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怪異に殺された俺は、“憑き人”として怪異を狩る  作者: 狛野カムイ
新たな憑き人とデスゲーム

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30/60

餓鬼大将は映えが命

「……どうなってんだ、これ」


階段を上り、扉を開けた先。


ガラス張りのマンションの地下とは思えない、広大な空間が広がっていた。


『これは……間違いなく空間を改造していますね』


辺りを見渡し、墨香が呟く。


所狭しと並べられたコンテナ。

薄暗い照明。

中心部に鎮座する、貨物用エレベーター。


マンションの地下というより、どこかの基地のようだ。


《やあ、待っていたよ》


もはや聞き慣れた声が聞こえてくる。


エレベーターの方から、ロボットがやってくる。


《それにしても、思いの外時間がかかったね。あの廊下にはなんのギミックもなかったはずだけど》


顔面がモニターのロボットが、しゃあしゃあと話してくる。

顔面には、カゲロウの顔が映っていた。


「──どうあっても、直接会いには来ないってことかよ」


怒りと侮蔑を込めた目で睨む。


カゲロウの態度は変わらなかった。


《勘違いしないでほしいな。僕が会うんじゃない。君たちが会いにくるんだ》


《僕くらいのV.I.P.にもなると、それなりの格を持つ相手じゃないと釣り合わない。これは資格を見極めるためのテストみたいなものさ》


『──どの口が言っているんですか、卑怯者』


カゲロウの言葉に、墨香が怒気を込めた言葉を返す。

もし本人がいたら、そのまま斬りかかってそうな気迫だ。


《怖いねぇ、相変わらず。だが、ここで斬りかかっても無意味だと理解しているところは褒めてあげよう》


モーターを鳴らしながら、拍手のジェスチャーをする。

どうしてこうも人の神経を逆撫でするのが上手いのか。


一通り拍手を終えた後、俺を見る。


──正確には、俺の首元。


《ああ──良い布だね、それ》


ロボットが手を伸ばす。


《そのスカーフは、僕にこそ──》


《──》


言い終わる前に、モニターと肩を糸弾が撃ち抜く。

モニターは砕け散り、伸ばした腕はガシャンと音を立てて落ちる。


一瞬の出来事すぎて、撃った俺自身も何をしたのか理解が追いつかなかった。


《──相応しくない。あなたのような外道には》


俺の指先が熱く、赤くなっている。

紫蜘蛛の強い怒りと軽蔑が伝わってくる。


《おや、残念だ。なら今回は諦めよう》


ノイズ混じりの声が響く。


《では、僕はここで退散としよう。エレベーターに乗って、上に来ると良い》


《──せいぜい、楽しませてくれよ》


直後、ロボットが自爆した。


「……アイツ、直接顔合わせたら殴り飛ばしてやる」


闇のフィクサー気取りが本当に鼻につく。


『とにかく、エレベーターに乗りましょう。なにはなくとも、上に行かなければ始まりません』


いぶきさんの手を取り、墨香が言う。


『その前に、いぶき様』


「ええ、分かってるわ。ここからは一緒に、ね」


墨香が水に溶けるように消え、いぶきさんを包み込む。


いぶきさんの姿が、変わる。


墨香の剣を持った、巫女のような姿。


左目を髪で隠し、右目には墨香と同じ紅色の光が宿っている。


「これなら、私も足を引っ張らずに済みます」


「……飛んだり跳ねたりは、あまり得意ではありませんけど」


照れるように、呟いた。


憑き人二人で、エレベーターに乗り込む。


四隅に柵がせり上がり、大きく揺れて動き出す。


ゆっくりとエレベーターが動き出した時、またあの声が聞こえてきた。


《さあ、お楽しみの復活戦その一だ、リスナーの皆》


《このエレベーターが目的地に着くまで五分ある》


《その五分間、君たちに生き残りを賭けたデスマッチをしてもらう》


柵の上に餓鬼が現れ始める。


《そいつらは全員物欲に塗れた餓鬼だ。宝石から臓器、果ては命まで奪おうとする》


《あの二人が生き残れる方に賭けるリスナーは赤、それ以外は黄色で投げてくれ!さあ、ショータイムだ!》


ゴングが鳴り響き、餓鬼が一斉に飛びかかってくる。


「またスパチャで集金かよ!」


糸を束ねた鞭をしならせ、餓鬼を外に弾き出す。


「その守銭奴ぶりは、見習いたくありませんわね」


いぶきさんが剣を振るい、水の刃で餓鬼を斬る。


襲いくる餓鬼を次々と叩き落とし、斬り伏せる。

だが、こちらの処理速度よりも、餓鬼の湧く速度のほうが早い。


足元に残る餓鬼の数が、徐々に増えていく。


合間を縫って、引っ掻かれ、噛みつかれる。


《キリがない!これではジリ貧です!》


水で傷を保護しながら、墨香が叫ぶ。


「このままじゃ俺たちがエレベーターから追い出される!」


徐々に足の踏み場が無くなる。

俺たちは最悪柵の上でもなんとか戦えるが、いぶきさんたちはそうはいかない。


どうにかしないと、この高さから落ちれば無事じゃ済まない。


《──さっき、こいつらのことを物欲に塗れた餓鬼って言ってた》


紫蜘蛛が呟く。


「何か策があるのか!?」


《──まずは、お試し》


大きく跳び、空中に逃げる。


その場で糸を編み込み、一枚の服を作る。


戦闘用の強靭な素材ではなく、肌触りの良い絹のような質感。


その服を餓鬼のいる足元に、落とす。


直後。


──餓鬼が服に向かって飛びかかってきた。


一体、二体どころじゃない。

エレベーターに乗っていた全てが、服を求めて手を伸ばし、飛び跳ねている。


《──やっぱり。より質の良い物が好きみたい》


もう一枚、簡単な衣類を編んで今度は糸で垂らす。


餓鬼の反応を見て、エレベーターの外に放り出す。


餓鬼が柵の外に雪崩れ込み、落ちていく。

一気に足場が増えた。


「まあ、器用なのですね。紫蜘蛛様」


降り立った俺たちに、いぶきさんが口に手を当てて歩み寄る。


《──これくらいは、当然》


紫蜘蛛は、まんざらでもなさそうだった。


《また来ます。紫蜘蛛様、お願いできますか?》


「いや、もう一つ試してみたいことがある!」


上層のコンテナに向けて、糸を放つ。

思いっきり引き絞り、こちらに寄せる。


コンテナが落ちてくる。


「いぶきさん!アレを斬って!」


俺の言葉を合図に、いぶきさんが剣を振る。


水の刃がコンテナを両断する。


中からは大量の金品が落ちてきた。


宝石、装飾品、果ては金塊、貨幣まで。


とにかく金目のものを詰め込んだコンテナだった。


餓鬼たちが叫び声をあげて飛びかかる。


それを金品ごと締め上げ、斬り捨てる。


「あんな無造作に詰め込んでは、価値が下がってしまいますわ」


水の刃で餓鬼を処理しながら、いぶきさんが呟く。


「多分、金持ちの真似してるだけなんですよ!」


降ってくる金品を糸で柵の外に誘導しながら、返す。


中身が空になったら、またコンテナを落として斬ってもらう。


飛びついた隙を狙い、締め上げて斬る。

それを何度も繰り返す。


気がつけば餓鬼の数が減り、やがていなくなった。


「……終わった、か?」


ガコン、と大きな音を立てて、エレベーターが止まる。


柵が降り、ファンファーレが鳴り響く。


《おめでとう、君たちの勝利だ。》


カゲロウの楽しそうな声。


《……満足のいくものが見れたようですね》


「同じ作業の繰り返しで、退屈しそうなもんだったが」


腕を組み、吐き捨てる。


《いやいや、そんなことはない》


《宝石の雨の中、踊るように戦う……最高の“映え”だったよ!おかげで僕もかなり稼がせてもらった》


カゲロウの声が活き活きとする。

俺は露骨に肩を落とす。


「ここがゴールではないんですよね?」


流れを変えるように、いぶきさんが問う。


《もちろん。だが安心して欲しい。もうすぐ僕に会えるよ》


《次のエレベーターで最上階を押せば到着だ。今度は普通のものだ、何も起きない》


「信じられるかよ、そんな言葉」


コイツは今まで全てを娯楽に変えて消費してきた。

ここまできて何も起きないわけがない。


《……僕の言葉の真偽は、すぐに分かるとも》


《最上階、ペントハウスで待っているよ》


ブツッと音声が切れる。


《八重原様の懸念は最もです。引き続き、警戒していきましょう》


エレベーターを降りて、通路を歩く。


自動ドアが開くと、一階で感じた熱気と香水がより強く吹き込んでくる。


どうやら、あそこと同じかそれ以上の階に来ていたようだ。


この倉庫が地上にあるとも思えない。

やはり、好みの形に空間を改造しているのか。


通路の突き当たり、エレベーターに乗り込む。


エレベーターが、嫌な予感と共に俺たちをさらに上の階へと運んでいった。

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