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熊に殺され異世界に転移したので虫と薬草の知識で生きていきます 〜辺境村の薬師は怪異を医学で解く〜  作者: 猫山 緑
砂糖の脅威

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甘い代償

「いいもの買ってきたよ」


と言いながらエマが実験室に入ってくる。


「えーっとね最近村で流行ってる、カステラ」


ガサゴソと取り出した箱には、美味しそうなカステラが入っていた。


「良かったじゃないか。今からお茶を入れるよ」


イツキはお湯を沸かした。


「ずっと、食べたいと言ってましたもんね」


ノアが言う。


グレン村の土壌は、てんさい糖を育てるのに適していた。


それに気づいたイツキは、レオンに言い大量生産して貰っている。


これにより、高価なものであった砂糖の価値が暴落し砂糖を使った菓子がこの村では流行った。


その中でも特にカステラは大きな人気を博した。


3人は食べ始める。


「美味しいな」


懐かしむようにイツキは言う。


「美味いっすね」


ノアも感心したように頷く。


その隣でエマは無心でカステラを頬張っていた。


既に3切れ目である。


「……エマ」


「なに?」


「食べ過ぎじゃないか?」


「だって美味しいんだもん」


「はぁ」とイツキはため息を吐く。


「まぁまぁ、最近は村の子どもたちもお菓子ばっかり食べてるらしいですし」


ノアが宥めるように言う。


「昔は贅沢品だったからな」


イツキは苦笑いする。


「そういえば、最近胃痛だけでなくて腹を下す患者も増えてますよね」


ノアは言う。


「お菓子を食べ過ぎてお腹を壊したんだろ」


イツキは紙を取り出した。


「にしても、食べすぎだけでこんなにお腹を壊す人が増えますかね?」


ノアは、不思議そうに言う。


「また、別の要因も隠れているのかもな」


イツキもノアの発言に納得するように言う。


「まぁとりあえず、制酸剤とベルベリンでも用意しとくか」


イツキは必要なものを紙に書き出しノアに渡す。


「これを用意してくれ」


「はーい」


ノアはそそくさと用意する。


「今回は前のカロナールに比べて簡単に調合できそうですね」


「まぁカロナールは特別難しかったからな」


制酸剤の調剤はすぐに終わった。


重曹を水に溶かすだけでできるからだ。


問題はベルベリンだ。


乾燥させたキハダの樹皮とエタノールを混ぜる。


これを濾過させ、濾液を塩酸と混ぜる。


そうすると、黄色い針状の結晶ができる。


これを再結晶させるとベルベリンが完成する。


イツキは薬を薬棚に閉まった。


「エマ、胃が痛くなったらここから制酸剤を一錠取って飲むんだぞ。お腹を下したらベルベリンを」


「別にお腹壊さないよーだ」


「念の為に言ってるんだ」


イツキは呆れたように言う。


コンコン


突然、診療所の扉を叩く音がした。


「先生!息子が歯が痛いと泣きわめくんです」


慌てた母親の声が診療所に鳴り響く。


「歯が痛い?」


「ほら、ルークこっちに来な」


母親は、ルークをイツキの前に連れてくる。


「ルークくん口を開けてくれる?」


イツキは口の中を見る。


すると、2つの奥歯の咬合面が黒くなっていた。


「やっぱり現れたか」


「何が?」


エマは首を傾げる。


「虫歯だよ。」


「……虫歯?」


エマは聞きなれない言葉に首を傾げる。


「歯に穴が開く病気だ」


「病気!?」


「正確には、口の中の細菌が糖を食べて酸を作る。その酸が歯を少しずつ溶かして行くんだ」


ルークは頬を抑えながら


「うぅ……ズキズキする……」


と涙目で言った。


「ごめんね。」


ルークを慰めるようにイツキは言う。


イツキはしばらく歯を観察した。


「かなり深くまで侵されているな……」


「治らないんですか?」


母親は不安そうに聞く。


「削って埋める道具があれば別ですが、この村にはないんです」


「じゃあ……」


「痛みを無くすには抜くしかありません」


「抜いたらもう歯は生えないんじゃ……」


「いえ、そんなことありません。見た感じまだ、子どもの歯だったのでそのうち大人の歯が生えます」


母親は、安堵の息をもらした。


「ノア、前作ったリドカイン塩酸塩を用意しといてくれ」


ノアは薬棚からリドカイン塩酸塩を持ってくる。


イツキが試作した局所麻酔薬である。


イツキはルークを連れて、診察室に入れる。


背もたれを倒した椅子にルークを座らせる。


ルークに口を開けてもらい、ノアに注射をもらう。


「やだ……注射いやだ……」


ルークは椅子の肘掛を強くにぎる。


「大丈夫。少しチクっとするだけだ」


イツキは優しく声をかけた。


その注射を虫歯のある歯の周囲の歯茎に打つ。


「せ、先生……」


「どうした?」


「口がなくなったみたい……」


ルークは不安そうに言う。


「ちゃんとあるから安心しろ」


イツキは医療用ペンチをもちルークの歯をゆっくり抜く。


綺麗に2本とも抜くことができた。


抜歯後の傷口を丁寧に清掃する。


掃除が終わると穴の中に少しだけ血を貯める。


この血が固まると血餅になり傷口を保護してくれる。


「よく頑張ったね」


イツキは優しく微笑む。


「甘いものは程々にな」


イツキはチラッとエマの方を見る。


「お母さん、ルークくんは毎日歯を磨いてますか?」


「えぇ磨いてるわ……多分」


「何で磨いていますか?」


「布で拭いているだけですが……」


イツキは今更気づいた。この世界には、歯ブラシが普及していないことを。

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