表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだはずの俺を生き返らせたのは絡新婦で、そのまま怪異と戦うことになった  作者: 狛屋カムイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/14

俺以外を無視する紫蜘蛛と、すべてを委ねた俺たち

「どういうつもりだ、紫蜘蛛」


視界を奪われたまま、紫蜘蛛を問いただす。


見えなければ、動けない。


《──聞いて、暁人》


言葉と同時に、通知音が消える。

耳も塞がれた。


《──あいつの羽音と声に、耳を傾けないで》

「そうは言っても、どうやって─」


そこで、気づく。


鈍痛が消えている。


「……もしかして」

《──そう。意識しては、だめ》

《──怒りも、苛立ちも、全部》


顔を覆う糸が、ほのかに温かい。

紫蜘蛛の声に合わせて、心が凪いでいく。


思考が澄む。

──あいつは、”認識させる”ことで干渉してくる。

音は感情を逆撫でし、文字は怒りをぶつけてくる。

なら──無視すればいい。


だが。


「どうやって無視する?音も文字も、無理やり入り込んでくる」

《──だから、私があなたの目と耳になる》

「……なんだって?」


返事の代わりに、視界が戻る。


だが、違う。

窓ガラス越しに世界を見るような、薄い隔たり。


《──私の目を、映す》


遅れて、音も戻る。

耳栓越しに、遠く、鈍い。


《──あと、耳も》


〈なんで?〉

〈見えてるのに〉

〈聞こえてるだろ〉


文字も音も認識できる。

それでも──痛みはない。


「なんで、お前は平気なんだ?」

《──私は、あなた以外に……興味ない、から》


わずかに混じる、照れ。


〈ギギイイィィィィィィッッ!!!〉

既読虫が、焦れたように咆哮を上げる。


不快感はない。

むしろ、静かすぎるくらいだ。


《──言い忘れてたけど。あなたの感情も、私が抑えてる》


…さらっととんでもないことを明かされた気がしたが、今はいい。


虫が飛びかかる。


──遅い。


姿勢を低くして躱す。

すれ違いざま、腹に拳を叩き込む。


〈ギッ!?〉


手応えが違う。

明らかに、さっきよりも効いている。


〈おい〉

〈無視すんな〉

〈殺すぞ〉


語気が強まる。

だが──届かない。


「よく無視できるな」

《──言ったでしょう。あなた以外に、興味ないの》


淡々とした返事。

頼もしいが、少し怖い。


だが──だからこそ、攻撃に集中できる。


踏み込む。

拳が入る。

躱す。

蹴りが入る。

受け止める。


頭突きを受け止め、押し返す。


距離が開く。


──違和感。


虫の動きが鈍い。


《──関節を、縛っておいた》

「……いつの間に」


視線を落とす。

両手首から伸びた糸が、虫の関節に絡みついていた。

俺の攻撃に合わせて、”仕込み”をしていたらしい。


《──これで、終わり》

「──これで終わりだ」


二つの声が、重なる。


糸が引かれる。

──いや。引いたのは、俺か。


虫の身体が、強引に締め上げられる。


──もう、声も音も届かない。

握った糸に力が籠もる。


その瞬間。

流れ込んでくる。


──恐怖。


膨張する。

止まらない。

押し潰すように、増えていく。


糸が震える。

膨張に合わせて大きくなっていく。


そして。


〈───ギッ〉


短い断末魔。

既読虫は──動かなくなった。


「……なにしたんだ?」


紫蜘蛛に合わせてはいたが、なにをしたのかは分からない。

ただ最後、虫から異様な恐怖だけが伝わってきた。


『──怒りを抑えて、恐怖を増した』

「……俺の怒りを抑えたようにか?」


装束がほどけ、紫蜘蛛が姿を現す。


《──そう。抱えきれないほどに恐怖を増して──自滅させた》


わずかに頬を緩ませて、種明かしする。


「……お前が味方で、良かったよ」


──やはり、紫蜘蛛は怖い。


だが。


彼女の嬉しそうな顔を見ると、その恐怖も薄れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ