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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
信楽 弥生

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玄翁和尚(げんのうおしょう)


「姉さん!五月さん!そら君ごめんね!」

彩音は橋の袂に空外少年を残し、倒れて苦しむ弥生の元へと駆けて行く。


強い火山性ガスの臭気に咳き込みながらも、なんとか弥生の元へと辿り着いた彩音は弥生の右手を自分の肩にまわし左手で弥生の腰を支えて肩を貸すようにして、なんとかその場所から逃れようとする。


殺生石の華陽はその光景を眺めつつも、彩音の邪魔は一切しなかった。

華陽にとっても弥生はここで死なせるわけに行かず、安全な位置に移動させた後で猟犬どもが絶命したのを確認してから、ゆっくり弥生を取り込むつもりだった。


『そうよ少年、もう少し離れた場所へ連れて行ってあげてね、大切な『器』を』


途中で苦しむ政光と目が合ったが、彼は彩音に『早く行け』と言う風に手で合図をし、彩音はそれに頭を下げながら少しでも標高の高い神社へ向かう道へ戻る。

空外少年を寝かせた橋の袂から先へ進めば、空気より重い火山性ガスは川へ流れ橋を超えて進むのは時間が掛かるはずだ。


彩音は橋の先のガスの臭いのしない場所まで行き、そこへ弥生を横たえた。

再び戻って3人をここへ運ばなければ、一度に全員は無理だ、誰から?

政光さんは重い、悪いが後回しだ。五月さんと義経さんなら同じ位か?単純な戦闘力なら五月さんか?などと考えて戻るうちに橋の袂に空外少年の姿が無い事に気付く。


「え?そら君!?何処に行ったんだ!?」


彩音が周囲を探すまでも無く、いつの間に目覚めたのか、前方に殺生石を目指して歩く少年の姿を見つけた。自分達が苦しむ火山性ガスの臭気の中を平然と、しっかりした足取りで歩を進めている。広場までたどり着くと設置してある手摺を回り込み確実に殺生石へと向かっていた。


「そら君!危ない!そっちへ行ったら駄目だ!」

彩音の叫び声も空外少年には届かない、足元の岩を避け黙々と進んで行く。


殺生石の中の華陽も、空外少年が何事も無く近付いてくるのに困惑していた。

特別な力の有る少年でもない彼を殺す意味は無いが常人が苦しむガスの充満する中を平然と歩く少年を警戒するのは自然だった。そして華陽は『それ』に気づいた。


『・・・?少年の背後に何か見える?』


近付く空外少年の背後に何やら白く光る人影のような物があるのが見えた。

それが徐々に近づくにつれて、確実に人の姿をしている事がはっきりと解った。

どこかで見た覚えのある姿かたち。何処で見たものであったか・・・?


空外少年が苦しむ義経の傍を通り越し、殺生石の側へたどり着いた頃、その人影は僧形をした人間の姿だと、華陽は気付いた。・・・此奴は・・・まさか!?

華陽は目の前に佇みこちらを見つめる白い光の人型の正体に思い至った。


『玄翁!?貴様か?玄翁和尚げんのうおしょう!?お前かぁ!!』


その人影に、かつて殺生石を破壊した玄翁和尚の姿を見た華陽は、恐怖した。



────────────────────


至徳2年(1385年)8月、周囲に毒気を振りまく殺生石を破壊したとされる曹洞宗の高僧、玄翁玄妙げんのうげんみょう、通称「玄翁和尚」、その号『空外』──


『空外!!・・・まさか貴様!!少年の姿に!?』


空外少年が右の掌を殺生石へと当てた瞬間、殺生石は破裂音を響かせ、毒気の噴出がぴたりと止まった。殺生石の華陽は苦しそうな声を振り絞る。


『・・・き、貴様・・・、まさか現代に転生して・・・いようとは・・・。』

空外少年を攫った時点で自分の敗北が決定していたのだと華陽は気付き、殺生石の封印を破る力さえ失いつつあった。


毒気が散り、清浄な空気が殺生石の周囲に満ちると、藻掻き苦しんでいた政光も、義経も咳き込みながらも正気を取り戻した。流石に本調子には程遠く何とかその身を起こそうとして、咳き込みながらも立ち上がるまでには至らなかった。


そんな中、五月のみが何事も無かったかのようにすっと立ち上がり、左手に神剣「炎帝朱雀」を持ち、毒気に苦しんでいた事など無かったかのように。しっかりとした足取りで殺生石の元へと進んでゆく。


「・・・五月さん?一体・・・何を?」

「五月君・・・君は・・・大丈夫なのか?」


五月は政光と義経の問いには答えず、殺生石前に居る空外少年に目配せし、少年も頷いてその場から離れ広場へ移動した。その頃には意識を取り戻した弥生と彩音も殺生石広場に辿り着き、少年と合流した。「オサキ」は弥生の回復に専念し、彼女の周囲に纏わりついている。


「・・・そら君、どうしたの?一体何があったの?」


広場へ戻った少年は弥生の問いに答えず、ただ無言で殺生石前の五月を指で指し示す。五月は殺生石の割れた断面の狐耳の女性のシルエットと相対していた。


弥生から見える五月の横顔は、いつものどこか飄々とし、おっとりとした雰囲気は全く感じられ無かった。そこに在るのは凛々しく気品に満ちた、神々しさすら感じられる、天上の女神とはこの様な姿なのだろうと思わせる美の化身の姿だった。


「五月さん?・・・いえ、違う。一体あなたは・・・?」


弥生は神々しいその姿に、自分では気づかぬうちに問いかけていた。



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