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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
肥前化け猫騒動

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肥前化け猫騒動・6


三毛猫がその場で苦しみ始め、丸くなって痙攣し始めたかと思う間もなく、建屋を揺らす衝撃と共に黒い霧の様な物が室内に流れ込んできたのである。


「これは!?新たな怨念!?」


義経の叫びに呼応するかのように黒い霧はその数を増し、もがき苦しむ三毛猫の体内へと吸い込まれていった。やがて黒い霧を全て吸収した三毛猫はその場に立ち上がり隆興に向けて怒りの視線を向ける。先ほどまでの穏やかに消えて行こうとしていた三毛猫とは全くの別のモノと成り果てたかの様だった。


「これは何なんだ!?何が起こっているんだ!?」

隆興は夫人と娘をその背に庇いながら化け猫の変化に混乱する。


「これは・・・生霊!?なんて数だ!?まさか!?」

義経は目の前の現象の原因に思い当たると、振り返り隆興に問い質す。


「あなた、仕事上のトラブルで相当多くの人の恨みを買ってますね!?」

「!?し、仕事上金銭トラブルは多いが、こんなに恨まれる覚えは・・・」

パチンコ店、高利貸し、古物商を経営する隆興には金銭トラブルが付いて回る。


パチンコに限っても、負けた本人だけでなく生活費を使い込まれたその家族からの恨みなども当然あろう。各業種での大きな恨みに限らず小さな恨みの積み重ねもあって、この異様な総量の恨みからなる生霊が集結している、と義経は言う。


「この生霊たち、普段からあなたに対して恨みを晴らそうと周囲にいたようですが、恨みを晴らす手段が無い為、各々がバラバラに行動していて害が少なかったようです。しかし、この猫があなたに対し攻撃をしかけた事で、この猫を利用してあなたに復讐する方法に気付いてしまったんですよ!」


化け猫自体の恨みは晴れたが、隆興に恨みを晴らす想いの受け皿として利用されてしまっているのだと言う。恨みの念にその身体を囚われた化け猫は先程までの巨大な肉食獣の姿を更に凌駕した存在へと変化して行った。


人間の大人程だったその身体はさらに大きさを増し、その頭部は天井に付こうとする程になり、その前腕も更に巨大化しゴリラの様な筋肉の塊と化す。

その化け猫、というより巨大な化け虎と言った風情の化け物が襲い掛かって来る。


「これは幻です!先程のモノより強力になっていますが絶対に信じないで下さい!」

義経の叫びに山鼡家の人々は幻だと思い込もうとするが、眼前の巨大な化け物には本能的な恐怖感が呼び起こされてしまう。


化け物の突進に対し政光が防御を試みるも、巨大な腕部の薙ぎ払いによってその身体が大きく弾かれる。プロテクターは弾け飛び、ボディアーマーは大きく切り裂かれてしまっていた。しかし、そのダメージはあっという間に修復される。


「!?どういう事だ!?ダメージを受けていないのか!?」

「この攻撃自体も受けた本人が幻だと信じ切っているからこそ、無効にできるんです!あなたも絶対に信じないでください!」


怨念に依る攻撃に対する恐怖心を、精神力で克服しさえ出来ればあらゆる攻撃は無効にできるとし、しかし怨念の見せる幻の影響力が勝れば命の危険もあり得ると義経は言う。


政光の拳による攻撃を易々と受ける化け物は、政光に爪による追い打ちを掛けた。

再びボディアーマーを切り裂かれるが、今回はダメージが元に戻る事は無く、更には切り裂かれた部分から鮮血が噴き出した。


「ぐあ!?」


怨念の強さが政光の精神力に勝った為か、政光の身体は力を失い大地に倒れた。

一般の人間より精神力が強いはずの政光すらねじ伏せる程に怨念が勝った。


「所長!そのまま寝てて下さい!精神力なら私も負けませんよ!」

変わって義経が化け物に相対するが、彼は化け物相手にその両手の掌を向けた。


『要はイメージ、化け物を圧倒する場面をしっかりイメージする事です!』

義経はそう言いつつ、己の掌から気や波動と言ったモノが噴出するイメージを強く思い描き、気による化け物の動きを拘束する事に成功した。


先程まで圧倒的な力で暴れまわっていた化け物ではあったが、義経の精神力に分があったと見えて目に見えぬ何かに拘束されたかのように、その身体も小さく押し込まれつつあった。


『良し、いける!』

義経がそう確信した時、何処からともなく黒い霧が大量に現れ、化け物の身体にみるみる取り込まれていった。化け物は新たに得た力で今にも拘束から抜け出そうとしていく。


「!?まだ、これ程の生霊が居たのか!?」


義経が更に拘束する様を強くイメージするも、化け物の力がそれを上回ろうとする。

黒い霧を取り込んだ化け虎の身体は膨れ上がり、その拘束が引き剥がされていく。

義経の精神力を化け虎が上回ろうとしてその時、倒れていた政光が隙をついて化け虎に襲い掛かる。


幻の所為なのか、その身体は大きな秋田犬の様な姿となり化け虎の喉元に喰らいついた。溜まらず怯んだ化け虎にさらに追い打ちを掛けるべく、秋田犬は体を回転させる所謂「デスロール」で喉笛を食い破ろうとする。が、化け虎は瞬間的に黒い霧の姿となってデスロールを無効化し、体勢を大きく崩した秋田犬に対し再び化け虎と化してその剛腕を薙ぎ払った。


身体を大きく切り裂かれた秋田犬は大地に伏せたまま、動けなくなる。秋田犬の脱落を確信した化け虎は義経に向き直り、その身体を大きく救い上げる様に化け虎の右腕が振り抜かれ、鮮血と共に義経の身体が空を舞い、大地に叩き付けられた。


幻の為か義経の身体は金色の毛を持つ狐の姿となったまま、動けずにその場で痙攣していた。眼前で為す統べなく倒された二人に対しても非力な凡人の自分に一体何が出来ると言うのか?

隆興は恐怖しながらも一歩一歩近付いてくる化け虎に対して、震える足を叱咤し立ち上がり夫人と娘を背後に庇い魔の前に迫った化け虎を睨み返して叫ぶ。


「妻と娘には手を出すな!お前が恨みを晴らす相手はこの私だろう!?」


思っていたよりもはっきりと力強く声が出た。化け虎の動きが一瞬止まる、化け虎はその熊の物よりも遥かに凶悪な爪の生えた掌を振り被り、隆興に対して振り下ろす。


『!!!』

隆興はその身体を袈裟斬りに切り裂かれたが、痛みはほとんど感じなかった。

『!?やっぱり幻か!?しかし、この恐怖は・・・いや、幻だ!』

今の攻撃に対してはなんとか抗う事が出来た、精神力がわずかに勝ったのだろう。

しかし、次の攻撃に耐えられるのか!?なにか心の拠り所となるモノが無いのか!?


化け虎の追撃の左腕が振り下ろされる瞬間、隆興の脳裏につい先ほどの光景、年老いた三毛猫が満足そうに頷いて消えかかる様が再生された。


『そうだ!私は龍造寺の母子と、あの三毛猫の為にも生きて鑑定をやり直さなければならないのだ!!邪魔をするな!この化け物め!!』


妻と娘を庇って死ぬのは構わないが、それでは龍造寺の母子の想いに不当な評価をした償いをしないまま死ぬわけにはいかない!!そう心の中で強く念じた瞬間。


『!!??』

いきなり化け虎の身体が硬直した、振り下ろされようとした腕が何かに阻まれ宙で固定される。黒い霧は目の前の強欲な人間の息の根を止めようと躍起になっているのだが、その器となっている化け猫の身体がどうしても動かない、目の前の人間を殺させまいと抵抗しているのだ。


眼前で苦しみだした化け虎の表情に、穏やかに消えて行こうとしていた年老いた三毛猫の面影を見た美緒は、自分達を助ける為に苦しんでいる猫をこの状況から救ってくれる何者かに助けを求める。


『誰か、この猫を苦しみから救って!!誰でもいい!神様!』


その瞬間、暗闇が支配するこの空間に光が満ちた。


突然化け虎の頭上から射した強く優しい光によって化け虎の動きが封じられ、その光を発する存在が天空からゆっくりと降臨してきた。その光が化け虎の頭頂部に振れたかと思うと、化け虎を構成していた黒い霧は霧散して後には小さな年老いた猫が残った。


その白い光は徐々に姿をはっきりとさせ、神聖な光を身に纏った白い狐の姿となる。


「・・・・白い狐・・・?」

「・・・お稲荷様の御使い?」


その白い狐の放つ光に浄化された怨念が完全に消滅したの確認すると、狐は山鼡家の人々に優しく微笑みかけた後、その姿は跡形もなく消えていった。


年老いた三毛猫もよろよろと体を起こすと、山鼡家の人々に向けて小さな声で鳴いたかと思うとその姿が徐々に薄れ、やがて完全に消えていった。


後には養生テープの輪の中で寄り添う家族の姿と、精魂尽き果てた様子の装束姿の政光と義経が肩で息をする姿があった。



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