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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
肥前化け猫騒動

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器の正体


タブレット端末のディスプレイ上に一つの候補の器の画像が表示された。


隆興の説明していた磁器の茶碗の画像だ、スワイプすると次の候補が現れる。

どれも使い込まれたような跡があり、お世辞にも価値のある物だとは言い難い。

隆興が二束三文の値を付けただけでも奮発した方なのかもしれない。


義経がテーブルに置かれたままの端末のディスプレイをスワイプし、一つの器の画像を指さした。五個の候補の中でも最も価値の無さそうな古びた陶器の筒茶碗だった。


「おそらく、これでしょう。」

義経はあっさりと言った。他の四個にはほとんど目も呉れず即答した為


「これがそうだと言うのには、どんな根拠が?」

隆興が義経に問うと、彼は右手で目の前の嬉野茶の入った湯呑を取り


「まず、茶碗と筒茶碗は形状が違いますので当然持ち方が変わります。」

義経の右手は湯呑を包み込むように、親指と他の四本の指と掌で持って見せた。

『湯呑だと、こう。』そう言った後に湯呑をテーブルに置いて、空いた右手で茶椀を持つ仕草をして、『口の広い茶碗を片手で持つとこうです。』と、底の高台を親指以外の四本の指で支え、親指で口を抑える様にする。


「藤八郎の白湯の飲み方からして、口の細い湯呑、筒茶碗だったはずです。」

「主任さん、あんた白湯の飲み方まで覚えてるのか?凄いな。」

義経の説明に隆興が感心したように言う、義経はそれを即否定した。


「いえ、白湯を飲んでいる姿勢で湯呑を使っているとしか思ってませんでした。」

「なるほど、では磁器ではなく陶器をそうだと決めた根拠は?」

「それこそ山鼡さんの方が御詳しいでしょう?」

『私の方が・・・?』義経の返答に隆興は戸惑う。


「日本で磁器が作られ始めたのはいつ頃からでしょうか?」

「日本の磁器は1616年頃に有田で焼かれたと言われているが・・・?」


1616年頃に肥前の有田の泉山で良質な陶石が発見された為、有田で磁器が作られ始めたのが日本で最初の磁器の有田焼の始まりだとされている。有田で焼かれた焼き物を伊万里港から出荷した為、伊万里焼とも呼ばれた。


「藤八郎高房が亡くなったのは1607年です。磁器は未だ存在していませんでした。」

「・・・そう言う事か、私は龍造寺の歴史には疎かったから気付かなかった。」


当時、明や朝鮮の磁器は高級品で一般に出回るモノではなく、国産の磁器が庶民の手元に届くには江戸中期以降になる。問題の器は日本で茶の湯が広まる以前の、生活雑貨の一つの様な非常に簡素なものだった。


「こんな素朴な物でも、長法師丸の母親にとっては幸せだった時の何物にも代えがたい大切な思い出の品だったのでしょうね。」


義経の説明に隆興はディスプレイ上の素朴な焼き物を見て何事かを考えていた。

隆興の沈黙に夫人が各々の冷めた茶を新しいものに取り換えた。義経は礼を言って一口それを飲んだ『ああ、本当に良いお茶だ。』


「主任さん、三毛猫が満足するようなこの器の扱いとはどうすれば・・・?」

「そうですね、三毛猫にとっては永い間あの蔵の中で過ごして来て、三毛猫にとっての世界とはあの蔵の中に限られた物なのでしょう。」

義経は湯呑を両手で包み込むように持ったまま、少し考え


「まずはあの蔵の古物の価値を全て正当に鑑定し、其の上でこの器に一番高い値を付けるのが良いかと思います。」

「名物の様な扱いまではしなくてもいいと言う事ですかな?」

「ええ、三毛猫にとっては自分の『世界の中』で一番尊いものだという、それが一番大事な事なのです。ですから古物の最高額が50万円だったとすると、51万円でも良いのです。猫にとっては金額の多寡は問題ではないのです。」


「じゃあ、古物の買取金額って大幅に増える事になるの?」

それまで事の成り行きを黙って聞いていた美緒が、父親に確認するように問うた。


「ああ、そうだな。以前は100万円と少し位の値を付けたが、猫の器の分を上乗せすれば多分200万円以上になるだろうな。」

「やった!これで春菜と一緒に福岡の大学に行けそう!」

無邪気に喜ぶ美緒を母親は諫める


「一緒の大学に行くにはまず試験に合格しなきゃいけないのよ?」

「解ってるって、目標がはっきりしたからこれでもっと頑張れるから。」

喜ぶ愛娘を見て目を細めた隆興は、改めて義経に質問をした。


「・・・この器なんだが、うちで大事に保管しておいても良いんだろうか?」

「ええ、売ったりするよりその方が良いでしょう。折角御縁も出来た事ですし、三毛猫も化け虎からあなたを守るために一緒に戦ってくれたようなものです。家で祀れば災いを追い払い、幸を呼び込んでくれるでしょう。」

義経の言葉に美緒が反応する。


「じゃあ、毎日合格祈願したらご利益あるのかな?」

「美緒さん、祈願するのは良いですが、自分で努力をする姿勢を見せないと幸運を引き込む事は出来ませんよ?『天は自ら助くる者を助く』です。」

義経は続ける。


「こういった「あやかし」とか「精霊」、「神」と呼ばれるモノは、祀る者次第、置かれた環境次第で、災いにも幸いにもどちらにでも変化するんです。」


『だから、日々感謝を忘れずに周囲の人とも日頃から助け合い穏やかに過ごす事で災いは払われ、幸福が訪れるんです。人から恨まれるような事をすると、その恨みが災いを呼び込む事になりますよ。』との義経の言葉に隆興が呟く。


「・・・今までの私の耳に痛い言葉だな・・・肝に銘じておくよ。」


こうして猫の器は山鼡家の守り神として祀られる事となった。




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