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怪異に殺された俺は、“憑き人”として怪異を狩る  作者: 狛野カムイ
思い描く、未来と絵画

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勝利の果ての敗北

 雷鳥が轟音をたてながら飛翔する。

 漆黒の稲妻が絶え間なく大地へ降り注ぐ。

 水の槍を数本、避雷針代わりに空に昇らせて軌道を逸らしてはいるが、保って三発が限界だった。


《あっ!また弾けた!》


《こうも打たれ続けると、さすがに堪えますね……!》


 水の槍が二本、雷に耐え切れず弾け飛ぶ。

 再び同じ数の槍を空に打ち出す。


『いま──っ!』


 落雷が止み、雷雲の動きが鈍った瞬間を狙って、刀を振り下ろす。

 追うように雨の塊が空から降り落ち、雷鳥の翼に直撃すると、鋸で斬られたように切断された。


《やりぃ!これで落ちる!》


 白來が喜びの声をあげる。

 だが、それもすぐに切羽詰まった声音に変わった。

 白來だけじゃない。

 墨香も、私もだ。


 ──雷鳥が、増えた。

 最初の一羽は、失った翼を既に再生させていた。

 切断した翼からは、残る身体が生え始めていた。


《──は?》


《そんな──!》


《キョエエェェ──ッ!!》


 二羽の雷鳥が同時に吠える。

 不規則に発生する黒い雷が、空に浮かぶ槍を全て破壊した後、大地を穿つ。


《待って待って待って待って!》


『これは、さすがに──!』


 咄嗟に飛び退き、そのまま駆け出す。

 ここまで激しい落雷になると、逃げるしかない。

 それでもなんとか槍を打ち出し続けるが、空に浮かんだ端から破壊される。


《これでは避雷針の役割を果たせません!別の手を考えないと!》


『そうはいっても、これでは──!』


 いよいよ躱しきれなくなり、何度か落雷に被弾する。

 鱗が弾けて砕け散り、火傷が身体に走る。


『くぅ──っ!』


 痛みに反射的に足を止めたところに、落雷が獲物に群がる鴉のように降り注ぐ。


《ご主人!》

《いぶき様!》


 二匹の巨大な水の蛇が守るように現れる。

 白い火花をあげながら、漆黒の雷を一身に受け続ける。


《いったあ……!》

《いぶき様、怪我は……!?》


『墨香、白來……!』


 蛇の身体の向こうから、二羽の雷鳥の声が聞こえる。

 まるで勝ち誇ったように、高らかに響く。


『これ以上増えられても困りますが、手を出さないのも……!』


《……ご主人、あーしにアイデアがあるんだけど》


 白來が静かに、意を決したように口を開く。


『──いけません、白來。危険すぎます』


《あちゃ。バレちゃってる?》

《でも、これしかないって、あーしは思うんだけど》


 白來の瞳が困ったように垂れ下がる。

 彼女の思考が流れ込んでくる。

 確かに形勢は逆転できるが、失敗すれば──


《大丈夫。あーしも、ご主人も、お姉ちゃんも死なないから!》


《……信じてあげてください、いぶき様》


 二匹の蛇の瞳を見る。

 彼女たちの身体が黒く染まり始めている。

 腹を決めなければ、全員死ぬ。


『──分かりました。あとは、私たちの運に賭けましょう』


《さっすが!じゃあ早速!》


 言うや否や、白來が空に向かって身体を伸ばす。

 彼女の身体が黒い雷に打たれ、どんどん黒く染まっていく。


《くぅっ──!しんど……!》

《でも、まだまだ──!》


 雷に抗するように身をよじらせながら、さらに上を目指す。

 やがて長大な蛇体が垂直に立ち上がり、全身で雷を受け続ける。


『墨香。お願い』

《はい。いぶき様》


 墨香の蛇体が刀に吸い込まれ、翡翠色の輝きを帯び始める。

 今にも溢れ出しそうな強烈な力を、両手で刀を握って抑え込むが、それでも刀と両腕は震えていた。


『やあっ──!』


 刀を振り上げ、天に掲げる。

 翡翠色に輝く大蛇が白來に絡みつきながら、天を衝く。


《──“滝雨”!!》


 翡翠の光の波が三、四度、雲を撫でる。

 墨色の雲から滝のように雨が降り出し、雷鳴と雷鳥の咆哮が、雨音の中に掻き消える。


 雨は一塊の水の重石となって雷鳥にのしかかり、空から追い出す。

 二羽の雷鳥が成す術なく地面に叩きつけられ、弾ける。

 その場に残ったはずの墨すらも、雨の滝が起こす瀑布に消されていった。


『──鎮まったかしら……?』


 刀を下ろし、膝をつく。

 足元には、先ほどの光と同じ色の美しい水が広がっていた。

 墨の色は、どこにもない。


 空に光が差し込み、墨香と白來が降りてくる。

 二人とも服はボロボロで、身体のあちこちに煤けたような傷がついていた。


『やったよ……!ご主人!』

『あーしの作戦、大成功!』


『……まさか、これほどの強さとは……』


 刀を離し、二人を受け止める。

 手に微かな電流が走るが、構わず二人を強く抱きしめる。


『ご苦労さまです。墨香、白來』


『……皆さんの応援には、行けなさそうですが』


 墨香が疲労と悔しさを滲ませた声で呟く。

 白來も小さくため息をついた。


『こうなったらもう仕方ないっしょ……様子くらいは見に行く?』


 そうね、と口を開く直前。


 背中に嫌な悪寒が走った。

 墨香と白來も目を見開き、即座に立ち上がって周囲を警戒する。


『──なんと、上出来な戦ぶりか』

『敵ながら、見事なり』


 気付けば、鬼が立っていた。

 大筆を抱えた、地獄を写したような派手な着流しを纏った鬼が、私たちの元へとゆっくり近づく。


『……あなたが、筆鬼ですか』


『然り。本来であればお前たちも封ずるつもりだったが──』

『お前たちは上出来だ。そして、より不出来な存在がいる。そちらが先だ』


 筆鬼がゆっくりと、視線を横に向ける。

 その方角は、八重原様と火那森様が向かった方だ。


『追ってくるのはやめておけ。次に会えば、不出来なものとして破り捨てる』


 筆鬼が足元に墨の丸を描くと、その中に身体が沈んだ。

 穴のような黒丸は、蛇のように身をよじらせながら高速で滑り抜けていく。


『ご主人!』

『いぶき様!』


『ええ、追いましょう……!』

『無理をさせてしまいますが……!』


 再び二人を纏い、走り出す。

 街に飛び散った墨が獣の姿に変わり、道を阻むように立ち塞がる。


《こんの……!》

《──邪魔です!》


 水の柱で押し潰し、水の刃で切り裂く。

 距離はどんどん離され、やがて見失ってしまった。


《筆鬼は、どこに……!》


『──お退きなさい!』


 墨獣に囲まれてしまい、足を止める。

 右手を掲げ、振り下ろし、水針の雨を降らす。

 取り囲んでいた墨獣が一瞬で墨に変わり、激流に流される。

 周囲を見渡している最中、轟音が聞こえた。


《ご主人!あっち!》


 音の方へ再び駆け出す。

 公園の中央、噴水のあった場所に辿り着くが、そこには噴水ではなく大破したトラックが黒煙をあげて転がっていた。


 そこから少し離れた場所に、人が倒れていた。

 見慣れた着物と、黒い上着。


『──っ!八重原様!紫蜘蛛様!』


 武器を解いて、二人の元に駆け寄る。

 既に、事は終わったあとだった。

 二人は敗れ、筆鬼を逃した。

 火那森様も遅れて駆けつけたが、辿り着いた結論は同じようだった。


 ──私たちは、敗北したのだ。

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