蟒蛇たちの団欒
今昔堂に戻ると、加古川さんが腕組みをして立っていた。
顔は笑っているが、目は笑っていない。
「……安静にしなさいよって、僕言ったよね?」
「「すいませんでした……」」
先輩と二人で頭を下げる。
静かに怒る加古川さんに、事情を説明する。
「……まったく。酒街くんと会えた上に、紫蜘蛛くんたちも目覚めたから良かったものの、もし大事になったらどうするつもりだったの」
腰に手を当て、呆れるように声を出す。
『──何かあっても、私が繋ぐ』
紫蜘蛛が、当然のように言い切った。
「そういうことじゃないんだけどねぇ……まあ、今回は良しとしよう」
自分の椅子に座り、加古川さんが向き直る。
「さて、それじゃあ聞かせてもらおうかな」
「──君たちが遭遇した、餓鬼たちについて」
餓鬼の様子を伝える。
外見、言葉、現れた数。
「うーん……普通の餓鬼なはずなんだが、何か引っかかるねぇ」
加古川さんが考え込む。
今までの怪異は多くても二、三体くらいしか同時に発生しなかった。
だが、今回の餓鬼は一箇所に大量に集まっていた。
壁を埋め尽くすほど集まっているケースは、少なくとも過去には無かったらしい。
『餓鬼は人間の欲が変質したものだし、表の通りには人も多かった。欲望に当てられて群がったんじゃない?』
狐火が人差し指を立てて話す。
「でも、人の多い繁華街なんてたくさんあるし、どうしてあそこにだけ?」
先輩が疑問をぶつける。
「……親玉がいる、とか?」
なんとなく浮かんだ可能性を挙げる。
怪異は基本的に群れない。
それは今まで戦ってきた奴らを見て分かった。
集まるとするなら、それなりに大きな理由があるはず。
強力な指導者のような存在がいる、と考えればしっくりきた。
「餓鬼を束ねる親玉ねえ……さながら、“餓鬼大将”ってところかな?」
加古川さんが顎を撫でながら、思案する。
『おっ、上手いこと言うじゃない』
狐火が両手で軽く指を差す。
「餓鬼を束ねる存在がいた、という記録は過去にはなかったと思うが、一応調べてみるよ」
立ち上がり、鍵を取り出す。
「何せ、既読虫みたいに人間社会に適応していくのが怪異だからね」
〜〜〜〜〜〜
『はぁ〜〜〜ラクちゃんめっっちゃ可愛かったなぁ〜〜〜』
白來が両手で頬を押さえて呟く。
もしもアタシがアニメの登場人物なら、間違いなく目にハートが描かれているだろう。
『白來、あんな距離の詰め方をしたら警戒されるわ。もう少し適切な関係の築き方を学んだ方が良い』
墨香にピシャリと咎められる。
『だぁって〜あんな可愛い子見ちゃったら気になっちゃうじゃん!確かにちょっと怖がらせちゃったけどさ』
『大体、お姉ちゃんは逆に距離置きすぎ!あんなんじゃいつまで経っても友達できないし!』
頬杖を突いて、墨香の態度を軽くつつく。
『憑き人の私たちに必要なのは仲間であって、友達ではないわ』
一拍置いて、一言。
『……それと、プライベートに友達はいるわ』
ややムッとした声音で、反論してきた。
そんなお姉ちゃんも可愛い。
こういうところは、やっぱり姉妹なんだなと思う。
「あらあら、まだ起きてたの?そろそろ寝ないと、明日に響くわ」
ご主人──いぶき様が部屋に入ってくる。
『はい、そろそろ寝るつもりです。ちょうど二人で八重原様たちのことを話していました』
『そうそう!良い子っぽいよねって話してたんだよね!』
アタシは紫蜘蛛──ラクちゃんの話しかしてなかったけど。
「あら、それは素敵ね。二人は彼らにどんな印象を持ったの?」
顔の前で手を合わせて尋ねる。
良いと思ったことがあると出る、いぶき様の癖だ。
『八重原様は良くも悪くも普通の方、という印象です。ただ、正義感や責任感は強いのだろうとは思います』
『あーしが餓鬼に不意打ちされた時、自分も危ないのに庇おうとしてたもんね。根っこがヒーローなんだろうなー』
そもそも戦えないのに怪異の出る場所に来るのもどうなんだ、とは思うけど。
そこは彼の性分みたいなものだろう。
『火那森様は誠実な方です。応対も丁寧でしたし、感情ではなく根拠を持って私たちを警戒していた』
『──確かに、事情を知らなければ“目を晒している”私たちは異端ですから』
少しだけ、墨香が目を伏せる。
思い返したら、ちょっと腹が立ってきた。
『でもさあ!あんな言い方なくない!?ご主人に仕えてる時点で、誰の味方かなんて分かるでしょ!』
「まあまあ。落ち着いて白來。他人のために怒れるところは素敵だけれど、それでは眠れなくなるわ」
いぶき様に笑顔で宥められる。
『いぶき様は、どうでしたか?』
墨香が向き直り、尋ねる。
「そうねぇ。私としては、二人とも良い人って感じかしら」
唇に指を当てて、答える。
少しだけ間が空いて。
「あぁ──でも、八重原様は少しだけ、危うい感じがしたわ」
「本人も無意識のうちに紫蜘蛛様に魅入られてるというか、“そっち側”に寄ってる気がしたわね」
少しだけ、真剣な目つきになる。
「加古川様が傍で見ているから大丈夫だとは思うけれど、念のため注意はしておいた方が良いかもしれないわ」
『はい。では、今後も彼らとは仲良くするということで』
『あったりまえじゃん!ラクちゃんに会えなくなったらあーし死んじゃう!』
彼らとの今後の付き合い方も確認したところで。
「ふふ、そうねぇ。じゃあ、おやすみなさい二人とも。明日からもよろしくね」
『おやすみなさいませ』
『おやすみー!』
いぶき様に挨拶をして、アタシも立ち上がる。
『じゃ、あーしも寝るね。おやすみお姉ちゃん』
『ええ、おやすみ白來』
次に会うのが待ち遠しい。
ラクちゃんと、もっと仲良くなりたい。
そんなことを考えながら、眠りについた。




