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熊に殺され異世界に転移したので虫と薬草の知識で生きていきます 〜辺境村の薬師は怪異を医学で解く〜  作者: 猫山 緑
『心』

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治せない傷

リリアの治療が終わった後、ソフィーとクララの治療も無事に終わった。


幸い、誰もそこまで酷い状態の子はいなかった。


診察室を出た瞬間、エマは大きく息を吐いた。


気が付けば手のひらは汗で濡れている。


初めて1人で患者を見た緊張が、今になって押し寄せてきた。


エマは、イツキの元へ戻る。


「よく頑張ったな。エマ」


イツキはそっとエマの頭を撫でた。


「次、薬が上手く効けば副作用として高熱が出る。そういう時は、どうすればいい?」


イツキは質問を投げかける。


「適度に水分を取らせながら、解熱剤を飲ませる」


「正解だ」


「でも、解熱剤って…キランソウでも使うの?」


「いや、今回はカロナールを作る」


カロナール、前世では広く使われていた解熱鎮痛薬だ。


「僕とノアでカロナールは作っておくからエマは、少し休憩をしておけ」


イツキとノアは直ぐに薬の制作に取りかかった。


イツキは必要な薬品を紙に書き出す。


前世なら、工場で大量生産されていた薬だ。


だが、この世界では一から作らなければならない。


「このカロナールと言う薬には、副作用はないのか?」


ノアが聞く。


「比較的安全な薬だな。だが飲ませすぎれば肝臓を痛める」


「なったら大変ですね」


「そう、だから一人一人の体重によって量を決めているんだ」


イツキとノアは数時間かけて作業を続けた。


途中で何度も温度を確認し、生成物の状態を確かめる。


「よし、完成だ」


子ども達にペニシリンを打ってから3時間位たった頃


エマが病室を見に行くと1人の子どもが熱を出していた。


「体温を測るね。お口開けてくれる?」


エマは優しく聞く。


リリアはゆっくり口を開け体温計を咥える。


39.2°


かなりの高熱だ。


だが、イツキに聞いていた範囲内の症状でもある。


エマは慌てず水とカロナールを用意した。


「水を少し口に含んでから、この薬を口に入れて直ぐにゴックンできる?」


リリアは小さく頷く。


飲み込む時に少し苦そうな顔をした。


飲み込むのに慣れてないからだろう。直ぐに飲み込めなかったから苦味を感じてしまった。


「良薬は口に苦しって言葉、知ってる。」


リリアは顔を横に振る。


「師匠がよく言うんだ。苦い薬ほど効くんだって」


エマは自慢げに言う。


「じゃあ、この薬はよく効くね」


リリアは小さな声で言う。


エマの頬を一筋の涙が伝った。


それを隠すように笑顔で


「そうだね」


と微笑む。


その後、ほかの2人も熱が上がった。


エマは、焦らずにさっきと同じ手順で治療を施していく。


「エマさん一人で大丈夫ですかね?」


ノアはイツキに聞く。


「心配ではないと言うのは嘘になるけど、エマならしっかりやれると信じてるよ」


少し微笑ましげに言う。


「目の前に患者がいるのに何も出来ないのは嫌な気持ちになりますね」


「確かにそうだね。男性不信を患ってしまったら僕たちにはどうすることも出来ない」


「男性不信を治す薬とかは、ないんですか?」


「精神に関与していることは、薬ではほとんどどうにもならない」


「じゃあ、どうするんです?」


「時間だよ」


イツキは静かに答えた。


「家族や友人に支えられながら、少しずつ前を向くしかない」


「……随分と頼りない治療法ですね」


「心の傷に対して医者は無力なんだ」


2日後には、全員が退院出来るまでに回復した。


退院の時だった。イツキとエマ、ノアで見送っている時。


「ありがとう」


リリアが小さな声でそう言った。


それは決して大きな変化ではない。


男性への恐怖も心の傷も残ったままだろう。


それでも、彼女は確かに前を向こうとしていた。

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