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怪異に殺された俺は、“憑き人”として怪異を狩る  作者: 狛野カムイ
新たな憑き人とデスゲーム

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26/59

不夜城の主は餓鬼大将

「なるほど。あとは餓鬼大将がいるかどうか、だね」


夜、いぶきさん達が帰ってから加古川さんが戻ってきた。

警察関係者に話を聞きに行っていたらしい。


「僕の方も似たような結論に至ったよ。少なくとも、被害者は餓鬼の手にかかっている」


一拍置いて、続ける。


「餓鬼大将はいるよ。間違いなくね」


確信を持った、強い声音。


「なにか、掴んだんですか?」


前のめりになって、尋ねる。


「通常、怪異は自然に発生するものだ。だが今回の餓鬼は、意図的に“仲間”を生み出そうとしている」


人差し指を立て、ゆっくり歩き回る。


「怪異はほとんどの場合群れない。だが、一つ例外がある」


「──“鬼”だよ」


歩みを止め、横目でこちらを見る。


「……あっ!そういえばそうか!」


言われて俺も気付いた。


俺の反応を見て加古川さんが続ける。


「怪異は基本的に単独存在だが、鬼は違う。鬼は古来から“徒党を組む怪異”として記録されてきた」


『……なるほど。言われてみれば餓鬼も鬼だ。親分がいてもおかしくはないか』


首を軽く縦に振りながら、狐火が続く。


「今になって組織立つようになったのは、おそらく現代人の鬼への認識の変化が原因だろうね」


加古川さんがコーヒーカップに手を伸ばす。


「確かに、鬼をモデルにしたキャラクターも多いし、鬼の親分というイメージも一般化してる」

「鬼のイメージの変遷を取り込んだ結果が、今の餓鬼ってことね」


先輩も納得と言った具合に口を開く。


『──じゃあ、あとはその大将がどこにいるか』

『──私は、あの街のどこかにいると思う』


少し眠そうに、紫蜘蛛も口を開く。


「だろうね。だが、潜伏できそうな場所なんていくらでもあるし、そもそも捜索範囲が広い。一応折り紙たちに餓鬼の追跡を頼むけど──」


加古川さんの話の途中で、先輩のスマホが鳴る。


着信相手は、墨香だった。

スピーカーモードにして、応答する。


《もしもし?酒街です》


電話の相手は、いぶきさんだった。


《ごめんなさい、墨香の番号しか教えてなくて。後で私の番号とRAINも教えますわ》


《それで、本題なのですけれど》


空気が少し張り詰める。


《──餓鬼が運用していると思われるSNSのアカウントを、白來が見つけましたわ》


「──!」


事務所の空気が変わる。

怪異が、SNSを扱っている。


人間の欲望を煽り、喰らうために。


路地裏で残飯を漁っていた餓鬼が、SNSで人の欲望を煽っている。

その事実が、妙に薄気味悪かった。


《今、知人に頼んでアカウント主の特定をしてもらっていますわ。一応、すぐ動けるように私の家に来てくださる?》


ポンッと、いぶきさんの住所が送られてきた。


「分かりました。すぐに行きますね」


《ええ、お待ちしております》


通話を切り、全員で顔を見合わせる。


『……まさかの事態だねぇ……』

『──まさか、本当にいるなんて』


狐火と紫蜘蛛もさすがに驚いてる様子だった。

以前、紫蜘蛛は電子機器を扱う怪異もいるかもなんて言っていた。

だが、当の紫蜘蛛が一番驚いている様子だった。


「とりあえず、酒街くんのところに行こうか」


加古川さんがコーヒーを飲み干し、扉に向かう。


事態が、大きく動いた。

全員で足早に今昔堂を後にした。


       〜〜〜〜〜〜


「急に呼び出してごめんなさい。迷わずに来れたでしょうか?」


加古川さんの車を降りると、大きな扉を開けていぶきさんが出迎えてくれた。


セレブ御用達の高級住宅街の中の、さらに一等地。

白を基調とした一際大きな建物が、いぶきさんの自宅だった。


「……セレブって、本当にいるんだな」

「あのカステラと紅茶を差し入れに持ってこれるのも納得だわ……」


あまりにも違う世界を前に、先輩と二人で息を呑む。


『──暁人、入りましょう』


紫蜘蛛が服の裾を引く。


「よく気後れしないな、紫蜘蛛」

『──呼ばれたんだから、行かないと』


紫蜘蛛には、あまり関係ないようだ。


応接間に通されると、墨香と白來が待機していた。


二人とも、昼間の私服から着替えていた。

墨香は髪を結んで執事服を。

白來はメイド服を着ていた。


机にはお茶とお茶請けが並んでいる。


『申し訳ありません。本来は私たちが迎えるものなのですが、いぶき様が直接出迎えるから、とのことでしたので』


『どーお!?似合ってるっしょ!そこのティーセットもあーしたちが用意したんだ!』


墨香は微動だにせず、白來はくるりとスカートを翻している。


本当に、対照的な二人だ。


「さあ、席について。待ち時間の間に二度目のお茶会としましょう」


墨香以外が席についたところで、白來がスマホを取り出して口を開く。


『これ見て。この人が怪しいって、あーしのカンが言ってんだよね』


スマホの画面には、ある人物のプロフィール欄。


“赤羽カゲロウ@SUNRISE No.1“


「これは……ホスト?」


先輩が画面を見て呟く。


『そ。界隈で有名な”幻のホスト“。実在するはずなのに、誰も見たことがないんだよね』


整った顔つき、名前の通りの赤い髪。

投稿された写真の中には、スーツ姿の全身を写したものもあった。

細い線の中に、確かに感じる筋肉。

男の俺でも羨む、完成された身体だった。


『それで、この人が怪しいと睨んだ根拠は?勘だけじゃないでしょ、流石に』


紅茶を一口飲みながら、狐火が問う。


『まーね。まずホスト業としての矛盾。誰も指名したことないのにナンバーワンとかありえないっしょ』


指を一つずつ立てながら白來が続ける。


『次に、写真の不自然さ。同じ背景で、どの写真も生活感が全くない。自分以外が一切写ってない』


『最後に、身体の不自然さ』


「身体の?」


先輩が全身を写した画像を見ながら呟く。

白來がスマホを取り上げる。


『あんまじっくり見ない方がいーよ。その写真、魅了の呪いかかってるから』


「っ!?あ、ありがとう、教えてくれて」


先輩が反射的に目を逸らす。

狐火が、少し尻尾の毛を逆立てていた。

……事前に教えてくれても良かったんじゃなかろうか。


『話戻すけど、身体の不自然さってのはそのまんまの意味。“完成されすぎてる”』


白來が俺の方を見る。


『アキっち、この人の身体見て“羨ましい“って思ったっしょ?』


「っ!確かに……」


『性別も性癖も無視して虜にする身体なんて、逆にあり得ない。だから不自然』


『これがあーしの根拠。どお?』


三本指を立てた手をヒラヒラさせて、締めくくる。


「なるほど。確かに筋は通ってるね」


加古川さんが背もたれに身体を預ける。


「それで、その人が勤めてる“お店”は実在するのかな?」


『こちらで調べましたが、店舗自体は存在するようです。ただ、紹介制らしく限られた人しか入店できないと、口コミにはありました』


墨香が立ったまま、淡々と返す。


『ふーん……?さっきの白來ちゃんの根拠を聞いた後だと、人を入れないための工作にしか聞こえないな』


狐火が訝しげに呟く。


直後。


電話が鳴った。

墨香のものだ。


『──はい。ありがとうございます。すぐに』


『皆さん、件の赤羽カゲロウの居場所が判明しました』


空気が、ビリッと張り詰める。


『──お店には、いないの?』


紫蜘蛛が口を開く。


「そういやそうだ。この時間ならホストは働いてるんじゃないのか?」


『店にいないってことは、店そのものがブラフってことっしょ。ナンバーワンが休むとか店側も困るし』


俺と白來の問答の後。


「場所が分かったのなら急ぐとしよう。こうしている間にも、餓鬼は増えてるかもしれないからね」


立ち上がり、加古川さんが言う。


応接間を後にし、車に乗り込む。

しばらく走らせ、目的地に到着する。


場所は、ガラス張りのタワーマンションだった。


『うっわー。いかにも成金が住みそうな派手なマンション。あーしの好みじゃないなー』


『白來。往来の場で成金とか言わない。失礼でしょ』


白來がげんなりした様子で見上げる。

墨香が言葉遣いを注意する。


「マンションだったら鍵がないと入れないんじゃ。どうするの?」


「ご心配なく。ここの管理人に話は通してありますわ。中には入れるはず」


いぶきさんが先輩の疑問に答え、一歩前に出る。


「──さあ、参りましょうか。人の欲望が渦巻く、不夜城へ」


いぶきさんを先頭に、全員で踏み込む。

フロントの扉を潜ると、肌を焼くような熱気と甘ったるい香水の匂いが吹き込む。


──永い夜が、始まった。

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