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怪異に殺された俺は、“憑き人”として怪異を狩る  作者: 狛野カムイ
新たな憑き人とデスゲーム

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25/59

街を侵す異変

お菊たちの折り紙を頼りに、狐火と街を歩く。


腹部に残飯を詰め込んだ遺体。

全裸で折り重なるように倒れた男女の遺体。

大量のブランド品に押し潰された遺体。

頭部を自撮り棒で貫かれた遺体。


街で、怪死事件が続発している。


「これで四例目ね……」


遺体を見て、眉をひそめる。


私たちが見つけたのが四つ目というだけで、すでに警察が捜査しているものも含めるとかなりの数になる。


しかも、場所は以前餓鬼の群れを見た地域に集中していた。


『これは……予想以上に、街に餓鬼が溢れかえってるかもねえ』


狐火が尻尾を揺らしながら呟く。


「かもしれないわ。気になるのは、同時多発的に死者が出てること。偶然というには……」


思考を巡らせる。

すると、スマホが鳴った。


〈火那森さん。こっちもいくつか証拠見つけました〉


八重原くんの声。


〈まず、見つけた三人全員がスマホを手に持ったまま亡くなってました。状況から見て自撮り中に亡くなったんだと思います〉


〈車に上から押し潰された人。カバンの取っ手で首を絞められた人。目、鼻、口、耳に硬貨や紙幣を詰め込まれた人。しかも、全員どこかから移動させられたみたいです〉


〈写真は……後で送ります〉


こっちもまた、普通の死に方ではなかった。


「──分かったわ。ひとまず戻りましょう。酒街さんにも連絡しておくわ」


〈分かりました。先に戻ります〉


通話を切り、天を仰ぐ。


そそり立つビルに遮られ、狭くなった空。

重苦しい曇り空が、不安を煽る。


「ここで死ぬのは、怖かったでしょうね……」


『ああ。それに、未練もたっぷりだろう』


狐火と二人で、被害者に思いを馳せる。

楽しい。嬉しい。

そういった感情が最高潮に達した瞬間に、殺される。

その絶望感は想像に余りある。


──早く、止めないと。

改めて決意を固め、現場を後にした。


       〜〜〜〜〜〜


『ラクちゃ〜ん!カステラ買ってきたよ〜!』


白來の声が事務所に飛び込んでくる。

紫蜘蛛は、すこし驚いた様子を見せる。


『──ありがとう。食べながら、話しましょう』


『わーお!あーしたちも食べていいの!?ラクちゃんやっさしーい!』


嬉々とした表情で白來が席につき、カステラの入った箱を開ける。


「急に雨が降ってきて困りましたわ。墨香が傘を持っていて助かりました」


「……あら?火那森様はまだ戻られてないんですか?」


いぶきさんが事務所を軽く見回して、尋ねる。


「もう戻ってくると思いますよ。あ、コーヒーと紅茶、どっち飲みます?」


俺は立ち上がり、台所に向かう。

コーヒーも紅茶も、インスタントしか作れないが。


「まあ、お気遣いありがとうございます。せっかくですので、私が持ってきた紅茶にしましょう」


いぶきさんがポーチから茶葉の入った缶を取り出す。

デパートに入っているような専門店でしか見たことがない、高級感溢れるパッケージだ。


荷物を墨香に任せ、台所に来る。

隣に並んで、慣れた手つきで器具の準備を済ませる。


「せっかくですから、淹れ方を教えてあげますわ。教養として知っておくと良いですよ」


にっこりと、笑顔を見せる。

少し、ドキッとした。


『──』


……刺すような視線を感じる。

キュッと、糸で身体を締められる感覚がする。


軽く後ろを見て、悪かったと紫蜘蛛にアイサイン。

紫蜘蛛は、カステラに向き直った。


「すいません、遅れました」

『ごめんねぇ、急に雨が降ってきたから傘買ったりしててね』


紅茶の淹れ方を教わりながらお湯を沸かしていると、先輩たちが戻ってきた。


『お待ちしておりました。火那森様、狐火様』


墨香が荷物を預かり、席に案内する。

加古川さんの事務所なのに、まるで自分の家のような慣れた動きだった。


「良いタイミングですわ。ちょうど紅茶の準備が出来ましたの。ね?八重原様」


手を合わせて、俺を見る。


「え?あ、あぁ、そうですね」


唐突に話を振られて吃ってしまう。


『……ふーん?暁人くん、あんま目移りするのも良くないと思うよ?』


狐火がニヤニヤしながら俺を見る。


「いや、違いますからね?美味しい淹れ方教わってただけですから」


……変な誤解をされてしまう前に、始めよう。


墨香が紅茶を注ぎ、全員が席につく。


「──これが、私たちが見た遺体の一覧です」


先輩がタブレットを開き、フリックしていく。

写真と推定死因のメモが流れていく。


『あれ、あーしこの人見たことあるかも』


白來が指でフリックを止める。


派手な格好をした女性。

ネックレスで首を絞められていた。


『やっぱり。この人SNSで有名なインフルエンサーだし』


スマホを取り出し、画面を見せる。

そこには、化粧品の紹介をする被害者の動画が映っていた。


『結構儲けてたらしいし、嫉妬か恨みかなー。それでも殺しはダメでしょって、あーしは思うけど』


眉をひそめて白來が言う。


──待てよ。


「白來、ちょっとスマホ見せてくれ」

『え?どしたん急に』


スマホを借りて、さっきのページを軽く見て回る。


「火那森さん、この人たちの亡くなった時間とかって、分かりますか?」


スマホを見ながら、先輩に尋ねる。

先輩の代わりに、狐火が答える。


『あー、専門家じゃないからハッキリとしたことは言えないけど、多分昨日の夜とかじゃないかな?何か気になることが?』


狐火はスマホを覗き込もうと、身体を傾げていた。


「──この人」


投稿日時をもう一度確認する。

間違いない。


「今朝も、更新してますよ」


雷が轟く。

空気が静まる。


『……予約投稿の可能性は?』


墨香が俺を見る。

視線が鋭く刺さる。


『このアプリって、予約投稿とかは出来ないんだよね』


白來がスマホを返せと手で示す。

返したスマホを弄りながら続ける。


『それに、直近の写真と比べても髪型とかメイクも同じだし、やっぱ今朝撮ったんじゃないかなー』


──死んだはずの人が、SNSを更新している。

誰かがなりすましているのか、それとも別の何かか。


普通なら前者だろう。

だが、俺たちが相手をしているのは怪異だ。

後者の可能性だって十分ある。


「──あった。他の人たちもみんなアカウントを持ってる」


先輩もスマホを見せる。

全員、それなりに派手な暮らしをしているように見える写真や動画ばかり投稿している。


インフルエンサー、外資系企業の営業マン、怪しい情報商材を売りつけるコンサルタントに、転売ヤー。


全員、ついさっきまで何かしらの投稿を行なっている。

既に死んでいるとは思えない、生き生きとした写真や文章だ。


「まあ。みなさん、随分と品のない写真を撮りますのね」


写真を眺めて、いぶきさんが呟く。

俺としても、そこは同意だった。


「なんというか、金持ってるアピールが鼻につくというか、過剰な人たちですよね」


『まあ、この手の人間は金持ちアピールで周りから羨望を集めて金を得るのが仕事だからねぇ』


狐火が呆れたように首を振る。


『承認欲求と金銭欲が同時に満たせるから、人によってはハマるんじゃない?』


「欲求……それかも!」


先輩が勢いよく顔を上げる。


「以前見た餓鬼も、残飯を漁って食べ続けてた。あれは、食欲が満たされずに死んだからだと思う」


『……なるほど。餓鬼は人の欲の成れ果て』


墨香も何かに気づいたように口を開く。


『欲求を満たそうとすると、目をつけられて殺害される』


『──そして、満たされなかった魂が、餓鬼に堕ちて人を襲う』


カステラに夢中だった紫蜘蛛が、ようやく喋った。


「餓鬼の発生源は、街の人々。あとは──」


「彼らの動きが偶然なのか、それとも何かの意思によるものなのか、ですわ」


俺に続いて、いぶきさんが次の疑問を投げる。


「正直、そこはまだ分からないわ」

『もう少し、調べないとだねぇ』


カステラをつまみながら、先輩たちが答える。


雨音が、遠のいていく。


真相には、確かに近づいている。


──もう少しだ。

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