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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
肥前化け猫騒動

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一夜明けて


化け虎との戦いから一夜明けて翌朝の9時、山鼡邸に義経と政光が訪れた。


昨夜は幻との戦いであったとは言え、終わってみれば精神的にも肉体的にも疲労困憊していた所為で、部屋の後片付けは後回しにして一旦出直したのであった。

門扉のインターホンを使って挨拶をし、待つこともなくドアから夫人が現れ出迎えてくれた。


「お待ちしていました、さぁどうぞお入りください。」

「ありがとうございます、昨夜は散らかしたままですみません。」

「いえ、私達もあの後気付けばいつの間にか寝てしまっていて、昨日の事がまるで夢の中の事だった様に思えて、不思議な気持ちなんです。」


玄関から上がると先日とは違い応接室ではなく、リビングダイニングに通された。

普通リビングダイニングは家族の寛ぐ空間であり、部外者を招く事は稀だ。

しかし山鼡家では二人をこの空間に招き入れてくれた、昨夜の『化け猫騒動』を共に乗り越えた者同士の親近感から来たのだろう。


テーブルには隆興と美緒が座っていた。美緒は笑顔で手を振っている


「やぁ、お二人供、昨日は本当に世話になったね。」

LDに入った二人に隆興は椅子から立ち上がって近寄り、右手を出して握手を求める。政光が右手でその手を握ると隆興は政光の右手を両手で包み感謝を表した。

義経にも同じく握手をして、テーブルに着くように進めてきた。


最初にこの家に訪れた時とは大違いの対応だ、まぁそれも共に化け虎と戦った戦友としての親愛の情の表れなのは間違いない。テーブルに着くと夫人が香ばしいお茶を淹れて出してくれた。二人は香りを楽しみつつ一口飲む。


「美味しい、流石は本場の嬉野茶ですね。」

「えぇ?凄い、そんな事解るんだ?私、何を飲んでも一緒に感じるんだけど。」

義経が一口飲んで嬉野茶だと解った事に、美緒は素直に驚いた。


「嬉野茶って製造方法が特殊で渋みが少なくて美味しいんですよ。そしてこのお茶は釜炒り玉緑茶ですね、嬉野茶全体の数%しかない希少なお茶です。」


一般的な煎茶は茶葉を針のように真っすぐ伸ばす仕上げをするが、嬉野茶ではその仕上げを敢えてせずに曲がったままの形状をしている。この形状の為に茶葉がゆっくりと開き、旨味が損なわれにくいのが特徴となっている。

更に現在主流の茶葉を蒸すのではなく、伝統製法の釜で炒ると言う手間のかかる方法で作られているのが、非常に希少な『釜炒り玉緑茶』である。


「ええ?そんな珍しいお茶だったの!?全然知らなかった。」

驚く美緒に苦笑しながら隆興が言った。


「本当にお前はお茶の味が解らないんだな、家では普段は普通の嬉野茶を飲んでいるが、この釜炒り玉緑茶は、正月とか大事なお客さんが来た時しか飲んどらんよ。」

普通の嬉野茶でも十分過ぎる程に美味しいからな、と隆興が言う。


「山鼡さん、なんだかんだと言っても嬉野茶を常用するのは地元愛が強いからなんでしょうね?」義経が隆興に確認するように言った。


「何と言っても父の代から居る町だ。私の生まれた故郷だしな。」

「あの三毛猫を襲った黒い霧、つまり貴方に対する怨念ですが、二度に渡って現れて二度目の方が強力でした。一度目のモノは佐賀圏内でのモノで、二度目は福岡圏内の怨霊だったのではないかと思います。」

義経の説明を黙って聞いていた隆興は、茶を一口飲んでから言う。


「そうか・・・事業は福岡の方で手広くやっているから、それだけトラブルからくる恨みが多いと言う事か・・・。」

「今回は化け猫とお稲荷様のお陰で難を逃れましたが、これ以降は事業を止めろとは言いません、ただ少し手控えた方がよろしいかと。」

「そうだな、今までは我武者羅に父親から受け継いだ事業を拡大しようとしていたが、これからは真っ当な商売を心がけるよ、心を入れ替えて・・・」

そう言った隆興は、なにかを思いついて言葉を訂正する。


「いや、もうすでに心が入れ替わったと思うよ。あんな化け物を目の前に恐怖して、そしてお稲荷様の御力で助けて頂いたんだ、変わらない方がどうかしている。」

そう言って義経と政光と目を合わせた隆興は穏やかに笑った。


「そうそう、貴方達に相談したいことがあるんだが良いかね?」

「ええ、私達で良ければご相談に乗りますよ。」

義経がそう答えると、隆興は椅子に座り直して姿勢を正した。


────────────────────


「実はあの猫の憑いている器、あれがどんな形状のものか思い出せないんだ。」


隆興は意外な事を口にした。眼前で繰り広げられた龍造寺高房とその子が器を愛用する光景、まるで本人が目の前に居るかのように錯覚するほどだったのだが、どうにも器の形状が思い出せないと言う。


「ええ?パパ、殿様と子供が使ってたじゃない?・・・あれ?どんな色だっけ?」

話に割り込んできた美緒もいざ器の形状を思い出そうとすると思い出せないと言う。


「ご安心ください、斯く言う私も覚えておりません。」

覚えていないのに安心しろとはいい加減だが、義経が言うには実際に器の部分だけぼやけた様な状態で在りし日の光景が再現されていたらしい。


これは猫自身の記憶をもとに再現された光景だった様だが、猫にとって大事なのは器の存在であり、器の形状などは取るに足らぬものとして視ていたので、ああいう再現の仕方のなったのだろうと言う。


「じゃあ、引き取った古物の中のどれが正しい器なのか解らないと言う事か。」

「ちなみに候補となる器はどんなものが在るのですか?」


隆興が古物のリストを確認したところ、候補としては茶碗の形状のものが三点と湯呑が二点ある様だ。茶碗は磁器が二点、陶器が一点、湯呑は磁器が一点、陶器が一点あると言う。


「はっきり言って傷が付いていたり、少し欠けたりしていて焼き物としての価値は無いに等しいモノばかりだ、だからこそ質素な母子のモノとして候補に挙げた。」


隆興はそう言い、バッグから取り出したタブレット端末をテーブルに置いた。



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