メイの選択
メイが気付いた時、何もない真っ暗な空間に生まれたままの姿で浮かんでいた。
「ここは・・・?なんなんだ?」
重さの感じない身体に異常が無いかを確認しながら、ついでに周囲を見渡す。
見渡す限り何もない、真っ暗な闇が有るだけだった。そこに儚げに浮かんでいる。
その浮遊感につい先ほどもどこかで中空に居たような記憶がある様な・・・?
そう思い付いた瞬間、眼下に見覚えのあるような光景が広がった。
岩の目立つ荒れ地の中空に自分が居り、その真下に尾が二つに避けた狐が居る。
「これ、あたしか?何やってんだ?」
メイは中空に浮かんだままの自分の身体を触ろうとしたが、その手は体を触る事が出来なかった。手応え無く擦り抜けてしまう、今の自分の体に実体が伴わない事に気付く。そうこうする内に徐々に記憶が蘇ってきた。
記憶と言っても、目の前で繰り広げられている中空に浮いて狐と対峙している時の記憶ではない、今現在の姿、「魂」の状態の時の記憶だ。
そうだ、自分の魂は死んだ後は別の身体の中に入り、今度は別の生物としての生を過ごし、再び死んだ後にその体を捨てて、また別の身体に入って違う生物としての生を過ごす、と言う事を幾度も繰り返して居たのだ。と、思い出した。
『そうだ、生を繰り返す事で最終的にドラゴンへ生まれ変わるのが目的だった。』
様々な生物としての経験を積み、その中で己の精神を高めて高位の存在になる。
それを繰り返すのが生物の宿命であり、次の高位の存在になるのが義務なのだ。
最終的には生物界の頂点「ドラゴン」となった後、更に神格を高め「神」と呼ばれる存在へなる事がこの世に生を受けた生物に課された使命だったのだ。
「そうか、この身体が何をしていたか思い出せないが、次の身体に移る時なんだ。」
メイは納得した、そうなるとこんな所でぐずぐずしている場合ではない。どこかで生まれるはずの自分に用意された新しい身体の元へ行かなければ、何度も繰り返していた事をまた繰り返さなければならない。そう思うと闇の向こうに明るい光が見えた。
その光の中でこちらに向かって自分を呼ぶ声が聞こえる。
『ああ、もうすぐ新しい身体が生まれるんだ、早く行かなければ。』
すると光が大きくなり向こうの景色が鮮明に見える。そこで自分を呼んでいるのは、白い外殻に金色の文様の浮かび上がる大きな卵だった。その文様は翼を広げた『竜』の様に見えた。まさか『ドラゴンの卵』!?
ついに最終目標の「ドラゴン」への転生の道が開かれた。あれに転生して目覚めれば、ドラゴンとしての生を送れるのだ。高鳴る鼓動を抑えきれず、その場を後にしようとした所、後方から五月を呼び詰める声がした。
『姐さん、お待ちくだされ、まだ其方へには行かれますな。』
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メイが声のする方を振り向くと、そこには大鎧を身に纏った鎧武者の集団が居た。
無傷の者は一人として居らず、その大鎧も千切れ、破れ、凄惨な戦闘を行った後としか見えない姿だった。その鎧武者たちがその場に着座し頭を下げ礼を尽くしていた。
「なにか用?あたし忙しいんだけど?」
「初対面の身で厚かましいとお思いであろうが、是非ともお願いしたき義が御座いまする。」先頭の男が頭を下げると後ろに控える武者たちも一斉に頭を下げた。
『我ら、900年前にそこに居る妖狐を倒すべく集められた者共ではありますが、志半ばに倒され、残された仲間の手によってようやく妖狐を封印する事が叶いました。』
彼らが言うには、多大な犠牲を払ったにも拘らず、完全に妖狐の息の根を止める事が叶わず、成仏できずに妖狐の消滅をその目で見届けるまでは、と、この地に900年もの間縛られているのだと言う。
そして今夜、復活せんとする妖狐とそれを阻止せんとする者達の攻防が始まった為、それまでこの地で眠りについていた者すらたたき起こされ、その攻防の手助けをしていたらしい。地蔵弾の追加効果等も彼らが手助けしてくれたそうだ。
「姐さん、妖狐をあと一歩の所まで追い詰めたのに直前で命を落とした事はさぞや無念でありましょう。是非とも我らと・・・」
「あー、ドラゴンに転生できそうだから妖狐とか別にどうでも良いんだけど?」
メイが妖狐との攻防の結末に興味を失っている事に鎧武者たちは騒然とした。
「は?いや、あと一歩で妖狐を倒せるかも知れんのですぞ!?」
「んー?あたし、なんでアイツと戦ってるかも良く分かんないんだけど?」
その言葉に鎧武者たちは騒めき、『考え直してくれ』『何をいまさら』『儂らを殺してから行ってくれ』等と口々に騒ぎ出したのには流石にメイも閉口した。
「本当にどうでも良いんだけど、何なんだ?コイツ等は?」
どうにも前世の自分がなんで中空に居て狐と戦っているのか意味が解らない。
なんか地面に狐が転がっていて、ケガした自分が居て、その目の前には剣が一本ある。・・・・ん?・・・剣?・・・刀・・・?
『紅月様からだ、『炎帝朱雀』これを持って行けってさ。』
『!?これってマサキ様用に造られた対邪神用の最強の剣では?』
・・・・紅月様!・・・炎帝朱雀!・・・マサキ様!?
メイは記憶を一部取り戻した。最高神「九尾の狐」紅月様から預かった刀!
これを捨てて行く事など出来ようか!?例えドラゴン威転生しようとも、この刀を捨てて行けば後悔に苛まれてしまうだろう。この手に取り戻さなくては!そして、必ず生きて戻りあの刀を御返しするまでは絶対に死ねないんだ!
「アンタたち!あたしは元に戻らなければいけない!どうすればいい!?」
「おお!妖狐を討って下さるか!?元に戻るのは容易うござる、『妖狐を討つ!』と強く念じて下されば自然と身体と魂が呼び合いましょうぞ!」
歓喜に沸き立つ鎧武者たちを他所に、メイは生き返って妖狐を討ち、そして必ずあの刀をお返しする事を全ての神に誓った。そして宣言する。
『妖狐!お前はこのあたしが必ず倒す!!』
その瞬間メイの視界の隅で光輝く物があった。そちらに視線をやると中空に浮かび眼下の狐と対峙する自分の元の身体が光り輝いているのが見えた。それは自分自身の身体がこっちに来いと魂の自分を呼んでいる合図の光だった。
そして魂は身体に引き寄せられ、遂にメイは復活する。
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「!・・・・がっ!あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
中空の五月の身体が蘇生した、ただし意識は戻り切っていなかった。
自分が何者なのか、何をしているのか、これからどうすれば良いのか、一切が不明。
しかし本能だけで体が動いた。目の前に在る刀を手に取ろうとし、手に力が入らないのを悟ると即座に柄に喰らい付き、何とか動く右手を峰に添えた、そのままの姿勢で眼下の狐目掛けて落下する。
『妖狐を討て!』
その言葉と意味だけが思い出せ、理解できた。この刃をあの狐に叩き付けねばならない。その想いだけを、その目的だけを糧に、自由にならない身体を奮い立たせる。
妖狐は死んだはずの『狼』が息を吹き返したのを驚愕の目で見据えた。
「息を吹き返しただと!?まだ喰らい付く気か!『狂った猟犬』めが!!』
刀に喰らい付いてまでその刃を我が身に届けようとの執念に妖狐は吠えた。
「その様な使い方で刀が斬れると思うてか!?愚か者!?」
妖狐は無様すぎる刀の構えの五月を嘲笑い、その刃を自らの身体で弾き返した後に五月を喰らい、自らの血肉に代えてやろうと待ち構える。
真っ逆さまの五月の身体ごと降って来たその刃を鋼の体毛で受け止めた直後。
「がっ!?」
その刃は何の抵抗も無く妖狐の首の肉に滑り込み、首の骨に当たった所で止まり、五月の身体を受け止めた妖狐は激痛に絶叫した。




