第三十二話
冷たい水の中、僕は底なし沼に沈んでいく。
助けての一言も言えぬまま、黒い水の中に。
絶望という名の泥水が身体にまとわりついてくる。
忘れたくても忘れられない、あの日の記憶と共に。
そのときはもう、小夜はおれたちがついていないと学校に行けなかった。
ハイライトが見当たらないような瞳で、たった一言、
『クラスメイトから無視されるようになった。』
その言葉に、思わず視線が下に落ちていく。
その床には、小夜の涙であろう水が床を水玉模様に染めていて。
おれは、その床を見てしまった瞬間から、どうしたらいいかを考え始めていた。
その結果が、学校への送迎だった。
最初は1ヶ月ほどを予定していたのだが、小夜の強い希望で、2ヶ月、3ヶ月というように伸びていった。
そんな小夜に、仕方がないな、と言いつつも、おれたちは送迎を続けていた。
そんな日々が、2ヶ月ほど続いたころだろうか。
夏頃から、海向は受験勉強があって来られなくなった。
それでも律とおれは、ふたりで続けていた。
次に、律の父さんが死んだ。
そのせいで、律は、3日くらい、自分の学校である中学校にも来られなくなった。
本人は、葬式の手続きの手伝いをしていた、と言っていたが、本当かどうか、真偽は不明だ。
その後も、自分のことだけで手一杯になってしまった律は、小夜のお迎えには来なくなった。
それでも、おれはひとりで毎日小夜の元へと行っていた。
そんなある日、おれは学校を早退した。
朝から体調が悪くて、2時間目に保健室に行ったら熱があった。
保健室の先生が、
『親御さんに迎えに来てもらって病院に行きなさい、』
そう言ったので、大人しくその助言に従った。
診断結果はインフルエンザ。
5日間の休養、そして外出禁止を余儀なくされた。
おれはまだ良い。問題は、小夜だった。
その日、誰も小夜を迎えに行かなかった。
いや、正しくは行けなかったなのだろうが。
それでも、勝手に連れていってそのまま放置、というのはダメだろう。
迎えに行こうとした。
けれど、インフルエンザのせいで外出は禁止されてしまったし、何より母さんがおれにつきっきりになってしまって、どうしようもなかった。
小夜への連絡のために、スマホを手に取ろうとしては、彼女はまだそれを買ってもらえていないことを思い出し、テーブルへと伸ばされた手を下ろす。そんなことを何度も繰り返していた。
幸い、ちょうど部活が休みだった姉さんが迎えに行ってくれたからどうにかなったものの、いつも行く時間より2時間以上遅れてしまった。
謝れば大丈夫。
おれは、そう思っていた。
でもそれは甘かった。
インフルエンザと、5日間の外出禁止令から解放されて。
朝起きてすぐ、小夜に謝りに行った。
そうしたら、小夜はこう言ったんだ。
『いいよ。その代わりに、私のお願い、ひとつ聞いて?』
口元だけが笑った、いつもより暗い小夜のお願い。
それに対しておれは、『わかった』と言ってしまった。
その時から、狂ったんだ。
おれと小夜の関係が。
書かなきゃ!→先にゲームやろ。→書かなきゃ!→先に本読も。
こんなことを繰り返したせいで今日もだいぶ危なかったですねぇ。
ギリギリ?セーフ。これからストック書きに行ってきます。
見てくださってありがとうございます!
ではまた〜




