表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪異に殺された俺は、“憑き人”として怪異を狩る  作者: 狛野カムイ
冬の足音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/90

過去を断つ

「──雪女さん、雪女さん。どうしたんですか?」

『──力を使い過ぎたか?少し休んだほうが……』


 凍子を押し潰した雪の塊を前に動かない雪女に、小雪と二人で声をかける。

 少し遅れて、雪女は静かに首を振った。


『……いや、大丈夫だ。少し、昔のことを思い出していた』

『──そうか。とにかく、これで全部終わり──』


『いいや……!まだ、終わっちゃいないよ……!』


 雪の塊の方から、声がした。

 咄嗟に紫焔を滾らせ、声の方へ拳を構える。


『アタシは、まだ死ねない……!アンタを道連れにしてでも殺さないと、この世に留まった意味がない……!』


 雪の塊にヒビが入る。

 真っ二つに割れると、中から身を守るように氷柱を展開した凍子が倒れていた。

 身体の大部分が潰れていて、立つことすらもままならない有様だった。


『──マジかよ……しぶとすぎるぞ、流石に』

『凍子……』


『千人の生気を吸ってきたのは、伊達じゃないよ……』


 小さく身を捩らせながら凍子が近づいてくる。

 手足も折れているのに執念だけで動くその様に、思わず喉が鳴った。


『──どうする』

『……これは私の戦いだ。私が終わらせる』


 雪女が再び雪の薙刀を作り出す。

 ゆっくりと凍子の元へ近づき、眼前に刃を構える。


『……あの頃と同じだねぇ、雪女』

『……ああ。まさか二度目があるとは思わなかった』

『でも、全く同じとはいかないよ……!』

『──っ!?』


「っ!雪女さん──!」

『──まずい!』


 雪女の周囲に、氷柱の矢が構えられる。

 逃げ場はない。紫焔を撃ち放てば、雪女にも当たる。


『言ったろう?道連れにしてでも、アンタを殺すって──!』

『……っ!凍子、お前……!』


 小雪と二人で雪女の元へ走り出す。

 だが、氷柱が雪女を貫く方が確実に早い。

 ──間に合わない。


「──そうはいかないよ、氷柱女」


 空から巨大な札が降りてくる。

 札は氷柱を次々と絡め取り、強引に捩じ伏せて砕き尽くした。


『なっ……』

『──加古川さんに、雨宮さん……!?』


 ドームに空いた穴から、加古川さんが降りてくる。

 彼を連れているのは、雨宮さんだった。

 背中からカラスのような翼を生やし、手足は鳥の足のような鱗に覆われている。

 両隣には火那森先輩といぶきさんもいる。

 二人とも、狐火と墨香、白來を纏っていた。


「全く、報告がてら小雪の様子を見に来ただけなのに、まさかこんな事になっているとはな」

「済まないね、文奈。でも助かったよ」


 ゆっくりと屋上に降り立つと、加古川さんが札を投げる。札は瞬時に巨大化して、凍子を拘束した。


『ぐっ……何する気だい……!』

「どうもしないよ。ただ君に質問があってね」


 加古川さんが余裕のある足取りで凍子へ近づき、目の前で屈む。


「“神野悪五郎”。この名前に聞き覚えはあるかな?」

『……はあ?何かと思ったら、人探しかい?』

『……悪いね、知らないよ。少なくとも、アタシが関わった奴の中に、そんな名前は覚えがない』


「……そうか。アテが外れたなぁ」

『まあ、そんなものだろう。筆鬼の件でようやく実在が確認できたんだ。知る者の方が少ないはずだ』


 肩を落とす加古川さんの背中を、雨宮さんが翼で軽くつついた。


「凍子さんは、千人の命を吸い取っていたらしいですから……それだけの力を、蓄えていたんです」

「──なるほどね。てっきり悪五郎からもたらされた力だと思っていたが、それだけのことをしでかしているなら納得だ」


 小雪の言葉に頷きながら、加古川さんが立ち上がる。


『……殺さないのかい?』

「それを決めるのは僕じゃないよ」

「そうだろう?雪女くん」


 加古川さんが雪女の方に目を向ける。

 雪女はバツが悪そうに視線を逸らした。


「その札は解くよ。それで本当の意味で、君たち次第ということになるからね」


 加古川さんが凍子を縛る札に向けて印を結ぶと、水に溶けるように消えていった。


 雪女は、薙刀を手放した。

 落ちた薙刀は柔らかな雪へと変わり、そして消えていった。


『……もういい。機を逸した』

『私にだって情はある。かつての隣人を、何度もこの手で殺すような真似はしたくない。だから、生きたいなら生きろ』


 雪女の言葉に、凍子は意地の悪い笑みを浮かべた。


『……アタシはまたアンタを殺しに行くよ』

『アンタだけじゃない。そこの小娘も、アンタの友人もね』


『その時が来たら、また止めるだけだ』


 雪女の強い意思の籠った言葉に、凍子の顔が少し緩んだ。


『……ところで、なんでアンタたちは、その悪五郎とかいう奴を調べてるんだい』

「ああ、それは──」


 加古川さんが口を開いた直後。


 周囲の気温が一気に下がった。

 大気が青く染まり、白く輝く霧が視界を支配する。


『──っ!?なんだ!?』


「火那森くん!八重原くん!すぐに火を!」

「はい!」


 紫焔を全力で燃やして、先輩と共に炎の膜で仲間を包んでいく。

 だが。


『──嘘だろ……!?』

「炎が、凍っていく……!?」


 炎が、時が止まったように揺らめきを止めた。

 本来発するはずの熱が、消えた。


『な、なんだいこれは……!アタシや雪女以上の冷気を操れる奴が……!』


『──見所はあったが、惜しかったな』

『がっ──!?』


 低い男の声の直後、凍子の心臓に刀が突き立てられた。

 氷の礫を孕んだ風が、刀を掴んだ男の姿に変わる。


 宝石のように深い蒼色と、鈍く輝く銀色の具足。肩には大きな赤と黒のマントを羽織っている。

 兜には黄金の三日月の飾り。顔は面頬で隠れていて見えないが、飾りと同じ黄金に輝く瞳が覗く。

 まるで戦国時代の将軍のような威容に、無意識に半歩後ろに下がった。


『お前の死は無駄にはしない。その力、我の糧にしてやる』


『なに、勝手なこと、言ってるんだい……!』

『誰だか、知らないけど……アタシの力は、アタシだけのものだよ……!』


 凍子が必死に抵抗しようとするが、僅かに身じろぐだけだった。

 やがて身体から色が消えて、人型の氷に変わっていく。


『……っ!こんなところで、アタシが──』

『雪女……!雪女……!』


 恐怖と悔恨が混ざったような瞳で、凍子が雪女を睨みつける。

 雪女は、ただ無言で手を差し伸べようとしていた。

 氷塊となった凍子は小さな礫に砕け散り、将軍の纏う寒風の一部となった。


『ふむ。それにしても、他者を食い物にしていた女の最期が我の糧とは、皮肉だな』


『──何者だ、お前は』


 静かに刀を鞘に収めた将軍に問う。

 向こうは、こちらをしっかりと見据えて名乗りを上げた。


『我が名は冬将軍(ふゆしょうぐん)凍景(いてかげ)

『悪五郎殿の友であり、従者であり──』

『いずれ貴様らを討つ者だ』


 一際強い寒風が吹き荒ぶと、凍景の姿は消えていた。

 気温が元に戻る。先ほどまでの極寒との落差で、真夏のように感じられる。遅れて全身から汗が噴き出した。

 緊張の糸が切れたように、紫蜘蛛と分離する。


「はあっ……はあっ……!」

「なんだったんだ、アイツ……!」


「や、八重原先輩!猪狩さんがいません!」


 小雪の切羽詰まった声を受けて、慌てて猪狩を探す。


 猪狩は、屋上の梁に身体を乗せていた。

 目を離した隙に、這いずって逃げようとしていた。


「は……はは……」

「もう、終わりだ……全部、取り戻せると思ったのに、結局、また失った……」


 猪狩が梁の向こうへ身を乗り出す。


「もう、いいか。どうでも──」

「なっ……!?」


 ズルリと、猪狩が梁から落ちた。


「あの野郎──!」


 咄嗟に猪狩を追って駆け出す。

 紫蜘蛛も俺の意志を察したのか、何も言わずに黒衣へと変わり、俺を包んだ。


 梁から飛び出し、猪狩を追う。

 落ちる猪狩を糸で捕らえ、空いた手から放った糸でビルの壁を掴む。


「はあっ──!」


 猪狩を引っ張り上げ、蜘蛛の巣で壁に張り付ける。

 彼は呆然とした顔で俺を見た。


「なんで、助けたんだ……」

「俺、人を殺しちまったんだぞ……」

「モノも、カネも盗んできたが……(タマ)だけは取らないって、決めてたのに……!」


 猪狩の告白に、怒りで眉間に大きく皺が寄った。

 彼の目の前に張り付き、顔を掠めるように思い切り拳を振り抜いて壁を殴りつける。


「だったら、なおさら逃げんじゃねえ!」

「死ねば許されると思ってんなら大間違いだ!」

「悪いことした自覚があるんなら──!」


「ちゃんと生きて、罪と向き合え!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ