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怪異に殺された俺は、“憑き人”として怪異を狩る  作者: 狛野カムイ
異変と夢と

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からかい上手の海月と、巨大な蛟

階段を上り切り、扉を開けると、埃っぽい倉庫に出た。


「……随分変なところに出たな」


辺りに漂う埃を払いながら口を開く。

海月も少し顔をしかめていた。


『夢なのに変なところまで作り込みすぎよ、あの子』


空っぽの段ボールをどかして出口に向かう。

重い扉を開けると、俺たちは再び霧に包まれた遊園地に戻ってきた。


「ここは……観覧車の辺りか」


『あの地下で随分移動したのね、私たち』


遠くからでも見えた観覧車が、目の前に鎮座する。

あまりにも大きく、不気味な円。

稼働はしていないようで、あちこちに錆が目立つ。


『さて──蛟はいるのかしら?』


海月が辺りを見渡す。

俺も一緒に探してみるが、どうやらここにはいないようだ。

気配も感じない。


「もしかして、元々呼ばれてないとかか?」


『──あり得なくは、ないかもしれないわね』

『あの子、意外と詰めが甘いところがあるから』


軽く肩をすくめて、海月が歩き出す。

行く先には、船のアトラクション──バイキングのシルエットが見えた。


「?海月、そっちに何かあるのか?」


『水に関係する怪異なら、舟に惹かれるかもでしょう?』

『あるいは、ハミィに配置されてるかもしれないし』


「──惹かれてるのは、お前じゃないか?」


ツッコミの直後、触手を刺された。

──図星だったか。


ソワソワする海月のあとを追ってバイキングの前に着くと、白來がいた。


『あ!アキっち!』


「──いや、いるんかい!」


目の前の光景に、思わずツッコむ。

海月は“ほらね”とでも言いたげな目をしていた。


『どうしたの急に。てか、その子誰?紫蜘蛛ちゃんは?』


白來がジトっと俺と海月を見る。

海月が白來に歩み寄り、手を差し出す。


『初めまして、私は海月。同じ水にまつわる怪異として、仲良くしたいわ。“蛟”さん』


海月の言葉に、一気に険しい表情になる白來。

一歩飛び退いて槍を持ち、水の尻尾を生やして警戒態勢をとる。


『──なんで、そのこと知ってんの』


『むしろ、なんで隠してたのかしら?知られて困ることなんてないでしょう?』


睨む白來と、意地悪く笑う海月。

今にも争いそうな二人の間に割り込む。


「待て待て!落ち着け!」

「白來、まずは俺たちの話を聞いてくれ」


白來に俺たちの事情を説明する。


紫蜘蛛と離れ離れになったこと。

彼女の代わりに海月が俺の憑き人となっていること。

彼女のおかげで九尾と化した火那森先輩を救出できたこと。


俺の怪異化のことも、一応話した。


白來は一通り話を聞いたことで、落ち着いたようだ。


『……ふーん。ひとまず、今は味方ってことでおけ?』


『──そうね』


『で?どうしてアンタはあーしの正体知ってるわけ』


白來が再び睨む。

海月は気にしていない様子だった。


『だってあなた、お酒飲まないじゃない』

『もし本当に蟒蛇(うわばみ)なら、いつ何時も酒入りの瓢箪(ひょうたん)くらいはぶら下げててもおかしくないわ』


「……あっ」


言われてみればそうだ。

いや、普段一緒にいるのが未成年の俺たちだから飲むタイミングがなかったのだろうが。


『それに酒豪の怪異ならわざわざ学生の格好なんてしないでしょ?お酒飲めないんだし』

『まあ、“そういう趣味”っていうなら、納得はするけど?』


クスクスと、海月が意地悪に笑う。

白來の方は、顔を真っ赤にしていた。


『〜〜〜っ!あーし、初対面だけどアンタのことキライ!』


「……海月。からかうのも程々にしてやれ……」


一周まわって呆れの声が出てしまった。


『──それと、蟒蛇にしては強すぎるわ』

『ただ存在するだけで雨を降らすなんて、神霊がやることよ』


付け加えるように、海月が真面目な根拠を呟いた。


「……まあ、ひとまず白來の正体は置いておこう」

「いぶきさんと墨香はどうしたんだ?」


話をどうにか軌道に戻す。

ここに白來がいるなら、姉の墨香と主人のいぶきさんがいるはずなんだが、何故かいない。


『んー……なんでだろ』

『多分だけど、あーしが三人の中で一番怪異側っぽかったからじゃない?』


『ほら、あーしってば墨香の分霊みたいなものだし』


白來が頬に人差し指を当てて、考えながら答える。


『蛟はどちらかというと神霊に近いものね』

『怪異の遊園地って趣向のここには微妙に弾かれちゃったのかもしれないわ』


海月が触手をサワサワと動かしながら口を開く。

この短い期間で見つけた、海月の癖の一つ。

彼女の中で拭えない違和感について考えている時の動きだ。


『でも、いぶきって子もいないのにどうしてあなただけここにいられるのかしら』

『どれだけあなたが特殊でも、楔がなければどうにもならないはず』


『その辺り、どういうからくりなの?』


『それは──』


白來が口を開いた、その瞬間。


死角から、何かが飛んできた。


「──っ!」


咄嗟に背中から蜘蛛脚を生やして何かを弾く。


「今のは……水か?」


蜘蛛脚の先を目の前に寄せて確認する。

水滴がわずかについている。


『──蛟。あなた、もしかして最初から──』


『あーあ。仕留め損なっちゃった』

『もう少しタイミング考えてよ、お姉ちゃん』


睨む海月から逃げるように、白來が笑いながら霧の向こうを見る。

さっきと構図が逆転していた。


白來の目線を追う。


霧の向こうから、人影が現れる。


──餓鬼大将と戦った時、いぶきさんが纏っていたものと同じ装束の墨香がいた。

だが、その瞳には何の感情も宿っていない。

ただ虚ろに、何も見ていないかのように俺たちを見ている。


『──今のは、素直に彼を褒めるべきよ。白來』

『普通なら今ので死んでるはず』


明らかに墨香の雰囲気がおかしい。

普段から固い言葉使いの人だったが、それでも優しさはあった。


だが、今の彼女は感情が見えない。

俺たちを仲間だと認識していないような、淡々とした声、虚ろな瞳。


「墨香。本当に、墨香なのか?」


『さっきの九尾のことを思えば、あの子たちも似て非なるものだと思うけど?』


じっと俺を見るだけで何も答えない墨香の代わりに、海月が口を開く。


『──アッハハハハ!さっすが海月ね!やっぱ分かっちゃう!?』


白來が大声で笑い出す。

その笑い声には、嫌な記憶しかなかった。


「っ!お前まさか──ハミィか!?」


右手を差し出し、海月の触手を絡ませる。

そのまま海月を纏い、薙刀を作り出して構える。


『んー、半分正解って感じかな?』


『正確にはこの蛟の子自体は本物よ』

『アタシがちょろっと細工をして身体を借りてるの』


『なんでかとっても相性が良くて、この子のモノマネを完璧にできちゃったの!それこそ、そこのお姉さんを騙せるくらいにね!』


ケラケラと笑いながらクルクル回る白來ハミィ。

ピタリと止まり、スキップしながら墨香に近づく。


『おかげでとっても楽しいことができそう!』

『例えば──これとか!』


白來ハミィが何かを取り出す。


──小さな、白い錠剤。


餓鬼大将が最期に飲んだ、アレにそっくりだった。


《──ハミィ。それって》


海月の声音が険しくなる。

それだけで、嫌な予感で汗が吹き出す。


『そう!“怪魔剤”!』

『人間にも分かりやすく言うと──ドーピング薬ってやつかしら?』


白來ハミィがキラキラした目で錠剤を見せつける。


『あのしょーもない餓鬼で、効果はもう見たわよね?』


『アレは試作品一号だったからあんなキッショいのになっちゃったけど、今回は改良版の二号!』


『ちゃんと出来上がってるなら怪異から怪魔──厄災級の大怪異に進化するはず!』


『まあ、実際飲ませるのはコイツが初めてだから、どうなるかは分かんないんだけどね!アハハッ!』

『というわけで、ハイ!口開けてお姉ちゃん!』


指で摘んだ錠剤を、墨香の口元に差し出す。


海月の制止を八重蜘蛛の力で振り払い、前に駆け出す。


「よせ!やめろ──っ!!」


だが、間に合わなかった。

墨香は錠剤──怪魔剤を飲み込んでしまった。


直後、彼女の体から白緑の気が爆発するように吹き出し、俺の身体も吹き飛ばされる。


墨香と白來の姿を、一瞬でかき消す。


『あー。失敗かしら?これ』

『まあいいわ!失敗も貴重なデータだし!』


『頑張って生き延びてね!アッハハハハ!』


不愉快な笑い声が消えるのと同時に、白緑の気が落ち着き、その先にいる何かが見える。


『──シュルルルルル──』


白緑の霧の中から、二つの頭が持ち上がる。


そこにいたのは──巨大な翼を湛えた、双頭の大蛇だった。

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