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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那


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1/6

NPO法人 「天狗」


『特定非営利活動法人 天狗』の看板を前に、漆原 朔夜は迷っていた。


飼い猫の「茶々」が居なくなってから二日、近所の猫が居そうな心当たりは粗方探したつもりだが、どこにも「茶々」の姿が見つからない。事故に会ってないだろうか、お腹を空かせて鳴いているのではないか、そう考えると夜も眠れない。


『自分の力では無理だ。』そう考えた朔夜は、ネットで失踪したペットを探すのを生業にする業者の情報を片っ端から集めた。


『基本料金一時間当たり 4980円~ 諸経費別途 発見率90%以上』

『基本料金8時間 50000円~ 諸経費別途 発見率90%以上』

『基本料金8時間 39800円 成功報酬5万円 発見率80%以上』等など


思っていたより費用は結構掛かる。いや、「茶々」が見つかるなら惜しくはない。

幼い頃から高校2年の今まで貯めてきた「お年玉」とか「お祝い金」は20万円位あったはず。いや3年間家族として過ごした茶々の為だ、お金など問題ではない。


気になったのは「発見率」の方だ。住宅街から逃げ出した猫を探すのだ、小さな猫が隠れる場所は無数にある、発見率100%などあるはずも無かろう。成功報酬の文字が示すのは成功しない場合もあると言う事なのだ。


しかし、一件のNPO法人のサイトに『発見率100%』の文字を見つけてしまった。


『ちょ・・・100%発見するってあり得なくない!?』


しかも費用は非営利団体のNPO法人を謳うからなのか、『諸経費のみ』とある。

朔夜は「100%発見」の文字に希望を見出した事もあるが、このNPO法人が一体どうやってこの低価格で迷い猫を探すのかに興味が沸き起こり依頼する事に決めた。


────────────────────


サイトの住所を辿って着いた、街の中心から離れた4階建ての雑居ビルの2階にその「特定非営利活動法人」は事務所を構えていた。現在時刻は午後2時。


『特定非営利活動法人 天狗』の看板を前にした朔夜は「天狗」の文字に混乱した。

「天狗」って、あの赤い顔の鼻の長い神隠しとかするあの「天狗」?


『そうか、天狗の神通力で探すのか。』と『なんで天狗なの!?怪しくない!?』の想いが心の中で鬩ぎ合っている。ここに依頼して本当に良いんだろうか?その想いが朔夜の足を動かなくしていたが、迷う間に目の前で扉が開かれた。


「どうぞお入りください、ペットの捜索依頼ですか?」

中から現れた、20歳前後と思われる可愛らしい感じの黒髪ボブの女性が微笑みながらそう問いかけてきた。心を見透かされたと感じた朔夜が驚いて問い返す。


「どうして解ったんですか!?」

「虫の知らせって言うのかな?私の勘はよく当たるんです。どうぞ。」


案内されるまま朔夜は彼女の後に続いた。

『本当に神通力とかって訳じゃないよね!?』

朔夜の頭の中には「天狗」の文字が回転していた。


────────────────────


室内は10坪程の広さがあり、入ってすぐの左側に備え付けられた4人掛けの会議用応接テーブルに朔夜と事務員の女性が対面で座った。正面に見える窓をバックに法人の代表のものと思われるデスクと椅子があり、部屋の右手に事務机が4つ並んでいる。


部屋の右手にドアがある、部屋がもう一つあるらしい。今はこの事務の女性しかいないようだ。女性は「信楽しんぎょう 弥生やよい」と名乗り、捜索についての説明をしてくれていた。


「じゃあ、猫ちゃんの名前と最近の写真とかありますか?」

「あ、はい名前は茶々で、写真は先週撮った画像があります。」


その画像データを下さい、と弥生に言われお互いにスマホを取り出し、画像データを弥生のスマホへと送信した。住所を告げると弥生はやはりスマホのマップアプリを開いてデータを入力した。入力が終わるとそのまま何処かへ発信したようで、スマホから呼び出し音が数回なるのが聞こえた。


呼び出し音が途切れ、『なーにー?仕事ー?』と気怠そうな声がここまで聞こえた。


「メイさん、迷い猫の捜索お願い、データは送ったからよろしくー。」


『あ、名前は茶々ね、』『んー、りょーかーい。』そう言って通話が終了した。


「これで大丈夫ですよ、今日か明日には見つかりますよ。」

「え?これだけで良いんですか?色々持ってきたんですけど・・・。」


朔夜はカバンに茶々の愛用のおもちゃ、寝床に使う毛布、少量のトイレの砂などを詰め込んできていた。どれも他の業者のサイトで必要と表記されていた物だ。


「ああ、大丈夫です。大体の場所と名前が解れば見つかります。」

そう言われて朔夜は取り出しかけたおもちゃ等を引っ込めた。本当にこれだけで100%見つかるものなのかなと少し不安に感じたのに気付いたのか、弥生は朔夜に言った。


「あと、なにかご質問とかありますか?」

そう聞かれて本当に大丈夫なのかと質問するのも悪い気がした朔夜は、思わず当初からの素朴な疑問を口にしていた。


「あの、なんで天狗てんぐって名称なんですか?」と。


────────────────────


「ああ、それは正式には『アマツキツネ』って読むんですよ?」


弥生はそう言って手元のクリアファイルのロゴを見せ、「天狗」の文字の後ろに続くアルファベットを指さした。そこには「AMATSU-KITSUNE」の表記があった。


「アマツキツネって読むんですか?てっきり『てんぐ』だとばかり・・・。」

「まぁ元々同じ事象から派生したものですから間違いじゃないですよ?」


「天狗」は元々中国で「流星」を意味する物で、空を流れる様が天を駆けるイヌの様だとして「天の狗」と言う字を宛てられたそうだ。日本では訓読みで「アマツキツネ」と読み、九尾金色の神獣「天狐」と同一視されているという。


『それはそれで神獣の名前を付けるって感覚が良く分かんないな・・・。』

どちらにしても『特定非営利活動法人 テング』よりは『特定非営利活動法人 アマツキツネ』の方が確かに語呂の点では言い易いとは感じる。


とりあえず一つの疑問は解消した朔夜は茶々が見つかったら連絡が貰えるとの説明を受け、「アマツキツネ」を辞去する事と成った。


そしてその日夕方6時頃に「アマツキツネ」から茶々が見つかったとの連絡が来た。



────────────────────


「いくら何でも早過ぎない!?まさか本当に神通力で発見、とか!?」


「アマツキツネ」からの茶々発見の一報にもうすぐ夕飯という時間にもかかわらず朔夜は自宅を飛び出した。調査員より見つけたから事務所に戻ると連絡が入ったらしい。調査員は帰還途中だから急いで来なくてもいいですよ、と言われたが心配と好奇心が勝って慌てて「アマツキツネ」へ向かってしまった。



「早かったですね、調査員はもうすぐ帰ってきますから中へどうぞ。」

昼間の事務員、弥生に迎えられ朔夜は再び応接テーブルの同じ椅子に座る。


弥生が入れてくれたお茶を前に、急いで駆けて来たので喉が渇いている事に気付く。

慌てて熱いお茶で火傷をしない様にと気を付けて湯呑を手に取ると、程良い暖かさのお茶だった為、渇きを癒すために一息に飲み干しても全く問題なかった。


喉の渇きが癒され一息ついた朔夜の空の湯呑に、「もう一杯どうぞ」と普通に熱いお茶が注がれた。深蒸し茶の良い香りが鼻腔をくすぐり茶々の発見の知らせも相まって、心からの安堵が広がった。


「ありがとうございます、それにしても早かったですね?」

「んー、まぁこんなモノじゃないですかね、調査員が優秀なので。」


ペットの捜索は良く引き受けるが、今回の所要時間は調査員にとって特に遅くも早くもない平均的な時間だと言う。他の業者は「一日8時間でいくら」みたいな表記だったはず、他と比べても早い方なのだろう。あ、そうだお金を払わなきゃ。


「あの、費用はいくらお支払いすればいいんでしょうか?」

「えーと、経費も掛かって無いようですし無料で構いませんよ。」


「ええ!?そんな!他の業者だと数万円かかりますよ!?」

無料の言葉に朔夜は我が耳を疑い、驚いて問い直し、弥生は微笑んで答えた。


「活動は寄付金で賄いますし、地域の安全活動が当NPOの目的ですから。」


内閣府が規定する「特定非営利活動」とは、20種類の分野に該当する活動であり、不特定かつ多数のものの利益に寄与することを目的とするものだ。

この「アマツキツネ」の活動内容は「地域安全活動」「人権の擁護又は平和の推進を図る活動」「子どもの健全育成を図る活動」「まちづくりの推進を図る活動」などが該当するらしく、その活動によって助成金も受け取れるのだと言う。


「だから、代金とかは気にしなくて良いんですよ。強いて言うなら、天の『アマツキツネ』様に感謝を、そして困ってる人がいたら手を差し伸べて上げて下さい。」


そういって微笑んだ弥生が、何かに気付いたように視線を明後日の方向に向けた。


「あぁ、調査員が戻ってきたみたいですね、猫ちゃんも一緒です。」

弥生の言葉に足音とかエレベーターの作動音でも聞こえたのかと、朔夜は耳を欹ててみたが特にそれらしい物音は聞こえない。さらに注意深く耳を澄ませてみる。


「あ、すぐそこの信号の所にいるから何も聞こえませんよ?」

「え?どうしてそんな事が解るんですか?」

「虫の知らせと言うか、私の勘はよく当たるんです。」


最初に此処に訪れた際に聞いたセリフが再び弥生の口から発せられた。

それから程なくしてエレベーターの作動音の後に足音が聞こえてきた。


「調査員ですね、猫ちゃんを抱っこして扉から入ってきますよ。」

そう言った弥生と一緒に扉を振り返って、朔夜は調査員の姿を確認しようとした。

茶々はかなり人見知りが激しく、知らない人に抱かれようものなら必死に逃れようと暴れる事もザラにあり、朔夜は調査員が引っ掛かれていないかを心配する。


「任務、しゅーりょー。」


外開きの扉が開かれそこに現れたのは、20代前半位の身長170㎝超の金髪の女性。

ハーフの様なくっきりした顔立ちとメリハリの利いた体形に、黒のタンクトップ、ジーンズにパーカーをラフに着こなしたかなりの美女だった。

ゆるふわウェーブの長めの髪を後頭部の高い位置で結んでいる為、更に身長が高く見える。


しかし金髪美女は弥生の言った様に猫を抱えてはおらず、左腕にフライドチキンの特大バーレルを小脇に抱え、右手にはドーナツショップのビッグボックスを下げている。猫の姿など何処にも無い。『抱っこして戻って来る』と言った手前、弥生は慌てて金髪美女に問いかけた。


「あれ?五月メイさん、猫ちゃんは?」

「ん?ここにいるよ?さっさと入んな。」


五月メイと呼ばれた美女が扉の外に呼びかけると、すらりとしたシャム系のミックスの猫が恐る恐ると言った風情で事務所に入ってきた。


「茶々!?無事だった!?良かった!」

朔夜が椅子から立ち上がり茶々に声を掛けるも、茶々は近寄って来ようとはせずに入り口付近で不安そうな表情で飼い主の姿を見ているだけだった。


「茶々?どうしたの?おいで、茶々?」

みゃー、と小さく鳴いた茶々が恐る恐る五月を見上げると、五月が言った。


「ん?ほら、飼い主の所に行ってあげな?」

ようやく許可が出たとばかりに急いで飼い主の腕に飛び込む迷い猫、茶々。

感動の再会を横目に五月は自分のデスクに腰を下ろし、特大バーレルを開封して中身のチキンに齧り付いていた。弥生は黙々とチキンを頬張る五月に対し、ウェットティッシュを差し出しつつついでに尋ねた。


「五月さん、猫ちゃんどこで見つけたんですか?」

「んー?そいつの家から山の方に向かった所。山にでも行ってたんじゃない?」


チキンのキール(胸)とリブ(あばら)を小骨と軟骨ごと嚙み砕きながら五月は答えた。すでに終了した迷い猫の捜索の件など微塵も興味無さげな口調だった。


「捜索に当たって何か経費が掛かる様な事しました?」

「んー?なんにもないよー。帰り道におやつ買っただけー。」


帰り道に『おやつを買った』と言うが五月は大量のチキンとドーナツしか手にしてない。まさかこれがそうなのかと朔夜は思ったが怖くて確認する事は憚られた。

五月はドラム(脚)とウィング(手羽)もそのまま噛み砕いて食べている。

その部位は骨が有るはずだが、本人は全く気にしていない様子だった。


「やはり経費も掛かってませんからそのままお帰り下さって結構ですよ。」

「は、はい。茶々を見つけて下さって有難うございました。後日また改めてお礼に伺います。」


朔夜は腕の中でいつにもまして甘えてくる茶々をしっかり抱きながら応える。

『あ、キャリー持ってくるの忘れた。』慌てていたのでペットキャリーを持っていない事に気付いたが、茶々は全く嫌がる様子もなく抱かれたままなので、まぁいいかと思い直す。

笑顔で見送る弥生とチキンを頬張る五月に礼を言って朔夜は事務所を後にした。


「あ、飲み物ないや。ヤヨイ、何か飲み物あった?」

「え?あ、冷蔵庫に所長の缶ビールあるけど、飲まないよね?」

「あんな苦いモノ飲みたくないね、ジュース買ってきてヤヨイ。」


あー、仕方ないなぁ。と言いつつ弥生が外に出かけようとしたその時。


「・・・ん?なんか胸騒ぎがする・・・。五月さん一寸いい?」

「んー?何?今、忙しいんだけど?」


──────────────────


すっかり陽が落ちて星が瞬く夜空の下、朔夜は茶々を抱えてそれなりの交通量の道路の歩道を家路へ向けて歩いていた。途中のコンビニまで来た時に事件は起きた。


「お姉ちゃーん、猫ちゃん抱えてどこ行くの?」

「暇なら俺達と遊ばなーい?」


コンビニの駐車場の屯していた頭の悪そうなヤンキー風の二人組が声をかけてきた。

片方はひょろっとした背の高い男で、もう一人は少し小柄な肉付きの良い男だ。

身の危険を感じた朔夜は聞こえなかった振りをして、先を急ごうとしたがヤンキー二人組はニヤニヤしながら近寄って朔夜の肩に手をかけた。


「何も無視する事はねぇだろう?お姉ちゃん?」

「嫌!放してください!人を呼びますよ!?」

「ただ一緒に遊ばないかって聞いてるだけで・・痛っ!?」


背の高いヤンキーが慌てて手を引っ込めた。飼い主の危機に腕に抱かれていた猫がその爪で引っ搔いた様だ。それに気づいた朔夜の顔は蒼白と成った。


「あ!あ、あの大丈夫ですか?」

朔夜の困惑し怯えたような声色にヤンキーはにやりと笑い、言い放つ。


「あーあ、猫に引っ掛かれて怪我しちまった。その猫保健所行きだなぁ?」

「そんな!?」

「あーあー、猫のやらかしは飼い主が落とし前付けなきゃなー?」


嫌らしく笑うヤンキーの言葉に朔夜は足元が崩れるような絶望感に囚われた。


「お、落とし前って一体どうすれば・・・。」

「そうだなぁ、まずはその辺りを相談するのに一寸来てもらおうか?」


背の高いヤンキーがそう言って朔夜の肩に手をかけた瞬間、朔夜はびくっと肩を震わせ、ヤンキーはそのままの姿勢で固まってしまった。


朔夜が肩を震わせたのはヤンキーに肩を掴まれた嫌悪感からではなく、もっと別の殺気の様な物を感じたからであり、ヤンキーが固まったのもそれが原因だった。

その殺気が向こうから近づいて来た。


「あー?お前らか?あたしの食事の邪魔してくれてんのは?」

朔夜が歩いてきた方向から長身の金髪美女がチキンを食べながら歩いて来ていた。


「あ、あなたは・・・!?」

朔夜が殺気の発生元が五月であると気付いたと同時にヤンキーが叫ぶ。


「め!めめめめめ五月の姐さん!!どうしてここに!?」

「お、俺達は何も!?あ!こちらのお嬢さんはお知り合いでしたか!?」


狼狽して焦り始めたヤンキー二人は明らかに腰が引けていた。背の高いヤンキーは五月と変わらない位の身長のはずだが、腰が引けて上目遣いで五月の機嫌を損ねないように努めている為、五月が上から見下ろすような状況になっていた。


「その娘は依頼主でね、無事に家に帰るまでは面倒見なきゃいけないんだよ。」


五月の言葉に膝から崩れ落ちたヤンキーは、そのまま膝を着いて眼前で手を組み五月を拝むような姿勢を取った。


「申し訳ありません!お仕事の邪魔をするつもりは無かったんです!」

「お食事の邪魔をして済みませんでした!この落とし前は必ず付けます!!」


「猫が保健所行きとか言ってたな?あたしがお前ら殴っても保健所行きか?」

五月は少し前のヤンキーのセリフを聞いていたようだ、当時は結構距離があったはずだが内容は完全に筒抜けになっている。


「いえ!そん時は俺達が病院行きになっちまいます!勘弁してください!」

「その子を家まで送っていったら8時の夕飯の時間に間に会わないんだよ、あたしは腹が減るとイライラして暴れたくなるから覚悟しろよ?」


五月の言葉にヤンキーの顔面は蒼白と成り、朔夜は先ほどのチキンとドーナツは本当に「おやつ」でそのあとに夕飯を食べると言う事実に驚愕した。


「ねねねね姐さん!このお嬢さんを俺達が送り届けるってのは如何ですか!?」」

「おおおお俺達の命に代えてもこのお嬢さんを無事に送り届けますです!」

ヤンキー二人組は目の前のカウントダウンの始まった時限爆弾の脅威から自分達の命を守る為、最良と思える代案に残りの人生全てを託した。


「ん?・・・よし、決定。しっかり送り届けろよ?」

「はい!早速お送りさせて頂きます!」

「姐さんはご心配なくお食事に行かれて下さい!」


朔夜はヤンキーの豹変ぶりに驚くと同時に、ついさっきまで自分に危害を加えようとしていたこの二人組を信じていいのか解らず、思わず不安を口にした。


「え?そんなこと言ってもこの人達、『送り狼』に成るんじゃ・・・?」


朔夜の言葉にヤンキー二人組は、血相を変えて『そんな事は絶対しません!信じて下さい!』『俺達を助けると思ってお願いします!』と、もはや懇願を通り越して哀願する勢いで朔夜を拝み倒しだした。それをみて五月は。


『狼はそんなことしないし、そいつら気の小さいネズミだから、ね?」

そう言い残してそのままコンビニに向かって行った。ヤンキー二人組は腰を90度曲げて深々と頭を下げながら五月を見送りその姿が店内に入るまで動かなかった。


「・・・さ、お嬢さん、ご自宅までお送りいたします。」

「本当に申し訳ございませんでした、姐さんにはよろしくお伝えください。」


朔夜は壊れ物を扱うかのようなヤンキーの態度に困惑しながらも家路についた。


────────────────────


背の高いヤンキーが周囲を警戒しながら朔夜の前を進み、少し離れた後ろを小柄なヤンキーが後方を警戒しながら付いてくる。周囲を警戒しすぎな二人の行動に朔夜は五月の何処にヤンキーをここまで豹変させる理由があるのか気になった。


「あの、五月さんって一体どういう人なんですか?」

朔夜の問いに背の高いヤンキーが一瞬振り返り、即周囲を警戒しながら応える。


「姐さんにタイマンで、いや複数でも勝てる人間なんて居ない位強いんですよ。」

「そうなんです、元プロボクサーでも全く動きが見えないって言うし、元相撲取りだって片手で制圧されるし、姐さんそれでも本気出してないって噂なんですよ。」


朔夜はヤンキーの説明と五月の見た目のギャップが大き過ぎて、にわかに信じることが出来ないでいた。『あんな綺麗な女の人が相撲取りを制圧するなんて・・・。』


「一度、この街の暴力団の幹部とトラブった時に、その幹部が卑怯にも獰猛な闘犬を3頭連れて姐さんを脅しに掛かった事が有ったんですが、闘犬どもは姐さんを見るなり地面に転がって腹を見せた服従の仕草をして使い物にならなかったんです。」

小柄なヤンキーがその現場を目撃していたらしく、事件の詳細を説明してくれた。


「で、姐さんのバックにもとんでもない組織が付いてるらしくて、その暴力団の関係者全員が一晩のうちにこの街から夜逃げしちまったんです。」


其の夜逃げも緊急だったらしく、所持していた高級外車や嗜好品と言ったモノは全て残したまま、とある屋敷では手つかずの夕食がテーブルに残ったまま関係者だけが忽然と消え失せたのだと言う。それが約1か月前の事らしい。


ただ状況だけを見れば関係者全員がどこかに行った、または留守にしているだけで捜索願を出されている訳でもない為、警察も動く事は無く関係各所は手付かずのまま放置されているらしい。そこまで聞いた朔夜に疑問が浮かぶ。


「でも、それじゃ中の手付かずとかの様子とか解らないんじゃ?」

「それが、前から事務所に出入りしてたチンピラの関係の奴が知らずに入って確認したってのが噂の大元らしいんです。」


聞けば聞くほど五月の事が解らなくなってくる。暴力団をそこまで恐れさせる五月の力とは一体?闘犬から服従の仕草を受けるというのはもしかしたら茶々を探し出した能力に関係が有るのかもしれない。


『近いうちにお礼もかねてもう一度『アマツキツネ』に行ってみよう。』


朔夜の中で五月への興味が増大した時、腕の中で茶々が小さく身じろぎした。



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