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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
肥前化け猫騒動

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「畔豆」(あぜまめ)


図書館から退出した義経はスマホを取り出して時間を確認した、昼過ぎだ。

隆興へ連絡する、数回コール音が鳴り、少し慌てた様子の声で返答があった。


『もしもし!主任さんの方か!?何か進展があったのか!?」

少し離れた政光にも聞こえる程の音量で五月蠅かったのか、義経はスマホを耳から離してついでに顔も背けてから間を置いて返答する。


「はい、山鼡さん、娘さんの居所が解りました。」

『美緒は何処にいた!?無事なのか!?何故解った!?どうして居なくな』

矢継ぎ早に大音量で質問攻めするだけして答える間を与えようとしないので、再び義経はスマホを耳から離して相手が止まるまで待ち、政光はそれを見て苦笑いする。


「えーと、今はお仕事中でしょうが、本日の夜8時にはご自宅にお戻りくださいね?それまでに猫の幽霊と対峙する準備をしておきますので。」

『猫の幽霊!?本当に居たのか!?退治!?退治するのか!?危なくない・・・』

義経の言葉に再び質問攻めが繰り返され、義経はスマホの画面を地面に向けた。


「あの、退け治める『退治』じゃなくて、相対して峙する方の『対峙』です。まずは説得から始めて決裂した場合にのみ退治に移行します。退治なんて大それた事、可能かどうかは不明ですが。やるだけやってみます。」

『おい!?化け猫退治だと!?可能かどうか不明!?やるだけやってみる!?そ』

今までで一番音量が上がった喚き声での質問攻めを、スマホをポケットに入れる事で回避した義経は頃合いを見て、返事をする。


「とにかく夜8時には帰宅して下さい、娘さんもそれまでにはお連れしますので。」

『おい!?娘が危険じゃないのか!?自宅で退治だと!?妻も危険に巻き込むな!』

質問攻めが繰り返されるスマホに向けて義経が声を大にして言う。


「化け猫の狙いはあなただけです!お二人は無関係!覚悟しておいてくださいね!?こちらは準備が在りますので、詳しくは後程、それでは。」

そう言うや義経は通話を一方的に終了した。質問は夜帰宅してからでも受け付けられる、今は準備をしなければならない。


「さて、烏森稲荷様にご挨拶して願を掛けて行きましょうか。」

「ああ、そうだね。全て上手く行くようにお願いしておこう。」

政光がそう答えると二人は烏森稲荷神社の二の鳥居へ向けて歩き出した。



────────────────────


二人は佐賀駅近くの大型総合ディスカウントストアへ34号線を車を走らせた。

そこで必要な物を用意し終えると、鍋島家の菩提寺、高伝寺へ向かった。


今夜、旧鍋島領内で化け猫騒動に対峙しようとするのだ、前もってお断りを入れておいた方が良いだろうと考えての事だが、単純に旧所名跡好きの義経の趣味もある。

GWと言う事で参拝の人の姿はそこそこあり、梅の名所らしいが5月では花は無い。


「寒い時期に来たかったなぁ、さぞや梅の花が綺麗だったでしょうに。」

「そうだね、もう少し人の少ない時期にゆっくりしたかったよね。」

二人は無上息災や家内安全を願う一般の参拝客に交じって、化け猫との対峙で領内を騒がせる事になるが出来得る限り騒ぎを大きくしない、という事を誓った。


────────────────────


参拝を終えると再びレンタカーを走らせ、町内へと戻る。時刻は夕方4時30分頃だった、山鼡邸へ向かうには早すぎる為、再び美緒の潜む友人宅近くのホームセンターへ向かいそこに車を停め、時間潰しに屋外売り場の花苗や野菜苗を物色していた。


夕方と言う事もあって苗売り場に客の姿は少ない。義経たちの他には老夫婦が一組と土いじりに似つかわしくない派手な服装の若い女性が枝豆の苗を見ているだけだ。


「お、義経君、スイカの苗があるよ。苗から育てるのも良いんじゃないかな?」

「スイカは手間がかかりますから、こっちの枝豆なんかどうですか?育て易いし毎日取れたての枝豆でビールなんかどうですか?」


スイカは畑が無いと難しいが、枝豆ならプランターで植えっぱなしでも良い。昔は田んぼのあぜ道の土が崩れない様に畔に植えられており、そこから「畔豆」とも呼ばれていたそうですよ、義経の蘊蓄に政光が頷く。


「手間がかからなくてビールのつまみに良いのか、育ててみようかな?」

「此処で買って新幹線で帰る訳には行きませんから、戻ってから考えて下さい。」

それもそうかと名残惜し気に枝豆の苗を戻す政光、派手な服装の女性が政光が戻した苗を手に取り義経に声を掛けてきた。


「あの、・・・枝豆って昔は「畔豆」って呼ばれていたんですか?」

「ええ、そうです。その名の通り畔に植えっぱなしで良い位勝手に育つからお勧めですよ。・・・山鼡美緒さんですね?」

義経は声を掛けてきた女性の名をそう呼んだ。


「あ、はい。山鼡美緒です。この度はお世話になります。」

派手な外見に似合わず、山鼡美緒は丁寧に頭を下げて二人に挨拶をした。



────────────────────


「この時間にここで「畔豆」の苗を手にした二人組が、お稲荷様のお使いの方だってお告げがあって、その通りに本当にいらっしゃるなんて・・・。」


「はい、私たちは『烏森稲荷』様からあなたの願いを叶えるように遣わされてきた者です。私は『天城義経』、こちらは『大館政光』です。よろしくお願いします。」


「大館政光です。今回は大船に乗ったつもりでいて下さい。こちらの義経君が全て上手くやってくれますからね。」


『いや、政光さんにも頑張ってもらわなければいけないんですよ?』

『僕は力仕事と頭脳労働は苦手なんだよ、お手柔らかにね?』

二人のやり取りに自然と美緒も笑みが零れる。見知らぬ男性二人組だが、人当たりが良く不審者の様な感じはしない。なにより『烏森稲荷様』のお告げの通りの『和装のやせ型の若い男』の人と『大柄な髭面の中年男性』、そのままの人達だ。


小学生の頃から学校の帰りに近くの公園に寄って遊ぶついでに「烏森稲荷様」にお参りしていたが、自分が困っている時に本当に手を差し伸べて下さるなんて・・・。

美緒は心の中で「烏森稲荷様」に改めて感謝をする。


「では準備もありますし、立ち話も何ですからご自宅までお送りしましょう。」


そう言って義経は周囲に警察官の姿が無いのを確認し、美緒を車へと案内した。




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