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怪異に殺された俺は、“憑き人”として怪異を狩る  作者: 狛野カムイ
冬の足音

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凍子の願い

 その日の朝、一本の電話が事態の始まりを告げた。

 普段よりもいくらか早い時間に、スマホがけたたましく着信を知らせてくる。

 瞼をこすり、不機嫌そうにスマホを見つめる紫蜘蛛の頭を軽く撫でてから、電話に出た。


「もしもし、八重原です……まだ朝六時ですよ、加古川さん」

《すまない、八重原くん。でも緊急事態なんだ》

《──街で、氷柱による殺人事件が起きている。それも複数だ》


 加古川さんの言葉に、一瞬で目が覚める。

 紫蜘蛛も糸を通じて話の内容が伝わっていたのか、真剣な眼差しになった。


『──もしかして、例のストーカー?』

《それが……どうも氷柱女本人らしいんだ》

《とにかく、ウチに来てくれ。頼むよ》


 慌てた様子で、加古川さんが通話を切る。

 紫蜘蛛と顔を見合わせる。


『──甘噛みは……』

「お預けだな。急ごう」


 不満そうな紫蜘蛛の手を引いて、自室から出た。


「──加古川さん!」

「八重原くん。思ったよりも早かったね」


 大急ぎで今昔堂に向かうと、既に俺以外の全員が揃っていた。

 月曜日の朝。いぶきさんを除く全員が制服だった。


『朝からトレンド入りの大事件だし!“凶器不明の連続無差別殺人、警察が周辺を徹底捜査中”ってね!』


 白來がテレビを点ける。

 慌ただしく動く警官と救急隊、それを囲む野次馬やリポーターの声が事務所に響いた。


「これが被害者の写真ですわ。本来は外部に漏れてはいけないものですが、特別に関係者からいただきました」


 続いていぶきさんがタブレットを取り出す。

 そこに写っていたのは、頭部から血を流した男性の写真。モザイクがかかっているが、明らかに頭頂部への刺突が致命傷となっている。


『間違いなく凍子の仕業だ。かつて、同じやり方で手にかけたことがあった』

『脳天に氷柱を突き刺して殺す。あとはその氷柱を溶かせば凶器も痕跡もなくなる』


『なるほど。それも昔、氷柱女がやっていたっていう“悪戯”の一つかな?』


 雪女の証言に、狐火が意地の悪い質問をしてくる。雪女は静かに首を横に振った。


『……凍子は積極的に命を奪うような女ではなかった。確かに人を殺したこともある。だが……』


 雪女の困惑している反応を見るに、彼女の知る当時でも、命を奪うに至ったのも相応の理由があったようだ。だからといって許されるものではないが。


「どうあれ無関係の人を殺して回っていることには違いないし、早く止めないと」

『──どこにいるのか、分かる?』


《──お探しの氷柱女はここにいるよ》


 どこからともなく声が聞こえると、今昔堂が一瞬で凍りついた。天井から無数の氷柱が落下して、俺たちの頭を狙ってくる。


「っ!?紫蜘蛛!」

『──紫焔!』


 紫蜘蛛と一つになり、紫焔で自分と小雪、加古川さんの頭上をカバーする。

 先輩も狐火を纏って、いぶきさんたちを守るように炎の傘を展開した。


『ウソ!なんでここ分かったし!』

『凍子!なぜ無関係の人を手にかけた!』


『あーあー。いっぺんに質問しないでおくれよ。アタシは聖徳太子じゃないんだからさ』

『派手に動いたのは、そうすればアンタたちに何か動きがあると思ったからさ』

『狙い通り、アンタたちは動き出した。アンタたちの顔は知ってるから、後をつければ楽なもんさ』


 床から巨大な氷柱が現れ、中から凍子が氷柱を砕いて現れた。

 額には氷でできた一本の角。肩をはだけさせ、腰の下から深いスリットの入った白い着物。足元は透明感のあるヒールを履いている。


『アンタたちの前に姿を見せるのは初めてだね。アタシが氷柱女、名前は凍子。改めてよろしくね』


『──よろしくするつもりはないんだが!』


 紫焔を灯した糸を凍子に向けて鞭のようにしならせる。だが、糸は紫焔ごと凍らされた。


『──なに!?』


『ここじゃ無闇に火を使えないだろう?でもそんな弱火じゃ、今のアタシは溶かせないよ』


 コンッと凍子が靴を鳴らすと、足元から氷が登ってきた。


「まずい!凍らされる……!?」

《待ってろ主!今溶かして──》


 先輩が刀に火を灯して足元に突き立てるが、氷の手は止まる気配がない。溶けた端から氷が押し寄せてくる。


『無駄だよ。溶け切る前にアンタたちが凍る』

『でも安心しな。運が良ければ生き残れる。凍傷は免れないだろうけどね』

『それじゃ、その子はいただくよ!』


「きゃっ……!」


 凍子が小雪を脇に抱える。雪女が怒りと焦りで声を荒げた。


『待て凍子!小雪に何をするつもりだ!』


『もちろん、リョースケの願いを叶えてやるのさ』

『あの子、ずっと欲しい欲しいって言ってたからねぇ。少しくらい、いい思いさせてやりたいじゃないか』


 凍子がニヤリと笑う。彼女の言葉に、引っ掛かりを覚えた。


『──猪狩は、生きてるんだな?』


『ああ。アタシの中で眠っているよ。最も、起きるかどうかは分からないけどね?』

『じゃ、用は済んだしアタシは出てくよ!もう会わないことを願っておくさね!』


 凍子は小雪を担いだまま、窓を破って出ていった。


『──くそ!止まれ……!』


 紫焔を燃やし続けるが、凍結は止まらない。俺も先輩も、既に腰の辺りまで氷に呑まれて身動きが取れない。


「雪女くん!君だけでも先に行くんだ!」

『あなたは小雪さまの元に戻る形で、この凍結から逃れられる!』

『あーしたちもなんとかして追いつくから、行ってあげて!』


 加古川さんといぶきさん、墨香、白來が完全に凍りついた。雪女は俺たちの方を見るが、決意は既に固まっていたようだ。


『……すまない、行かせてもらう』

『──ああ!頼んだ!』


 吹雪と共に姿を消した雪女を見送りながら──

 俺も先輩も、氷の中に閉ざされた。


「──は、離してください!」

『おや良いのかい?ここで離したらアンタ死んじまうよ?』


 空中に作られた氷の足場を跳ね回りながら、アタシはニヤリと笑った。脇に抱えた娘──小雪は下を見て、青ざめて口を閉じた。


『さて、そうさねぇ』

『あそこなら、邪魔は入らなさそうだ』


 氷の足場を生み出し、それを蹴りながらさらに高く登っていく。目指す先は、一際高く、雲に頭を突っ込んだ高層ビルの屋上。あっという間に到達し、小雪をコンクリートに放り投げた。


「痛っ……」

『おっと、すまないねぇ。つい勢い余っちまったよ』


 アタシから逃げるように後ずさる小雪の背後に、氷の壁を作り出す。小雪の逃げ場は、すぐになくなった。


『さて、どうしたものかね。リョースケはまだ起きそうにないし』

『……やっぱり、最初のプランで行こうかね』


 手をかざして細長い氷の槍を作り出す。じりじりと小雪との距離を詰めていくと、彼女の身体は恐怖に固まっていった。


「も、もしかして……殺すんですか?」

『まあ、それしかないからねぇ。どっちにしろリョースケももう長くはない。今生で無理なら、せめてあの世で一緒にしてやるのが情けってもんさ』


『というわけで、先に逝ってリョースケによろしく伝えておくれ』

「そんな……!」


 小雪の涙にも構うことなく、槍を振り上げる。


 直後。


 アタシの腕は、真っ白な雪で固められた。


『──っ!?』


 続けて、横殴りの吹雪が襲いくる。予想外の攻撃にそのまま吹き飛ばされてしまった。


『小雪!無事か!』

「──!雪女さん!」


 吹雪に乗った雪女が、小雪の元に降り立ち抱きしめる。

 その姿は、まるで親子のようだった。

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