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死んだはずの俺を生き返らせたのは絡新婦で、そのまま怪異と戦うことになった  作者: 狛屋カムイ


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12/14

怨嗟の図書室と、火を灯す私

東棟。

ここは図書室と資料室が並んでいる平屋建ての校舎。

静かな場所で、受験生に人気の場所。


だが、今はその静けさが耳に痛い。


無人の校舎。

当然、灯りはない。


夏だというのに妙に寒い。

汗すら引いていくような冷たさ。


『いやーここで暴れるのは遠慮したいね、僕。せっかくの本が燃えちゃうし』


狐火の軽口が、図書室に響く。

本来は私語厳禁の場所だが、今はその声がありがたい。


「一応、入ってはみたけれど……」


暗いだけで、目立った異変はない。


校門を超えた時に感じた"視線"も、ここにはない。


「狐火、灯り頼める?」

『あいよ、仰せのままに』


ポッ、と。

狐火が手のひらから火の玉を浮かべる。


『それで、何から調べる?』

「そうね。まずは──」


照らされた範囲を見渡す。


その時──本棚に違和感を覚えた。


暗い。

いや、違う。

"黒すぎる"。


本が並んでいるはずなのに、そこだけが光を吸い込んでいるように沈んでいる。


「あの本を見てみましょう」


狐火の半歩後ろを歩く。

こういう時、彼は常に前を行くから頼もしい。


『へぇ──こりゃすごい。まるで墨に漬け込んだみたいだ』


狐火が一冊、手に取る。


背表紙、表紙、裏表紙。

くるくると回して確認する。


私も一冊、分厚い上製本を手に取る。


──軽い。

大きさの割に、紙一枚にも満たないくらいの重さ。


中の紙も真っ黒だ。


「こんな本、なかったはず」


視線を表紙に戻す。


──文字が、浮き出ていた。


【アイツを殺す方法】


「っ……!?」


黒地に、滲むような赤。

血で書いたような、嫌な色。


図書室にはないはずの、異質な本。


──開くべきではない。

頭では分かっていても、指が止まらない。

表紙をめくろうとして──


『待った主。それは僕がやる』


狐火に本を取り上げられる。


『この手のものは、大抵碌でもない仕掛けがある。僕が童の頃にも流行ってたよ、呪詛を書き殴った書物を嫌いな相手に送りつける、とか』


狐火が、目を細めながらページをめくる。


瞬間。


本が燃えた。


「っ、火が」

『ほらね、思った通りだ。僕が"見た"途端に燃えた。少なくともマトモな中身じゃなかったってこと』


火を払いながら淡々と話す。


「じゃあ、ここにある本は──」

『ああ。おそらく全部、"そういう類"だ』


──既に侵食されている。


図書室の広さを考えると、全ての本を一夜ですり替えるのは難しい。


「一体誰が、なんのために……」


思考が巡りかけたその時。


『──主、考え事は後にしたほうが良さそうだ』


狐火の声にハッとする。


気付けば抱き寄せられている。

彼の右手には刀。


『原因が、お出ましだ』


狐火の視線の先に。


灯りを喰うような、黒い影。


〈────ユルサナイ────〉


重く、低い声。


空間が軋む。


〈────ドウシテ───〉


本棚が、微かに鳴る。


〈────オマエモ────

クルシメ────!〉


影が、迫る。


『主!』


狐火の感覚と混ざる。


そのまま瞬時に刀を握り、振り抜いた。


斬撃。

影が、両断される。


〈───イタイ───〉


呻きが響く。


〈──オマエモ──オナジカ──!!〉


空間が大きく揺れる。


本が雪崩のように棚から落ちてくる。


《主!ここを出るぞ!》

「ええ!」


行手を阻む本を斬り払いながら、出口に向かう。

すぐ辿り着き、扉に手をかけるが──


「っ!?開かない!?」


扉が動かない。

壁にでもなったかのようだ。


本が落ちる音が止み、揺れがおさまる。


床に散らばった本から。

──影達が、立ち上がる。


〈イタイ〉

〈カエシテ〉

〈ダシテ〉

〈カネナンテ、モッテナイ〉


「なに…これ…」


《主、聞くな》

「ええ…でも」


分かってはいる。

でも、耳を塞げない。


〈──殺す〉

〈刺す〉

〈潰す〉

〈突き落とす〉


──急に、言葉が"整う"。


〈両親を殺す〉

〈兄弟を殺す〉

〈辱めて殺す〉

〈幸せを壊す〉


〈許せない〉

〈アイツだけが笑ってる〉

〈俺をこんなに壊したのに〉



そして。


〈──俺は死んだのに、なぜお前たちは生きている?〉


「──っ!」


胸が痛む。

吐き気がする。

彼らの声が、身体の内側に入り込んでくる。


そして。


──自分で、自分の首を絞める。


《言わんこっちゃない!》

《主!少し我慢してくれ!》


──身体の内側が焼かれていく。


「くっ…うっ…!」


熱い。

でも、その火が声を焼いていく。


指の力が、緩む。


詰まっていた息が一気に溢れ、激しく咳き込む。


「──やってくれたわね」


左手に炎を収束させる。

巨大な火球。

それを、放つ。


火が、影を飲み込む。

紙片を巻き上げ壁を穿つ。


〈アアァァ──!〉

〈アツイ──アツイィ──!〉


『ごめんなさい──でも、すぐ終わるから』


崩れた壁から外へ出る。


「ハァッ──!」


翻り、刀に炎を纏わせる。

横薙ぎに──振り抜く。

炎の斬撃が鳥の如く放たれ、図書室を断つ。


影が、消えていく。


──全てが、燃えた。


一冊の、黒い本を残して。

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