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怪異に殺された俺は、“憑き人”として怪異を狩る  作者: 狛野カムイ
新たな憑き人とデスゲーム

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36/57

生き汚い餓鬼の最期と、怪異と人の“間”の存在

カゲロウの身体が萎んでいく。

黒い煙が立ち上り、彼の身体を包む。

煙が消えると、骨と皮だけになった餓鬼がいた。


『クソッ……クソッ……』


小さな拳で地面を何度も叩く。

力が入らないのか、乾いた音すら響かない。


『まだ、返してもらってないものがあります』

『そーそー。アンタには似合わない、最高のお宝がね』


墨香と白來が並んで腕を差し出す。

カゲロウの両目がほのかに光り、消える。

二人が顔を見合わせて笑い、いぶきさんの方を向いて、また手を伸ばす。


「──!」


何かに気づいたように、いぶきさんが顔を上げる。

目を開くと、紅色と黄金色の瞳が宿っていた。


『これで全て元通りです』

『やっと取り返せた!ご主人、目の具合は?』


「ええ、以前と変わらず、よく見えますわ」


両手を合わせて、ニコリと笑う。

今度は、ちゃんと合わせられていた。


『──これで一件落着か』


首のスカーフを軽く撫でる。

背中の蜘蛛脚がほどけていき、マントとツノが消えていく。

自分の中に紫蜘蛛の存在が戻っていくのを感じた。


《──もう少し、一緒になっていたかったのに》


身体が元に戻ったあと、紫蜘蛛が残念そうに呟く。

宥めるように、またスカーフを撫でる。


脅威は去った。

もう、目の前の餓鬼は死に体だ。

放っておいても勝手に消える。


加古川さんと火那森先輩も武器を下ろす。

全員が、勝利を確信した。


俺は肩の力を抜き、先輩は刀を収め、加古川さんは札を懐にしまう。

全員が帰る準備をしている時。


──ザワリと。


背中が寒気立つ。


カゲロウを見ると、小刻みに震えながら何かを握っていた。


『マダダ……マダ……オワッテナイ……!』

『ボクハ……オレハ……コンナトコロデオワレナイ……!』


か細い声をあげて、拳をさらに握り込む。

パキパキ、と何かが砕ける音がした。


咄嗟に駆け出し、餓鬼の手首を掴み無理やり開く。

手のひらには、砕けた錠剤のようなものがあった。


「何する気だ……!」


『コレガ、ホントウニサイゴダ……』

『オレハココデシヌガ……タダデハオワラナイ』


『──コノマチスベテノ、イノチヲイタダク』


餓鬼が醜く笑った。


「──っ!?」


動揺した隙をついて、痩せ細った腕が蛇の様に抜け出す。

そのまま砕けた錠剤を口に放り込んだ。


《──まずい》


紫蜘蛛の声の直後、身体が後ろに引っ張られるように飛び退く。


餓鬼の身体が、再び膨れだす。

筋肉の膨張ではなく、風船のような空っぽの膨らみ。

土色の肌は赤くなり、落ち窪んだ瞳は、眼孔から飛び出さんばかりに迫り出してくる。


口の端が裂けて大きく開き、皮一枚で上顎と下顎が繋がる。


大きく息を吸い込むと、階下から大量の火の玉が飛んできた。

同時に、意識が頭から抜けていきそうな錯覚を覚える。


《っ!?命をいただくってそういうことか!》


狐火の焦る声が響く。


俺にも察しがついた。

アレは、人魂だ。

目の前の餓鬼は、街を巻き込んだ心中をするつもりだ。


「全員これを持って!それと距離を取るんだ!このままでは僕たちもアイツの心中に巻き込まれるぞ!」


加古川さんから真っ黒な札を投げ渡される。

受け取った瞬間、抜けかけた意識が鮮明になる。


《──早く、こっち!》


紫蜘蛛の声に従い、屋上を飛び出して宙に跳び、糸を駆使して離れたビルの屋上に移る。


先輩と加古川さんも、俺の後についてきた。


「酒街くんは!?」

《いないぞ!まさかまだあそこに残ってるのか!?》


いぶきさんの姿がない。

墨香と白來も。


戻ろうとするが、紫蜘蛛に止められる。

内側から縛られたように、動けない。


《──ダメ。いくら護符があっても、無事じゃすまない》


無理やり脚を動かして、前に進もうとする。

それより強い力で、内側から締められる。

痛いくらいに。


「このまま見殺しにできるか!短時間なら──」


言いかけたところに、空気が震える感覚を覚える。


〈──私たちは大丈夫です〉


いぶきさんの声が、空に響く。


《あとは、私たちに任せてください》

《あーしたちがみんな助けてみせるし!》


墨香と白來の声も同じように響いてくる。


《──何するつもり》


紫蜘蛛が尋ねるように呟く。

理屈は分からない。

だが、いぶきさん達には聞こえたようだ。


〈八重原様、紫蜘蛛様。もしも見えるのでしたら、しっかりと目に焼き付けてください〉


〈これが、“怪異に近づいた人間の在り方”です〉


空気の震えが大きくなる。

雲もないのに、雨が降り始めた。


《──》


紫蜘蛛に無言で引っ張られる。

俺も考えていることは同じだった。


糸を放ち、宙へ跳ぶ。

壁から壁、屋上を跳ねて、なるべくマンションに近いビルに移動する。


いぶきさんの姿が見えた。

左手に槍、右手に刀。

腰の辺りからは、水でできた蛇の尻尾が生えている。

身体のあちこちに蛇の鱗が見え、頭には二本のツノがあった。

銀色の髪の先は、青と翠のグラデーションに揺らめいている。


服も大きく変わっていた。

ドレスから巫女の装束のような和装へ。

首や手足に勾玉の飾り。


まるで古代の女王。

そう錯覚してしまうほどの装いと威厳だった。


刀と槍を軽く振る。

雨が束ねられ、巨大な水の塊となり──


二匹の、巨大な蛇となった。

片方は赤目、もう片方は金目。


『──さあ、手早く終わらせましょう』


『全てを洗い流し、鎮めましょう』


いぶきさんの言葉に、二匹の蛇が頷く。

金目の蛇が餓鬼に向かって這い進み、餓鬼の身体に巻きつく。

思い切り身体を締め上げると、口から黒く澱んだ人魂が飛び出していった。


赤目の蛇が人魂を水の玉で包み、自身の周りに集める。

尻尾を振ると、人魂の澱みが消えて、街の方へと飛んでいく。


餓鬼の口から人魂が出なくなるまで、二匹の蛇が救出と浄化を続けていった。


『そろそろ、かしらね』


いぶきさんが両手を下ろす。

二匹の蛇が天を仰ぐと、一際激しく雨が降ってきた。


『──あなたのことも、救いましょう』

『それがあなたの望む救いかは、分かりませんが』


金目の蛇が、餓鬼の顔がいぶきさんに向くように締め直す。

赤目の蛇が、いぶきさんを頭に乗せて身体を持ち上げる。


両手の武器を掲げて重ね、一本の大きな刀に変える。

刃のない、四角の刀。

水を束ねて、巨大な青い刃を作る。


『──鎮みなさい』


刃を突き出し、激流を放つ。

餓鬼の口に直撃して、水を無理やり飲ませ続ける。


『ガッ……ガッ……ガボボッ……!!』


餓鬼の苦しんでも、構わず激流を叩き込む。

餓鬼が目を剥き、不自然に顔面が膨れ上がる。

やがて身体も膨れていき、金目の蛇の身体を内側から押す。


赤い肌が、白く染まる。

それを見て、金目の蛇が身体を離す。

瞬間、それまで押さえつけられていた膨張が一気に始まる。


伸び切った皮膚が、水圧に耐えきれず裂けていく。

ほぼ透明に近い血が、裂けた皮膚から吹き出す。

全身を覆う無数の亀裂が、やがて限界を告げるように広がった。


激流を止め、餓鬼に背を向ける。

二匹の蛇が、いぶきさんの背後に戻った直後。


餓鬼の身体が、爆散した。

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