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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
肥前化け猫騒動

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『猫の幽霊』再び


50万円が引き出された通帳を手にしたまま、隆興は頭を抱える様にして項垂れた。これで何処を探せば良いのか皆目見当がつかなくなった。


あの嫌味な警察官に捜索を委ねるしかなくなってしまったが、福岡県では佐賀県警の管轄外だ、福岡県警と連携しなければなるまいが、あの嫌味な警官がどこまで真剣に捜査してくれるのか?


いや、この男が言った様に県内外の観光名所辺りに潜伏する事も考えられる。長崎、熊本、大分だって選択肢に入るだろう。場合によっては本州すらも・・・。

落胆する隆興の傍らで沈痛な面持ちで下を向く夫人に向け、義経は言った。


「まぁまぁ、奥様。父上に似ずなかなか頭の良い娘さんの様ですし、この金額を引き出したのも攪乱目的の可能性が高いと思います。案外近くに潜伏してるかもしれませんよ?」

「あんたいちいち私を下げんと気が済まんのか!?さっきからなんで私に突っかかって来るんだ!?」

顔を上げて猛抗議してくる隆興に対し、義経は平然と言う。


「私なりにあなたを励ましてるつもりなんですがね。こういう言い方をすれば反発して気力が湧いてくるでしょう?あなたはそういう性格の様だし。」

「それにしたってもう少し言い方ってものが有るだろう!?所長さん?なんなんだこの男は!?あんたからも何とか言ってやってくれ!」

いきなり話を振られた政光は、爽やかな笑みを浮かべて隆興に言う。


「いや、相手を怒らせて本音で情報を語らせるのが彼のやり方なんです。実際これで様々な事件を解決してきてますからね、僕は彼が暴走した時の抑え役です。」

「これで暴走していないと言うのか!?」

「まだまだですね、今日は随分と優しいな、と感じてる位です。」

隆興が絶句して黙り込むが、当の義経はどこ吹く風だ。


「あの、美緒が近くに潜伏しているって本当でしょうか?」

夫人が気を取り直して義経に問い掛けると、義経は夫人を安心させるように言う。


「事の発端が山鼡氏と口論したからだとすると、口論の内容にもよりますが『父親に一泡吹かせたい』『困らせてやりたい』との考えから行動していると思われます。その場合、山鼡氏の反応を確認できない遠距離に行くのは考え辛い。」

「美緒は近くの安全な場所で私の様子を伺っていると言うのか!?」

隆興がわずかに安堵の表情を浮かべ、義経に問うが


「あ、でも口論の内容が『彼氏との交際を反対された』とかなら、そのまま駆け落ちして二度とあなたの前に現れないかも知れませんけど?」

義経の暴走気味なセリフに顔色を変えて隆興は叫ぶ。


「美緒はそんな娘ではない!口論になったのはとある旧家の蔵の中を整理するにあたって不用品をうちで買い取った件での事だ!」


「そういう事は最初に言ってくださいね。情報は全部出していただかないと間違った推測にしか辿り着きませんよ?」

さぁ、その古物買取の件を教えてください。義経に迫られ隆興は口を開いた。


────────────────────


町の北側に江戸時代から続く旧家があり、そこの蔵が老朽化の為に取り壊す事となったため、中身の不要な物を処分する為に古物商の山鼡氏に依頼があったと言う。


旧家では代々受け継がれた秘蔵の品以外を処分する為、一品一品を鑑定しつつ価値の低いとされた物から買い取りに応じたそうだが、後になってその鑑定結果が不正であったのではないかとトラブルに発展したらしい。


見た目が地味ながら価値のある物を偽って安く買い叩いたと抗議があったようだが、契約時に後で買い取り内容に不満を言わない様にと説明書きがしてあった事を盾にされ依頼人は泣き寝入りに近い形になってしまった様だ。


問題は其の旧家の娘が昔からの山鼡氏の娘の友人で、事実を知った娘が父親に契約を無効にしろと迫ったのが抗議の内容だと言う。黙って聞いていた義経が口を開く。


「あの、私達ここに来る前に町の公園にあるお稲荷様にお参りしてきました。その時に気付きましたが公園から見える範囲で小学校と中学校、高校と固まっていますよね?娘さんの交友関係って学年関係なく結構広いのではないですか?」

義経の問いに隆興は困惑して夫人を見やる、夫人は義経に頷いて答える。


「はい、小さな町ですし小学校の頃から友達と遊ぶときはお稲荷様の公園で遊ぶ事が多くて、当然友人には中高生も居ましたし年齢に関係なく交友は広かったですね。」


元々この町は佐賀藩の支藩の城下町として続いてきた町なので、地元民の多くが親類縁者、顔見知りと言えるほどなにかしら関係が有ったりもするようだ。


「しかし、町中皆が顔見知りの様な状況でそんなトラブル起こしますか?警官もその辺りの事情知ってたからこそ、貴方に冷たく当たったんでしょうね?」

「うちは父の代でこの町に来たんだ。そんなしがらみ等とは無縁だ。」

だからと言って金に汚い商売をしてよいと言う訳では無かろうが、この辺りに無頓着な故にこのような財を築き上げることが出来たのか。


『余所者が悪どく金を稼いでいる』町の人に恨まれる原因の一つだろう。


娘が義憤に駆られて父親への抗議の為に家出をする。原因としては有りそうだが・・・、しかしその行動にどれ程の効果が認められるのか?家出をしてみたところでこの父親が反省して契約をなかった事にするとは思えない。


通帳のトリックを見破られることを前提に、潜伏先の候補を広範囲に広げる為にわざと大金を引き出したのならかなり頭の切れる少女の様だ。しかし、その少女がこの様な効果の薄い行動を大掛かりに行うと言う理由としては弱すぎる様に思える。


「なにか、他に見落としている事が有るような気がするのですが・・・。」

義経がそう口にした時、おそるおそると言った風で夫人が義経に話しかけた。


「あの・・・実は娘が『猫の幽霊を見た』と言っていた時期から、私の夢の中にも猫が現れる様になっていたんですが、何か関係あるのでしょうか?」


夫人の告白に隆興は夫人を睨みつけ『何故言わなかったんだ!?』と責め立てたが、夫人にしてみれば娘が言った『猫の幽霊』の言葉に影響して夢に出たのだろうと深くは考えなかったようだ。


「その『猫の幽霊』ですが、何か行動したり言ったりしてませんでしたか?」

義経の問いに夫人が応える。


「はい、何故か私に『しばらく実家に帰るように』と言っていたんです。」

「実家に?奥様のご実家はどちらですか?」

「この町に昔からある家です。私は地元出身なので・・・。」

夫人の告白に、一旦脇に追いやっていた『猫の幽霊』に再びスポットライトが当たる時がやってきた。


「『旧家の古物』『猫の幽霊』『夫人と娘を家の外へと仕向ける』?・・・」


義経の頭の中でこれらの事柄を一つに纏めるべく、考えが巡らされた。





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