呪いの川の真実
「ここ、クチナシがあるよ」
嬉しそうに言ってくるのはエマだ。
「そうだな。クチナシは、漢方でも使われている。どんな効能があるか覚えているか?」
「たしか、体の熱を冷ます作用があるんだよね?」
「そうそう。よく勉強しているじゃないか。」
嬉しそうにエマはぴょんぴょんとはねた。
イツキがエマと一緒に薬草採取をしていると奥からふわっとアンモニアのような刺激臭がしてきた。
「アンモニア臭?」
不思議そうにイツキは言う。
刺激臭のする方へ行くとそこには川があった。
川は茶色く濁り、明らかに異様な光景だった。
「……まさか」
イツキは直ぐに理解した。
「これはまずい。このままだと病気が広がってしまう。」
「もしかして、呪いなの?」
震えながらエマは言う。
「違う。これは、人が怠けたせいで起こる公害だ。」
イツキとエマは屋敷に急いで戻った。
「レオンさんこのままじゃ大量に死人が出る可能性があります。」
急かすようにイツキは言う。
「大量に死人。それは本当かイツキ殿。なぜそうなると予測できるのですか?」
「さっき薬草を取りにこの屋敷から見て西側の方へと向かいました。その時刺激臭がし匂いの方向へと進んでいくと、ふん尿を垂れ流しにしている川を見つけました。」
「あぁアオハ川のことか。あそこは下水の終着点にしているからな。」
たしかに中世ヨーロッパでは、あまり下水を処理していなかった。それによりペストが大流行した歴史がある。
だが、僕がこの世界に来たからには同じ徹は踏ませない。
「このまま放置しているとネズミやノミが大量に増えペストが大流行してしまいます。」
「また、ペストが流行ってしまうのですか?どうすればペストを回避できますか」
強い眼差しでこちらを見てくる。
「下水を浄水しましょう。微生物の力を使って。」
「ほう、それで何か用意するものはございますか」
「そうですね。蓋ありのビンをできるだけください。それと石灰石と粘土、砂、砂利はありますか?あとは大量の水を」
「あぁ全て用意させよう。」
レオンさんは急いで用意に取り掛かった。
「ところで今から何を作るの?」
皆目見当もつかない様子でエマが聞いてくる。
「今から腐敗槽を作る。」
エマは、首を傾げる。
「まぁつまり、汚物をある程度綺麗に出来る装置ってことだ。」
まず最初にイツキは、コンポスト化された肥料をビンに少し入れ水でいっぱいにする作業をした。できた肥料入のビンは光の当たらないところに置かれた。
「これは何をしてるの?」
エマが不思議そうに聞いてくる。
「これが今回作る浄水施設の鍵になる微生物。こいつらが汚物を食べてくれるんだ。」
「食べる?」
「あぁそうだ。こいつを嫌気性バクテリアって言うんだ。」
「嫌気性?」
「簡単に説明すると、生きるために酸素を使わない生物のことを言うんだ。」
100個くらい作れただろうか。ある程度ビン詰めが終わった。
イツキとエマは次の行程へと進んだ。
まず、村の人達に手伝ってもらいアオハ川の近くに木で大きな腐敗槽の型枠を作る。
そして、用意してもらった石灰石を高温で焼き生石灰を作る。
それから粘土も高温で焼いて焼き粘土を作る。
生石灰と焼き粘土、砂、砂利を混ぜ合わせそこに水を加える。そうすると水と生石灰が発熱反応を起こし、高温になる。これにより化学反応が加速されセメントが完成する。
木で作られた型枠の中に砂利やレンガの破片を隙間なく埋める。その上からさっき作ったセメント流し込む。ここで隙間ができてはダメだ。
そしてセメントが固まるまで何日間か待つ。
セメントが固まったら木枠を外しどこにも隙間が無いかをねんみつに確認する。
「完璧だ。」
ビンで育てていた。微生物達を腐敗槽の中に入れた。
「おぉできたのですねイツキ殿。ところで、これはどういう仕組みなのですか?」
「まず下水が入ってくると第1層では重さで分けます。重たいものは底に軽いものは第2層に流れて行きます。」
「ほぉかなり仕組みは簡単そうですな」
「第2層では微生物達が汚れを食べてくれます。やっとここで水が透明になってきます。綺麗になった水を砂利を敷き詰めた場所に流しそのまま土に吸収させます。そこで土の中にいる微生物達に仕上げをしてもらい完了します。」
「微生物さまさまですな。これはもう放置しておくだけでよろしいのですか?」
「いえ、半年に1回のペースで中に溜まった泥を取り除かないといけません。」
「この取り除いた泥はどうすればよろしいのですか?」
「コンポスト化するといいですよ。」
これで当分は大丈夫だろう。こういう力仕事系はもうできるだけやりたくないな。
「これで……少しはこの村で病に犯され死ぬことは減るだろう」
とため息混じりにイツキは言う。
川の方を見た。
「綺麗になって良かった。この川の壊された生態系がいつか治るといいな」
と言いながら暗くなった空を見上げる。
綺麗な満月の夜だった。




