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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那


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MAYDAY!


朔夜のスマホに随分久し振りとなる友人からのメッセージが届いた。

小、中学までは一緒の学校に通っていたが、友人は高校は市外のお嬢様学校に進学した為、現在は少々疎遠になった「金剛 風香」からのメッセージだった。


お互い現学校の友人優先の生活となり多少疎遠になったとは言え、週に数度程度は近況報告を兼ねたメッセージのやり取りはしていたのだが、そう言えば近頃はひと月ほど連絡を取っていなかった事に思い当たる。

4月から新年度となってクラス替えもあった事で、新しい生活に慣れるのが優先されていたのでさほど不思議とも変だとも思いもしていなかった。


風香からのメッセージには『諸事情で引っ越す事になったので借りていた物を返しておきたい。』という内容のものだった。その内容にそう言えば中学の頃はお互いマンガやCDを融通し合っていたな、と思い返す。風香に借りっぱなしのCDもマンガも心当たりはある。自分も返さなければいけない事に気付く。


その後もメッセをやり取りし、その日の夕方に久し振りに風香と会う事となった。


────────────────────


夕方5時頃、待ち合わせの場所に指定されたコンビニに朔夜が着くと、駐車場に停まっていた黒いランドクルーザーの後部ドアが開いて見覚えのある顔が降りてきた。


「朔夜!久しぶり、元気してた!?」

「風香!元気元気!風香も元気そうだね?」

メッセージでやり取りはしていたものの直接会うのは一年と数か月振りだった事もあり、お互いの近況報告をしかけたところに車の運転席の窓が開いて運転手の男から声が掛かった。


「お嬢、あまり時間もありませんし、そろそろ・・・。」

黒いスーツにオールバックの髪型、細身のメガネの厳つい容貌はとても一般人には見えない。


『え?何この人?もしかしてそのスジの人?』

朔夜が困惑していると風香は構わず運転手に応える。


「あーごめん、ヤスさん。みつかるとヤバイ人が居るんだっけか?朔夜、借りてた物返すからウチまで来て?そのあと朔夜んちに送ってくから。」

朔夜は困惑したまま風香に手を引かれランドクルーザーの後部座席へ連れ込まれた。

後部ドアが閉まるとヤスと呼ばれた男は周囲を確認しつつ車をゆっくりと発進させた。見た目の割に安全運転なんだな、と朔夜が思っていたら風香が


「ヤスさん、えらく安全運転だね。急ぐんじゃなかったの?」

「いえ、極力目立たない様にしないと不味いんです・・・。親父さんのミュルザンヌは目立ちすぎるんで、組の中でも目立たないコイツで来た位ですから。」


二人の会話の端々から風香の親がその筋の人なんだと鈍い朔夜にも理解できた。

そう言えば風香の家には行ったことがない。なんだかんだと理由を付けて家に連れて行ってくれなかったのはこういう事だったのかと思い至る。


「ご自宅に戻るのもかなりリスクが有るんですよ。あの辺りが例の女の散歩コースになってるって噂なんで。念の為に「迷い鳥」の依頼かけたんですがね。」

「『迷い鳥』??なにそれ?」


風香の質問にヤスが言うには例の女の所属するNPO法人に依頼をかけ、自宅とは逆方向でわざと逃がしたインコの捜索にその女を向かわせるという策を講じたそうだ。これで自宅に戻って荷物を纏める時間位は稼げるだろうと言う。


『え?それって五月さんの事???』

朔夜は風香の実家が五月とトラブルを起こしたその任侠団体だったのだと気付く。

あの綺麗な女の人がそれなりの規模を誇る任侠団体からこれ程まで恐れられていると言う事実に更に驚かされる。あのヤンキー二人組から話を聞いた時はかなり誇張したのだろうと漠然と考えていたのだが、目の前の当事者の様子からすると誇張でも何でもないようだ。


車が風香の家に向かって間もなく、車のスピーカーからコール音が鳴った。

『ん、ヒロからか。』ヤスが呟きステアリングのスイッチを操作し応答する。


「どうしたヒロ?緊急じゃない限り掛けるなって言ったろうが?」

『アニキ緊急です!例のNPOからインコを確保したって連絡が来たんです!』

ヤスは一瞬何を言われたか理解できなかったが、すぐにその言葉に意味に気付く。


「は!?依頼かけてまだ1時間しか経ってないぞ!?なんかの間違いだろ!?」

『インコの名前もジェニファーだって本人に確認したから間違いないそうです!』

どうやったらインコに名前確認できるんだよ!?ヤスが切れ気味にヒロと呼ばれた電話越しの男に問い詰める。『いくら何でも早すぎだろ!?』叫ぶヤスに


『それが鳥は犬猫と違って物陰に隠れず空を飛ぶか高い位置にいるから探しやすいとかで!あ、経費は掛かってないから無料で良いそうです!』

「経費とか幾ら掛かっても構わんだろ馬鹿か!時間を稼ぐのが目的だろうが!」


状況を把握したヤスがヒロに指示を出す。

「とにかくお前はジェニファーの引き取りに行って時間を稼げ!どうやって見つけたのかとか、礼をしたいから好みの酒とか食べ物とかを聞いたりしてなるべく事務所に釘付けにしろ!いいな!」

そう言って通話は終了した。


「へぇ、迷い鳥って見つけ難いと思ってたけど簡単に見つかるんだね。」

風香が感心してそう言うが、空を飛ぶ鳥の捜索など実際の発見率はかなり低いだろう。茶々もなんか五月さんに従ってる風だったし、あの人自体が特別なんだ。


「お嬢、状況が変わりました。ちょっと急ぎますよ。」

そう言うやヤスはそれまで守っていた制限速度を無視してランドクルーザーを加速させた。


────────────────────


郊外の高級住宅街の一角にある、和風の高い塀に囲われた屋敷の門前にランドクルーザーは停止した。どうやらここが目的地、風香の家の様だ。


『・・・凄い立派な家・・・てかお屋敷?』

朔夜は屋敷に圧倒されると風香の父親の任侠団体の規模を改めて実感した。それと共にこの規模の暴力を旨とする集団から恐れられている五月という女性の存在に困惑していた。

ヤスが車内からリモコンを操作すると、正面玄関横の車が2台並んで通れる大きなシャッターがゆっくりと開口して行った。門の上の監視カメラに見守られながらランドクルーザーは敷地内へと入って行き、豪華な玄関の前に停車した。


風香とヤスが車から降りた後に続いて朔夜も後部ドアから敷地内へと降り立つ。


「正月に帰って以来か、久しぶりだなぁ。」

風香が懐かしそうに屋敷を見上げる。間もなく陽が落ちる夕刻の空の下、人気のない屋敷は真新しい廃墟の様にも感じられた。人が一月住んでいないだけですっかり寂れてしまった感がある。


ヤスはスーツのポケットからセキュリティカードを取り出し、玄関脇のカードリーダーにタッチした時、『戸締りをお確かめください。』のアナウンスが流れた。

セキュリティシステムは解除ではなく、開始と判断したようだ。慌てて出て行った所為でセキュリティをセットし忘れていたのだ。


『不用心な・・・まぁ急いでたからな、仕方ない。』

ヤスは心で呟きながら引き戸を開け、玄関へと入る。そしてすぐに異変に気付いた。

入ってすぐの三和土に土足で上がったと思しき形跡が見て取れたのだ。


「お嬢、ちょっと中を改めます。外で待っててください。」

「え?ヤスさん、なにかあったの?」

「大したことじゃありませんが念の為です。さ、外で待っててください。」


ヤスは二人を外に追いやると、引き戸を音をたてない様に静かに閉めた。



────────────────────


ヤスは玄関からそっと入ると三和土の前で靴を脱ぐか一瞬迷った後に、『今は非常事態だ。』と思い直し、革靴の底を玄関先にあった靴の手入れ用の布で丁寧に拭い、土足のまま廊下を進んでいく。


廊下の手前側から手洗い、応接室、居間と様子を伺いながら奥へと進む。今のところは怪しい者は誰も居ないし何事もない。なにか在るとすればオヤジの書斎か?あそこにはオヤジの私物と金庫が有る、空き巣が狙うなら此処だろう。


書斎の前で足を止め、中の様子を伺う。物音はしてない、そっと扉を開けたヤスの目に最初に飛び込んできたのは、壁面に備え付けられた大型金庫が扉を破壊され無残に内部を晒した惨状だった。


「くそ!金庫がやられてやがる!」


金庫の前にはディスクグラインダーやバールが転がっていた、これで扉を破壊したのだろう。これだけ広い敷地の上に広い屋敷だ、内部で破壊活動に勤しんでいても周囲の民家には音など聞こえまい。賊共は邪魔をされる心配などせず堂々と中身を盗んで悠々と出ていったに違いない。

此処を空けて一か月、その間監視カメラは作動していただろうが監視する者が居なくては何の意味もない。カメラは只出入りする賊や破壊活動を単に録画装置に記録していただけで、賊に対する抑止力にはなっていなかったのだ。


『一体、いつ頃やられたんだ!?』そこで、ヤスがある事に気付いた。

金属を切断した時の独特の異臭が未だ濃く漂っている事に、気付いたその瞬間。


『パン!パン!』と乾いた発砲音がしたと同時に、ヤスは自分の腹と足に火箸が刺さったような衝撃を感じ床に倒れこんだ。



────────────────────


「死んでないよな!?死なれたら面倒だぞ!」

「いや!腹と足に当たっただけだし顔も見られてない、大丈夫だ!」

「金目の物と拳銃が手に入った、さっさと行くぞ!」


金庫の惨状に気を取られ、書斎の隅で息を殺していた3人の男達に気付くのが遅れたヤスは男達から発砲され、その場に崩れ落ちたままだった。立ち上がろうにも腹に力が入らず足の激痛もあり無様に這う事で精一杯だった。


『まさか、空き巣の現場に出くわすとは・・・くそっ!』


男達の乱暴な足音が遠ざかるのを聞きながらなんとか廊下に出て、玄関に向かおうとしたその時、遠くで小さい女の悲鳴と男達の怒号がし、その直後にランドクルーザーが乱暴に発進する音がヤスの耳に届いた。


『お嬢達が攫われた!?』


男達は顔を見られていないヤスは放置して行ったが、玄関先で出合い頭に遭遇し顔を見られた女子二人は放置できずに拉致して行った様だった。


『くそ!ランクルまで持っていかれちまうとは!!』


男達の会話には上下関係を示すものは無かった、おそらく同業者ではないだろう。

暴対法の施行された現在、暴力団は少し派手な事をすれば待ってましたとばかりに警察に潰される。そんな危険を冒してまでこんなことはするまい。


おそらく奴らは暴力団ではない、「半グレ」と呼ばれる半端者だろう。組織に所属していない為、暴対法に縛られずに一般人を隠れ蓑にやりたい放題する輩だ。

そんな奴らにオヤジの大事な一人娘を連れていかれ、どんな目に合わされるのか。


不幸中の幸いお嬢のスマホのGPSで現在位置は確認できる、応援を呼べばお嬢の身柄は確保できる。ヤスはスーツの胸ポケットからスマホを取り出し、応援を呼ぼうと連絡先の一覧を確認して、絶望した。


『・・・この状況で誰を呼ぼうってんだ!?』


組の関係者はあの女の目を避ける為にすぐ来れるような近距離にはいないのだ。

すぐ近くには「迷い鳥」を受け取りにヒロがいるが、あいつは頭も悪いし度胸もない、奴には無理だ。しかしサツに連絡しても間に合うかどうかすら解らない。


『・・・・万事休すか・・・。』


ヤスはこの状況を打開できるのなら悪魔に魂を売り渡しても、いやタダでくれてやってもいいとさえ思った。しかし生憎と神にも悪魔にも知り合いなど居ない。


『・・・神・・・悪魔・・・・。』ここでヤスはふと思いつき、藁にも縋る思いで震える指で1件の電話番号をコールした、すぐに若い女の声がでる。



「はい、こちらはNPO法人アマツキツネです。探し人ですね?その場所で動かず、安静にしてお待ち下さい。」


『!!??』


ヤスは我が耳を疑った。こちらはまだ一言すら発していないのに電話の相手は此方の状況を正しく理解した対応をしているのだ。『動かず安静に』だと!?俺がケガをしてることまで解ってるのか!?一体なんなんだこいつらは!?


自分達がこんな相手を敵に回していると言う事実に恐怖を感じると共に、こんな奴らがお嬢の救出に動いてくれると言う現実に心の底から安堵が沸き起こる。


一月前、組の喧嘩自慢の連中10人を一方的にボコボコにしたうえ負け犬根性を植え付け、組のモノから「悪鬼、悪魔」と呼ばれた金髪美女の「五月」。

その五月が今回は味方に付いてくれると言うのだ。無残に敗北した忌まわしい記憶が書き換えられて、神々しい女神の姿の五月がヤスの心に上書きされる。


『・・・お嬢を頼みます、五月の姐さん・・・。』


ヤスは肩の荷が下りたとばかりにその場で気を失ってしまった。



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