妖(あやかし)
山鼡邸へと向け動き出したレンタカーの中で、義経は美緒に話しかけた。
「お母さまから頂いた画像と雰囲気が全然違うので驚きましたよ。」
提示された画像では、美緒は何処にでもいるショートカットの黒髪の化粧っ気のない普通の女子高生と言った雰囲気だった。それが明るい色のレイヤーカットのウィッグにヴィジュアル系の服装に身を包んでいる。とても同一人物とは思えまい。
「あ、これ友達のお姉さんが美容師で、普段着ているお洋服なんです。友達の家に居たときにお姉さんがこの格好で家に出入りして、私がこの服に着替えて時々変わって外出したりしてたんです。結構バレないものですね。」
警察は張り込んでいたとはいえ、遠目で家を観察していた程度なのでバレなかったのだろう。もともと犯罪者を探している訳でもなく四六時中張り込み続けるわけにもいかず、人員も限られている中これで美緒だと判断する方が無理だろう。
「あの、家を出る時は梯子を使ったんですか?夜、暗い中で梯子を降りるのはかなり危険だと思ったんですが。」
「あ、いえ、最初は梯子を使おうとしたんですけれど、数日前に梯子を立てかけて見たら結構高くて断念したんです、部屋のドアの鍵はスペアキーを作ってそれを使って外から鍵を掛けて、そっと玄関から出ました。」
「随分と念入りに偽装工作をしたんですね、そこまでする必要があったんですか?」
「それは、『烏森稲荷様』が「猫の幽霊」を見た事にして、その「猫の幽霊」が関わっている様な痕跡を残して身を隠すように、というお告げがあったんです。」
「・・・その「猫の幽霊」のお告げですが、失踪する何日も前からの事ですよね?」
義経は少し考えた後に美緒にそう尋ねた、何か引っかかったようだ。
「はい、一週間くらい前から『猫が居る』『猫の声がする』って言い続けて準備していました。」
「・・・そうだったんですね、解りました。ありがとうございます。」
もともと山鼡邸からホームセンターまでは車で数分しかかからない距離だった為、すぐに車は山鼡邸へと辿り着き会話はそこで終了した。
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山鼡邸に着くとすぐに夫人が出迎えてくれ、美緒と数日ぶりの再会を果たした。
「美緒、お友達とお家の方に迷惑掛けなかった?」
「うん、大丈夫。小田さん家の古物の件を何とかする為って言ったら進んで協力してくれたよ。」
「そう、良かったわね。お稲荷様のお告げの通りみたいね。」
夫人も「猫の幽霊」から実家に帰るように言われたと言っていたが、夫人も「烏森稲荷様」からのお告げで娘が無事なのは知っていたようだ。小田さんとやらの旧家の古物の処理のトラブルの件で夫人も肩身の狭い思いをしていたのだろう。なにしろ夫人もこの町で生まれ育った住人なのだから。
「さて、奥様、こちらには和室が在りますよね?そちらをお借りしたいんですが。」
「あ、はい。12畳と8畳の和室が続きで襖を外せば20畳になります。来客用の用途なので普段は使っておりませんが、そちらで宜しいでしょうか?」
「あ、それだけ広ければ十分ですね、なにしろ化け猫と対峙しないといけないので、広い方がやり易いです。」
『化け猫』の言葉に夫人と美緒が驚いて顔を見合わせた。
「・・・・あの、うちに化け猫が出るって事ですか?」
「正確には妖が見せる幻の様な物ですよ、妖には生きている人間に直接危害を加える事は出来ない為、幻を見せて現実だと思い込ませようとするんです。」
義経が二人を安心させようと、妖との対峙の内容を説明した。
狐や狸が人を化かすと言うが、人には直接干渉できない為に幻を見せて混乱させるのだと言う。その見せられた幻を人が現実だと思ってしまうと、人の心とは不思議な物で「殴られた」と信じてしまうとその箇所に痣が出来たり、刃物で刺されたと思えば痛みを感じたり、時には実際に刺し傷が出来て血を流す事もあると言う。
「だから何が起ころうとも『これは幻だ。』と何も信じずに全てを疑って下さい。そうすれば相手はあなた達に何もする事も出来ませんから。」
何もする事が出来ないとは言うが、妖がこちらを化かすと言う事がどういう事なのか解らず、不安を表情に出して困惑している親子に、義経は続けた。
「まぁ、映画館で4DXの動物パニック映画を見ているような体感だと思って下さい。叫び声や風圧を感じるかもしれませんが、所詮は映画だと思えば大したことはありませんから。」
夫人と美緒は義経の説明に更に困惑が増したようだが、義経はそれでも続けた。
「大丈夫ですよ、私たちを信じて下さい。」
「・・・はい。」
不安は全く消えなかったが、美緒は二人がお稲荷様の使いなのだと、その事実に栂りつくように、自分を納得させようとしていた。




