるし、あえて黙って様子を見ていた時の事だ。


「あれ、合言葉でも何でもないんですよ。政光さんがスイカに関心を持ったから枝豆の方が簡単ですよって、何の気なしに言っただけなんですよね、『畔豆』。」

「ええ?そうだったのかい?」


つまりあの時、あの場所に義経と政光が来て「畔豆」の会話をすると言う事を烏森稲荷様は事前に察知していて、それを美緒に教えて確認した後に合流するように仕向けていたと言う事か、全てはお見通しだったと言う訳なのか。

もしかすると今回の件は義経に対する一種の試験だったのかもしれない。


「全部、掌で踊らされてて『よく出来ました。』って言われてるようでしっくりこないんですよね。そんなことまで考えてたら凄く疲れました。」

「そこまで疲れてるんなら寝てても大丈夫だよ、なにかあれば起こすから。」

そう言う政光に、義経は思い出したように車載のナビを操作し始めた。


「うん?ナビなんて使わなくても駅まで大丈夫だよ?」

「いえ、せっかく佐賀まで来たんです、祐徳稲荷様にご挨拶して行きましょう?」

「あーここまで来たんだ、日本三大稲荷の祐徳稲荷様にご挨拶しない手はないね。」


政光はそう言って『祐徳稲荷神社』に向けて開始されたナビの指示に従い、レンタカーの進路を変えた。任務が無事終了して、これからは休養だと考えると自然と気分も楽になった。


「ご挨拶が済んだら、其の足で嬉野温泉に行って疲れを癒しましょう。」

「嬉野温泉!いいねぇ。一泊位したってバチは当たらないよね?」

温泉好きの政光は一も二もなく同意した。ゆっくりする分留守番の二人にはお土産を余分に買っていかないといけないだろう。


「二人には佐賀土産に小城羊羹と松露饅頭でも買っていくとしよう。」

政光の提案に義経は言う。


「私は両方好きですけど一寸和風に過ぎますね、嬉野茶も買うとして・・・。」

「じゃあ、女性陣には一寸洋風に佐賀錦かな?」

「弥生さん好みですね、五月さんは博多通りもんが良いでしょう。」

どうせ一箱じゃ足りないって言うから、五箱位買うとして・・・と、義経。


「佐賀錦のほう足りないって言わないかな?大丈夫?」

「五月さん子供舌ですからねぇ、上品な甘さよりがっつり甘い方が好みですよ?」


そんな会話をしつつレンタカーは祐徳稲荷神社に向け国道444号線を進んだ。


─── 肥前化け猫騒動・了



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