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怪異に殺された俺は、“憑き人”として怪異を狩る  作者: 狛野カムイ
異変と夢と

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毒使いの海月

『へぇ──こういう感じなのね。面白いわ……』


海月が愛おしそうに右手を掲げて眺める。

その手首には、シュシュのようなものが付いている。


俺の右手にも、同じものがある。

白地に青いラインの入った、クラゲを模したデザインの飾り。


俺と海月の、“双縁”だ。


『さあ、行きましょうか』


海月が俺の方を見る。

その目は恍惚としつつも、どこか歪んだものが見え隠れしていた。


「当てはあるのか」


『ええ。あなたのお友達に憑いてる、狐のところよ』


手で狐の顔を作り、左右に振る。


「狐火もここにいるのか?ってことは火那森さんも──」


『一緒よ。あなたの知るお友達かは分からないけど』


クルリと向きを変え、歩き出す。

その後を少し距離を空けてついていく。


『ここは怪異のための遊園地。本来なら人間様はお断り』

『ただ、ちょっとした工夫を凝らせば人間もここに入れるわ』


『例えば──怪異との混ざりものになったりね』


海月の言わんとすることを察して、顔をしかめる。


「火那森さんと狐火を、無理やり一つにしてるのか」


『実際どうしてるのかはあの子のみぞ知る、ね』


それからは、しばらく会話はなかった。

海月は俺の味方だと言ったが、本当に俺以外には興味がないらしい。

他がどうなろうが知ったことではないという態度が、癇に障った。


しばらく歩いていると、海月が止まった。

触手の髪が、サワサワと蠢いている。


「何かあったか?」


『ええ。さっきの顔無しが、五──六──』


『──十匹ね』


霧の向こうから、のっぺらぼうたちが現れる。


俺も気を張っていたつもりだったが、どうにも普段よりも感覚が鈍い。

さっきといい今回といい、目視できるまで感じ取れない。


これも、怪異のための世界ゆえだろうか。

まだ俺が人間であることに安堵すべきか。

それとも肝心な時に役に立たない自分を責めるべきか。


『さあ、始めましょう?』

『私とあなたの、初めての共同作業よ』


触手がスルスルと右手に絡まり、シュシュに触れる。


「──ああ。だが、その言い方はやめろ」


海月はクスクスと笑った。


俺と海月の双縁が淡く光る。

海月が浮き上がり、透けていく。

そのまま消えたかと思うと、頭上から布のようなものが覆い被さり──


彼女を纏った、新たな姿に変わった。


クリアホワイトに深い青の差し色の入った、オーバーサイズのローブ。

裾とフードにはクラゲの触手のようなヒダが付いていて、フードは目元まで隠れそうなほど深く被れる。

ローブの下は和洋二つの服を合わせたような、独特な衣裳。

袴にブーツ、ワイシャツに羽織り。


「──ハイカラな魔法使いみたいだな」


《気に入ったかしら?》


海月の愉しそうな声。

本来、紫蜘蛛がいるはずの場所に別の存在がいることに、違和感を拭えない。


のっぺらぼうがジリジリと距離を詰めてくる。

どれもこれも、余った人体のパーツを無理やり縫い合わせたような悪趣味な姿をしている。


腕が六本ある奴。

背中から脚が四本突き出た奴。

両肩にそれぞれ頭を縫い付けられた奴。

笑う男と泣く女が、半分ずつ繋ぎ合わされた奴。


他の六体も、そんな感じだ。


「……夢に出そうだ」

《夢ですもの。そういうものよ》


言葉の直後、右腕を前に伸ばす。

服の袖から白い触手が伸びる。


《この程度なら──戦いにもならないわ》


俺の腕から伸びた触手を海月が操り、前方に立つ四体ののっぺらぼうの身体に刺していく。

触手の色が白から青紫に変わっていく。

袖口から、のっぺらぼうの方へと流れ込むように。


《これくらいかしら?》


スルリと、触手を引き抜く。

先端から青紫の液体が滴り、肉のような床に触れると、煙を上げて溶けていく。


「──っ!お前まさか」


俺の言葉が終わる前に、のっぺらぼう達があっという間に黒ずみ、ドロドロに溶けて消えた。


強烈な毒。

触れただけで床が溶けるような代物を、身体に流し込まれた。


《さて──次は、誰かしら?》


腕を振り抜いて毒液をばら撒く。

牽制するように床を溶かすが、のっぺらぼうは構わず突っ込んでくる。


《──ああ。あなたたちには、分からないんだったわね》


クルリと軽やかにいなす。

のっぺらぼう同士が頭をぶつける。

それを見て海月がクスクス笑っていた。


「次はどうする?」


《そうね──少し、運動しましょうか》


袖をまくり、素肌を晒す。

手首からも毒針が生える。


跳ぶように駆け、一気にのっぺらぼうへ距離を詰める。


俺を掴もうとする腕を触手で絡め取り、あらぬ方向へ折り曲げる。


《虚しいものね。痛みを感じないのは》

《今は、その方が幸せかもしれないけれど》


言葉の直後、毒針を突き刺す。

刺した箇所を中心に、クラゲの傘のような紋章が浮かぶ。


引き抜くと同時に、肘から同じ毒針を生やして背後の敵に刺す。

肘の針を収め、両腕を交差させて手首から細長い針を伸ばす。


針は吸い込まれるように、最初に刺した場所に突き刺さる。


針をしまうと、二体ののっぺらぼうは身体を激しく痙攣させて真っ赤な泡を吹き出した。


《これは──手間だからあまり使わない毒》


痙攣が治まると、その場でグラリと倒れ伏した。


《あと、四匹》


突っ込んでくるのっぺらぼうの身体を蹴りつけ、宙を舞う。


《次は──これかしら》


宙返りして、右足を大きく振り上げる。

踵から爪のような毒針が生えてくる。


《このまま──こう》


突然、身体が重くなる。

肩に水の塊を載せられたような、違和感のある重量感。


「ッ!?」


重力に従い、一気に落ちる。

そのまま踵の毒針をのっぺらぼうの首元に突き刺す。


針が大きく脈動した直後、左脚で蹴り付けて再び宙へ。

そのまま次ののっぺらぼうにも、同じように踵落としを喰らわせる。


二体目を仕留めた。

続けて三体目、四体目と同じ毒を仕込んでいく。


刺しては蹴り付け、距離を取る。


四体目から距離を取り、着地した直後。


四体ののっぺらぼうが爆散した。


《──はぁ。久しぶりに、汗をかいたわ》


「汗かいたのは、俺なんだが」


額を拭って、海月と分離する。


紫蜘蛛の時も大概だったが、海月が憑くとより無茶な動きをさせられる。

特にあの踵落としは、素のままやったらあそこまで脚が上がらないし、上げれば間違いなく筋が切れるか肉離れを起こす。


『それで、どうだった?私と戦った感想は』


海月が俺の顔を覗き込む。

何かを期待するような瞳。


紫蜘蛛は普段目を隠していたから、どこか新鮮だった。


「──まあ、悪くはなかったよ」


『本当?なら、張り切った甲斐があったわ』


ニコッと微笑む。

不覚にも、ちょっとドキッとしてしまった。


『さて、もうすぐ狐のところに着くわ。行きましょう』


再び、海月の後をついていく。

少し、距離は縮まっていた。

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