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怪異に殺された俺は、“憑き人”として怪異を狩る  作者: 狛野カムイ
新たな憑き人とデスゲーム

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20/59

新たな憑き人

餓者髑髏との戦いから、一週間が経った。


あの日、今昔堂に帰った直後に俺も火那森先輩も倒れて、そのまま三日ほど寝込んでいた。


寝ている間の三日、紫蜘蛛と狐火の付きっきりの治療のおかげで傷はかなり治った。


──代わりに、消耗が激しすぎて二人ともしばらく表に出て来れなくなってしまっていたが。


動けるようになってからも、加古川さんに安静を命じられた。


『実は、他にもアテができたんだ。怪異狩りはそっちに依頼するから、君たちはしっかり休んでおくように!』


と、お札の代わりに湿布を貼り付けられた。


──今は、事務所のソファで火那森先輩とのんびりお茶会を開いている。


「──こんな暇で良いんですかね、俺たち」


紅茶をかき混ぜながらついボヤく。

思えば、今までが忙し過ぎたくらいなのだが。


「まあ、たまにはこういうのんびりした日々も良いと思うわ。どっちにしろ、狐火たちが回復しないと私たちはどうにもできないしね」


上品にケーキを口に運びながら、先輩が返す。


紫蜘蛛も狐火も、眠ってもうすぐ一週間になる。

俺が死にかけたあの夜でさえ、姿を見せることはできていたのだが。


それほどの激闘で、それだけの怪我だったのに、俺たちは生きている。

二人には感謝してもしきれない。


「二人が起きたら、改めて打ち上げをやりましょう」

「──ですね。加古川さんにも腕を振るってもらわないと」


二人でケーキを摘みながら、和やかに話す。


──ふと、気になった。


「そういえば、加古川さんの言ってたアテって、誰なんですかね?」


加古川さんのあの言葉。

要は、俺たち以外の憑き人が見つかったということ。


……気になる。


まだ憑き人として活動して一ヶ月ちょっとしか経っていないが、俺と先輩、それと加古川さん以外は見たことがない。


それだけ希少な存在なら、会ってみたくなるのは当然だ。


「うーん……でも加古川さんなら新メンバーっていう風に顔合わせさせてくれそうなものだけど」


視線を上げて考えるように先輩が言う。


「……会わせたくない理由があるとか?」

「例えば、めちゃくちゃキツい性格のヤンキーだった、とか」


冗談混じりに先輩に話す。


「そういう手合いは悪い怪異の方が寄ってくるから考えにくいわね」


……スッパリ切り捨てられてしまった。


「そうね……例えば」

「憑いてる怪異が他人に害を及ぼすから無闇に紹介できない、とか?」


「あー……あるかもですね」


幸い、紫蜘蛛も狐火も他人を傷つけるようなことはしない。

だが、元を辿れば怪異は人間を襲う存在だ。

もしかしたら、主人と慕う人間以外は食い物くらいに考えてるようなのもいないとは限らない。


「でも、気にならないですか?どんな人なのか」

「そうね、気にならないと言えば嘘になるわ」


二人同時にカップを置く。


一瞬の沈黙。


「「決まり」」


二人で立ち上がり、指を差す。


「そうと決まれば、まずは情報収集!」

「私はお菊ちゃんたちに聞いてみるわ」


先輩がチョコレートを持って事務所を出る。

俺はまず加古川さんのデスクを見に行った。


案の定、それらしいものは見つからなかった。

次にホワイトボードも張り紙も確認したが、ここも手がかりなし。


残るは引き出しだが。


「引き出しの鍵、多分持って行ってるよな……」


加古川さんはああ見えて抜け目ない。

情報漏洩に繋がる要素は排除しているはず。


それでも一応探してみる。

傍から見たら強盗か何かに間違われそうだ。


あちこち探すうち、白い紙片が目に入る。

本の間に挟まっていた。


「なんだ?これ」


紙片を引き抜き、開いてみる。

メモ紙には


《残念だけど、ここには何もないよ。

                加古川》


と添えられていた。


「……お見通しかい!」


思わず突っ込む。


目ぼしい場所も探した。

ソファでうなだれ、先輩を待つ。


『ダメだよお菊!お館様に誰にも言うなって言われたでしょ!』

『でもでも!こんなに美味しいちょこれいとをくれたんだよ!教えてあげないと火那森お姉ちゃんに申し訳ないよ!』


廊下がバタバタと騒がしい。

どうやら、先輩の方は成功したらしい。


扉が開き、お菊と蘭丸が飛び込んでくる。


『えっとね!お館様が会いに行った方はね!おっきなお店の人なんだって!』

『あーっ!言っちゃった!』


お菊が元気に教えてくれた。

蘭丸の方は言いつけを守れなかったと言わんばかりに頭を抱えている。


──大きなお店。

困った。

正直、ヒントにすらなっていない。


「……お菊ちゃん。このラムネあげるから、もう少し何かヒントくれない?」


ポッケから缶コーラを模したラムネを取り出し、お菊を誘う。


『ほんと!?じゃあじゃあ、えっとね!』

『お、お菊ぅ……!!』


……少し、申し訳なくなってくる。


「……蘭丸くん。何も全部教えてくれとは言わない。お兄ちゃんたちはこれから探偵ごっこをするんだ」

「だからヒントをくれないか?」


自分でも苦しい言い訳で、蘭丸を説得する。


『……本当に、ちょっとだけですよ』


蘭丸が小声で続ける。


『……駅の、近くです』

『そうそう!おっきな駅の近くにある、おっきなお店!なんか色々作ってるんだって!』


駅の近くの──工場か?


「ありがとうお菊ちゃん、蘭丸くん。お茶飲んでく?」


二人の後ろから先輩が声をかける。


『飲むー!』

『……いただきます』


しばらく、四人でお茶会を楽しんだ。


       〜〜〜〜〜〜


「ここ……かしらね」


先輩がスマホの地図を見ながら呟く。

なんだかんだで夕方になってしまった。


お茶会で少しずつ話を引き出し、二、三個のスポットに絞り込んだ。


まずは最有力候補の、自動車メーカーの本社に来た。


「工場ではないですけど、製造業だし地域で一番でかい会社ですし」


ただ、肝心の容姿と名前が分からない。

流石にそこは二人とも話さなかった。


「とりあえず、この辺りを探してみましょうか」

「了解です」


二人で並んで歩き出す。

そういえば、二人でのんびり歩くのは初めてかもしれない。

いつも紫蜘蛛と狐火がいたし、話題も倒す怪異のことばかりだった。


「火那森さんって狐火さんとはどのくらいの付き合いなんです?」


今まで聞けてなかった、先輩の話を聞く。


「そうね。大体九年くらいかしら」


チリンと耳飾りを鳴らして、答える。

九年。


──先輩の友人が亡くなったのも、そのくらいだったか。


「親友の奏音が亡くなった時に、近所の神社でずっと泣いてたの」

「ある時、人魂が現れて私に聞いたのよ」

「"なぜそんなに泣いているんだい?"ってね」


懐かしそうに目を細めながら、続ける。


「友達が死んじゃったからって言ったら、"ならその子は幸せ者だ。こんなにも死を悲しんでくれる人がいるんだから"って返したわ」


「死んで幸せだなんてって怒ったら"本当に不幸なのは死んだことすら忘れ去られることさ"って言って」


「人魂が、人の姿になったのよ。"この僕みたいにね"って」


クスッと、笑う。


「あの時は本当にびっくりしたわ。一生忘れないくらい」

「あれで狐火は私に目をつけたみたい。話ができて、姿が見えて」


「彼の死に、泣いたから」


「それから私に憑いてきたのよ」

「"僕の死を泣いてくれた君のために、僕は泣こう"って言ってね」


「──」


ただ、聞き入っていた。


「あまり他の人には話さないでね。狐火が恥ずかしがるから」


また、先輩が笑う。

夕焼けに照らされたその顔は、より綺麗に映った。


それからも色々話しながら、憑き人がいそうな場所を探した。


だが、結局収穫は無しだった。


「……もうすっかり夜ですね」

「……ええ、そもそも場所だけで探すのが間違いだったわ」


こうして他愛のない話をしながら先輩と歩く時間は心地よかったが、さすがに疲れが出てきた。


そろそろ戻らないと、加古川さんも帰ってくるかもしれない。

そう思って帰ろうとした矢先。


「「──!!」」


身の毛がよだつ。

空気が冷える。


──怪異が、出た。


「──どこだ?」

「あっちよ。行きましょう」


先輩が駆け出す。

俺よりも経験がある分、気配をより敏感に感じ取っていた。


繁華街の裏路地。

窓のない居酒屋が立ち並ぶ地域に駆け込む。


そこには、瓢箪を抱えた狸のような怪異がいた。

顔は真っ赤で、目は虚。

舌が口元からまろび出ている。


「酒でも飲みにきたか?」

「もう十分飲んでるように見えるけど」


軽口を叩き合う。

餓者髑髏を見た後だと、目の前の化け狸はいくらか余裕そうに見えた。


だが。


「紫く──」

「きつ──」


喉まで出かかった名前を呼ぼうとして、気づく。


二人とも、まだ眠ったままだ。


「あっ──!」

「しまっ──」


化け狸がこちらを向く。

千鳥足で、しかし高速で走ってくる。

手に持った瓢箪を振り回しながら。


「やっば──!」


躱そうと身構えた瞬間。


──頭上を、水の壁が飛び越えてきた。


「なに──!?」


先輩と目を丸くする。


壁は俺たちを巻き込むことなく、化け狸だけを飲み込む。


そのまま水の玉に閉じ込められ──


白い槍が、水牢を射抜く。


瓢箪ごと貫かれた。


『あっぶなー!人巻き込むところだったし!』

『だからいきなり大技を放つのは危険だと言ったでしょう』


二つの、話し声。

明るい声と、淑やかな声。


「──まあまあ。あまり人前で喧嘩をするものではありませんよ」


遅れてきた、気品のある声。


振り返る。


──紅色と黄金色の目をした女性と。

片目を髪で隠した、二人の少女。


美しく、どこか妖しい空気を纏った三人が立っていた。

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