幻のNo. 1ホストの、全てを暴く俺たち
《白來!どこに行ってたの!》
墨香が白來を大声で叱る。
白來は手を合わせてしきりに謝る仕草をしていた。
『ホンットにごめん!でも、アイツの攻略法思いついちゃってさ!準備してたの!』
「……何か、思いついたの?」
いぶきさんが手を口に当てる。
『そう!でもあーし一人じゃ絶対無理!だからみんなに手伝ってほしい!』
少し離れたところにいた俺たちへ向けて、声を張り上げる。
俺と先輩と、加古川さんがいぶきさんたちの元に集まる。
『──面白ソウナコトシテルジャナイカ』
カゲロウが俺たちが集まったことに気づいた。
『僕モ混ゼロ──!』
マンションの壁を破壊しながら俺たちに這い寄る。
紅色と黄金色の瞳が怪しく光る。
『うわキッショ!寄ってくんなし!』
顔を真っ青にして白來が叫ぶ。
『みんな!こっち!アイツを引き離すよ!』
白來がいぶきさんの肩を叩いて移動するよう促す。
その後ろを俺たちがついていき、マンションすぐ近くのビルの裏に隠れた。
《……それで?策ってどんな?》
『──流石に、物理でどうこうの次元は超えたぞ?』
狐火に続いて、俺も口を開く。
『ふふん♪あーいう奴に対抗するには、これが一番効くっしょ!』
自信ありげにスマホを取り出す。
「まあ、スマホで何をするの?」
《白來、あなたまさか……》
いぶきさんは首を傾げ、墨香は何かを察したようだ。
『ほらほら!もっとみんな寄って!あーしのプラン話すから!』
ビルの裏手の空中で、作戦会議。
異様な光景だが、なんだかそれが楽しくなってきた。
「──なるほど。白來くんらしい発想だ。これならイケるかもしれない」
「確かに、私たち全員じゃないと出来ないわ」
加古川さんと先輩が頷く。
《でもリスクも大きいわ。命の危険はもちろん、社会的にも》
墨香は少し懐疑的な視線を向けている。
──俺も、同じ意見だ。
『だーいじょうぶ!あーしに任せて!』
白來が胸に手をあて、自信満々に笑う。
「──分かりました。白來の作戦に乗りましょう」
いぶきさんが手を合わせて口を開く。
《しかし、一歩間違えれば──!》
「白來なら上手くやるでしょう。それは貴女が一番分かってるでしょ、墨香」
墨香の心配を、静かに鎮める。
そして一拍置いて。
「──それに、面白そうじゃありませんか」
全員バラバラに、ビルの裏手から飛び出す。
真っ先に飛び出したのは、先輩と狐火だった。
《待たせたな!壁に張り付いたまま待ってたその根性は褒めてやる!》
炎の尻尾を大きく噴き上げて加速する。
刀に炎を纏わせて、触手を次々と焼き切っていく。
「こっちも行きますわ!墨香!白來!」
《はい!いぶき様!》
《承知!》
餓鬼大将の下からいぶきさんが現れる。
左手に槍、右手に剣。
両方を同時に振り上げて、巨大な水の壁を立ち上げる。
《これがあーし達の!》
《全力です!》
水の壁は餓鬼大将の側面に激突し、その巨体をマンション屋上へと押し上げる。
『ム、ゥ──!』
必死に指を壁面に食い込ませて、耐える。
そこに、加古川さんが札を投げつける。
「そこに留まられると困るんだ。大人しく屋上に行ってくれないかい?」
餓鬼大将の指に張り付いた札が、電撃を放つ。
反射的に、指が壁から離れた。
『グ、ゥ──ウオオオォォ──!』
水の壁に押し上げられて、屋上を超えて宙を舞う。
そのさらに上に、俺が跳ぶ。
『──月が似合わないな、餓鬼大将』
口角を片方あげて笑い、蜘蛛脚と両腕から一斉に糸を射出する。
絡みついた糸が腕を、脚を、胴をキツく締め上げる。
『──巣に戻ってろ!』
全身を使って糸の束を振り回す。
空中で大岩のような餓鬼大将が一回転し、そのままマンションの屋上に叩きつける。
全員が、屋上に集結する。
『作戦第二フェーズ!』
白來の号令と共に、一斉に動き出す。
俺はカメラに映らない場所から糸で餓鬼大将を縛り上げる。
加古川さんの札が縛り上げた箇所をさらに強固に封をする。
先輩が炎の球を照明代わりに浮かして照らす。
いぶきさんが水の鏡で光を反射させ、より映えるように整える。
そして白來が餓鬼大将の目の前に立ち、スマホを取り出す。
大きく息を吸い込んで。
スマホのカメラボタンを押す。
『──みんな!見えてる!?』
『目の前のあれが、みんなが大好きな幻のNo. 1ホスト、赤羽カゲロウ!』
『あれがアイツの本当の姿!』
餓鬼大将の全身をカメラに映し、白來が叫ぶ。
『アイツはみんなのお金を、時間を、人生の全てを奪うことが目的だった!』
『そうしないと、生きられないから!』
『夢もエンタメもあったもんじゃない!』
『他人から奪ったものを貪って、醜く肥え太るだけの傲慢で怠惰な餓鬼大将!』
『それが!赤羽カゲロウって男なの!』
大きな声で、断言する。
『ナ、ナニヲ──!ヤメロ!』
餓鬼大将が狼狽える。
白來の配信画面のコメント欄が高速でスクロールしていく。
《何これ?》
《バケモンじゃん》
《AIとかじゃないの?》
《嘘でしょ?カゲロウ様?》
白來はその様子を見てニヤリと笑う。
『やめるわけないじゃん!あーしらが受けた仕打ちも!アンタを好きと言ってくれたファン達の末路も!全部ここで話すから!』
そこからは、白來の独壇場だった。
餓鬼の生まれとその末路を全て話して。
リスナーが見ていた画面が偽物で、実際何が起きていたのかを全て話して。
肥え太ってからの醜悪な振る舞いを全て暴き立てて。
表に出ていなかったスキャンダルまで全部暴露した。
(──どこで調べたんだ、その情報)
話を聞きながら、疑問を浮かべていた。
『ハァ……ハァ……あーしが話したかったことはこれで終わり!』
『ちなみに、良いなと思ってもチャンネル登録も高評価もしなくていーから!じゃーねー!』
言い終わると、配信が終わった事を知らせる電子音が鳴った。
餓鬼大将は今にも死にそうな顔をしている。
『ナ、ナンテコトヲ、シテクレタンダ……』
言葉を無視して白來がスマホを見る。
画面に映っていたのは、SNSのタイムラインだった。
『うっはー!思った通りトレンド入りして大荒れしてるし!』
「カゲロウの配信もすごいことになってるわ」
《……主、その画面あまり長く見ちゃダメだよ。精神衛生上良くないから》
白來の反応を見て、先輩もスマホを確認する。
俺もスマホで配信サイトを開く。
カゲロウの配信は、コメント欄が凄まじい速さで動いていた。
罵詈雑言と誹謗中傷の嵐。
俺が当事者だったら卒倒ものだ。
コメントの速度が遅くなっていく。
同接人数も同じような速さで減っていく。
一万人が五千人に、千人に。
やがて百人、十人と減っていき。
《失望しました。カゲロウのファンやめます》
最後のコメントがついて、スクロールが止まった。
同接人数は0人。
配信画面は、不気味なほどに静かになった。
コメント欄からは熱狂が消える。
後に残ったのは、嫌悪と失望だけだった。
誰も、カゲロウを見なくなった。




