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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
九十九神(ツクモガミ)

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13/18

Highway X


「おい!左だ!」

「コイツ!ちょこまかと動きやがって!」

追い越し車線を走るハイエースは、走行車線を並走する青い軽自動車に再び幅寄せを試みる。横風を受けながらもハンドルを取られない様に操作をする為、「アマガエル」の指摘した通りに動作は緩慢となる成らざるを得ない。


《小僧!貴様のオーナーの未熟さを呪え!ノロマめ!》

「アマガエル」は120km/hを超える速度で走行しながらも一気に加速する、すでにハイエースより10mも先へ移動しており、その円らなテールライトがハイエースを嘲笑うかのように赤く光を放つ。


「速ぇ!なんだこの車!は?軽?軽自動車かよ!?」

「なんだよこの軽!見た事ねぇぞ!新型か!?」

ハイエースの男達は記憶にないその後ろ姿に困惑しつつ、その運動性能に舌を巻く。


《ポンコツ!戻って来い潰してやる!整備工場で廃盤部品探して泣いてろ!》

《追いつけんか?悔しいのう?無理すると解体屋行きになるぞ?》


ハイエースと「アマガエル」のやり取りを五月は聞いていた。その内容はほぼ理解できなかったが、取敢えず相手が停止する意思が無い事だけ理解できた。


「停まる気はないみたいだな。」

「事故る前に停まってくれないと人質の男の子も無事じゃ済まないですね。」

男の子の身柄を確保さえすれば後は勝手に事故ってくれても問題はないのだが。


「あたしが奴に飛び移る!」

「大人しく飛び移らせてくれないですよ?躱されたらそれでお終いです。」

飛び移れたとしても窓を割って入る前に振り落とされる可能性が高い。「管狐」が伝えてきた車内の様子では後部のカーゴスペースに他に仲間が二人居り、その男達もこちらの行動を注視しているようだ。警戒されては飛び移れまい。


「ヤヨイ!奴から距離を取れ!思い切って前に行け!」

「え?前に行くんですか???」


困惑しつつも弥生はアクセルをベタ踏みして、五月の言う通りにした。



────────────────────


「アマガエル」は一気に加速した。スピードメーターの限界140km/hを軽く振り切ってしまっても尚加速する。あっという間にハイエースからはテールランプの赤い光点が見えるだけとなり、車体のシルエットすら定かでは無くなった。


「速ぇぇ!一体何キロ出てるんだ!?」

「見えなくなりやがった!?何考えてんだあの女達?」


ハイエースの中は騒然とした、さっきまで周りをうろちょろしていた軽が今度は一気に加速して視界から消え去ろうとしているのだ。もしかして揶揄われているのか?


《くそ!こんな輩が運転してなきゃ俺だってあれ位飛ばせるのに!》

ハイエースは己の身の不幸を呪った。スピードメーターは160km/hまで表示があり、リミッターもそこで設定されている。そこまでは加速し続けさえすれば到達できるのだが、乗り手にその度胸がない為にあんなポンコツに笑われようとは・・・。


同時にハイエースは視界から消え去ったポンコツに嫉妬さえしていた。乗り手と車がまさに人馬一体となった様を見せつけられ、奴は歓喜の咆哮を上げてハイウェイを思うまま駆け抜けていっているのだ。


この乗り手にとって自分は「愛車」ではない、乗り手にとって自分はただの己の自己満足を満たすだけの「アイテム」でしかないのだ。多少ドレスアップしたりと手間をかけたりはしているが、それは単にドレスアップした目立つ車に乗っている己をアピールしたいだけだ。「愛着」などと言うモノは存在しないのだ。


しかしあのポンコツは違う。何十年も前に製造されているのに現在も変わらないどころか、さらに性能を向上させ維持している。何人オーナーが変わったのかは知らないが、それぞれのオーナーに変わらぬ愛情を注がれて大切にされてきたのだろう。


それに比べて自分は犯罪の片棒を担がせられるなど・・・。


ハイエースが己の存在意義を見失いかけた時、乗り手たちが騒いだ。


「ブレーキ踏んだのか?テールランプ光ったな。」

「速度が落ちて近づいてくるな、エンジントラブルか?」


はるか先に進んだと思われていた軽が速度を落としたのかみるみる近づいてきた。

ハイビームに照らされたその後ろ姿が確認できた時、そのルーフ上に何かが見えた。

その何かを確認する前に車間距離を感知したオートライトがロービームに切り替わり、ルーフの上の存在をかき消した。その直後


ハイエースのフロントガラスが音をたてて砕け散った。


────────────────────


「アマガエル」のルーフから後方のハイエースに飛んだ五月は、そのフロントガラスを蹴り砕いてハイエース内へ飛び込んだ。

飛び込んだ瞬間、一瞬で内部の様子を把握する。運転席に一人、助手席に一人、フラットな荷室に男が二人、人質と思しき小学校低学年の男の子が1人居た。


五月はすれ違いざま運転手と助手席の男を軽く殴打した、相当な速度で飛び込んだので軽く叩いたつもりでも昏倒するには十分な衝撃となる。その勢いのまま荷室に移動しリアゲートを蹴り破る勢いで破砕音をたてて着地する。


衝撃でリアゲートが開き、余りの勢いに負けた左側のヒンジとダンパーが破損し、右側のヒンジとダンパーのみで辛うじて接続を保つ。

歪な状態のリアゲートが風圧を受け、車体が大きく揺らぐ。揺れる荷室で二人の男を昏倒させた五月は驚きのあまり固まる少年を確保する。

暴れるハイエースから脱出する為、一応「アマガエル」に聞く。


『アマガエル、迎えに来れるか?』

《無茶言うな姐さん、近寄ったら弾き飛ばされてしまうわい。》

『あー、解った、何とかする。』


そう言うや五月は男の子を右手で小脇に抱え、左手でリアゲートを引き千切った。


そして進行方向を向いた姿勢で大きく後方へと飛び出し、路面に投げ捨てたリアゲートの上に器用に飛び乗った。アスファルトとの摩擦で火花をまき散らしつつ、リアゲートに乗った五月はハイウェイ上を滑走していく。


ハイエースは大きく左右に振れた後、左の遮音壁へと接触しそのまま横転して走行車線を塞ぐようにして停止した。五月はリアゲートを体重移動のみで器用に操りハイエースを避けて滑走し、事故現場から100m程進んだところで路上へ降りた。


丁度そこには「アマガエル」がハザードランプを点灯させながら路肩によって五月の帰りを待っている所だった。

『ケガしてない?』五月は男の子に怪我がないか確かめると、男の子は首を振って否定の意思を伝える、五月は無傷の少年を「アマガエル」の助手席へ乗せた。


「随分派手にやっちゃいましたね?」

「んー、あとは警察に任せよう。ヤヨイはこの子事務所まで連れてって。」

「え?狭いですけど後部座席なら男の子載せれますよ。」

助手席のドアを外から閉めた五月に対し、弥生が一緒に帰ろうと促した時、


「お腹減ったから下に見えるお店でお肉食べて帰る。先に帰ってて。」

五月はそう言うや、眼下に見える街並みの夜景に向かって高架橋から10数mの高さも物ともせずに飛び降りた。


「あ!五月さん!ここ隣町で場所解りま・・・あー行っちゃった。」


ハイエースとやり取りしている間に10数km程離れた隣の市まで来てしまったのだが、五月はそれを理解しているのだろうか?一人で帰れるのかな?お店の場所が解れば迎えには行けるけど・・・。


弥生はスマホを取り出してせめてどこのお店に向かうのか聞いておこうと、連絡を取るべく五月のスマホへ発信した。すると何故か助手席からコール音が鳴り響く。


「あ!五月さん、スマホ忘れて行ってる!支払いどうするの!?」


弥生は助手席から聞こえるコール音に困惑し、しばらく呆然としていた。




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