傷に棲むもの
「レオンさん村を大きな柵で囲いましょう」
真剣な眼差しでイツキは言う。
「……もう、あんな一件には遭遇したくありません。」
「たしかにイツキ殿の言う通りだ。すぐに取り掛かるとしよう。」
と言いレオンは急いで仕事に取り掛かった。
イツキは部屋で1人になると、呟くように言った。
「この柵で前みたいな事件が無くなるといいな……」
その時扉が開く
「ねぇイツキ薬草採取に行こ」
笑顔で誘ってくるのはエマだ。
エマも完全にあの事件から立ち直れた訳ではない。
だが、誰にも心配をかけないように元気に振舞っている。
「あぁいいぞ」
「……ほんと?行こ」
嬉しそうに微笑む
「ところで何を取りに行きたいんだ?」
「村の人たちが、頭痛に効くものと熱に効くものそれから、軽い火傷に効くものが欲しいって言ってた」
「分かった。なら、葛とドクダミを取りに行こう」
2人は雑木林の方へ向かった。
ドクダミや葛はどこにでも生えている。いわば雑草みたいなものだ。
「……こんな雑草でも、使い方次第では薬になる。」
すぐに見つけることができ採取することが出来た。
足早に屋敷に戻り調剤を始めた。
「まずは、頭痛や熱に効く薬を作ろう」
取り立ての葛の根を刻む。同じように麻黄や生姜、ナツメ、シナモン、シャクヤク、甘草を刻む。
刻んだものを鍋に入れ水を入れる。
水はこれくらい……多すぎても薄くなるし少なすぎても焦げる
ここで鉄や銅の鍋は使ってはならない。なぜなら性質が変化する可能性があるからだ。
最初は強火にかけ、沸騰したら弱火にする。
水分が半分くらいになるまで、1時間ほどじっくり煎じる。
それを熱いうちにろ過する。
「これで、完成だ。」
「これはなんて言う薬なの?」
エマは不思議そうに聞く
「葛根湯って言って風邪や肩こり、血行をよくする作用を持つ漢方だ」
「火傷には、どう対処するの?」
「ドクダミの生葉を使う。つまり調合なんてことはしなくていいってことさ」
「それじゃあ全部これで完成したの?」
「そういうことになるな。後は前作ったドクダミ茶とハッカのハーブティーそれと緑茶だ。」
「なんで?」
エマは不思議そうに聞く
「頭痛には種類があってそれぞれ効く物が違うんだ。」
「なるほど」
「では、これを必要としている人達に持って行こうか」
2人は村にある診療所に向かった。
今この村の診療所には、医者はいない。だからイツキたちが代わりに務めている。
開店すると共に村の人たちが何人か薬を貰いにやってきた。
「1列目の人から来てください。」
やってきたのは普段畑作をしていそうな男だ。
「今日はどのようなご要件で」
「最近、頭痛が酷くてな」
「どのような頭痛でしょうか?」
「ギューッと締め付けられるような感じです。」
「失礼します」
と言いイツキは男の肩に触れる。
「硬いな。何ですかこの肩はこりすぎですよ。」
呆れたようにイツキは
「これじゃあ、締め付けるような頭痛になりますよ。」
「治せますか?」
「ここまでこっていると分からないですが……一応薬を処方しておきますね。」
イツキは葛根湯を持ってくる。
「食前または食間1時間以内に飲んでください。今日作ったものなので出来れば今日中に服薬してください。」
「わかりました。」
男は会釈し、診療所を離れる。
「次の方どうぞ」
これに似たような事を10件ぐらい行った時
列を乱すように男が診療所の中に入ってくる。
「呪いだぁ……!」
男は腕を突き出す。
その手の甲の傷口から
白い何かが、傷の奥で蠢いていた。
「……落ち着け」
イツキは男の腕を掴む。
「呪いじゃない。まずは見せろ」
男は息を整えるように座り手を見せてきた。
「ひっ……!なに、それ……動いて……」
エマが1歩下がる。
「大丈夫、これは呪いなんかじゃない」
落ち着き払った声で言う。
「これは虫だ。傷に卵を植え付けられている。」
「だ…大丈夫なのか?」
男は心配そうに聞く
「……放っておけば、肉を食い荒らす。」
エマと男は驚きを隠せない顔をする。
「だが、今ならまだ間に合う。」
「何を用意すればいい?」
エマは聞く。
「そうだな、ピンセットと重曹を頼む。」
「わかった。」
と言いエマは大きく頷く
「ところで何でこんな怪我したんですか?」
「俺は木こりなんだが、少しむちゃやってしまってな。」
「なるほど、ところで包帯などは巻きましたか?」
「いや、巻いてねぇ。軽い怪我だったからいらないと思ってな。」
呆れたようにイツキは
「だから、こうなる」
などと話していたらエマが戻ってきた。
「持ってきたよ」
「ありがとう。エマ」
イツキはピンセットを手に持つ。
ピンセットの先で、白い虫を1匹ずつ摘み取る。
男は歯を食いしばり、声を押し殺した。
「後、少しだ。」
……やがて。
「……これでウジ虫は全て取り出せた。」
イツキは短く息を吐く。
「次はこれだ」
少量の水と重曹を混ぜペースト状にする。
これをウジ虫が湧いていたところに塗る。
「応急処置ですがこれで、湧くことはないでしょう」
「ありがとうございます。」
「次からは、軽い傷でもちゃんと処置してくださいね。」
男は深々と頭を下げ診療所を出ていった。
イツキは小さく呟く
「今回は救えた。」
外では、いつの間にかハエが数匹、窓に張り付いていた。




