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死んだはずの俺を生き返らせたのは絡新婦で、そのまま怪異と戦うことになった  作者: 狛屋カムイ


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10/11

造られる怪異と、終われない俺たち

本棟を抜け、紫蜘蛛と並んで西棟を歩く。


平浪学校は歴史が長いが、特に西棟は生徒の間で妙な噂が絶えなかった。


理科室、音楽室、美術室──いわゆる実習室が集まっているからだ。


1階は理科室と家庭科室だ。


「……そういえば、昔"学校の怪談"ってのが流行ってたな」


ふと思い出し、呟く。


『──例えば、どんな怪談があるの?』


紫蜘蛛が前を向いたまま尋ねてくる。


「よくある話だよ。夜の理科室で人体模型が歩いてるとか、無人の音楽室からピアノが鳴ってるとか」


『──じゃあ、あそこにいる"アイツ"は?』

「……え?」


紫蜘蛛が暗がりに指差す。

懐中電灯を向けると──


──人体模型が、立っていた。


「うわっ!?」


思わず身体が跳ねる。

噂をすれば、だ。


『──暁人』

「ああ、分かってる!」


紫蜘蛛と共にスカーフを握る。

二つの影が一つに重なる。


「一応、学校の備品だ。なるべく壊さないようにいくぞ」

《──努力する》


牽制に糸弾を放つ。

当たれば繭のように絡みつき、拘束する。


アイツは動きが鈍い。どれかは当たる──はずだった。


一発が胴体、心臓へ飛ぶ。


「よし──」


捉えた、と確信した。


だが。


──避けた。


空間を歪んだように、一瞬で軌道から外れる。


「なっ!?」


反応が遅れる。

その一瞬で、眼前まで迫られる。


「っ!」


後ろへ飛び退き、盾を展開。


「なんだ今の!普通の動きじゃなかったぞ!?」

《──多分、"実体が無い"》


模型は変わらず、ぎこちなく歩いてくる。


《──試してみたい事が、ある》

「……分かった、合わせる!」


盾を解き、飛び込む。

目の前で身を沈め、蹴り上げる。


──手応えは、無い。


そのまま天井に張り付き、反転。

空間を蹴って跳ね回る。


「……やっぱり実体はないみたいだな」

《──ええ。でも──これは?》


糸が張る。


次の瞬間、人体模型が空中で締め上げられた。


「マジか。なにしたんだ?」

《──"存在"を、縛った》


模型がもがく。

だが、全身を固定され動けない。


《──どうする?》

「このまま大人しくしててもらおう。こいつは親玉じゃなさそうだし──」


──バキン。


プラスチックの割れる音。


人体模型が、砕けた。


床に散らばる。


──水音と共に。


《──そんなに強く、締めてない》

「いや、それよりも今の音……!」


床を見る。

あり得ない血溜まり。

その上に砕けた人体模型。


まるで──本物の死体だ。


《──でも、大人しくなった》

「……気分は最悪だがな」


動かない事を確認して、血溜まりを飛び越える。


その時──


足を、掴まれた。


「!?」


血塗れの指が足首に食い込む。

異様な力で、振りほどけない。


「っ、この!」


もう片足で踏みつける。

簡単に砕けたが──肉を蹴りつけたような、嫌な感触が残った。


《──暁人、あれ》


血溜まりを見る。


──さっきの模型が、動いている。

散らばった破片を血のようなもので無理やり繋ぎ止め、這ってくる。


「……ヤバいな、走るぞ!」


階段へ駆け、2階に上がる。


階段を上り切り、廊下に足を踏み入れると。


──異界が、広がっていた。


赤黒い灯り。

脈打つ壁。

窓の外は血のように赤い。


「なんだよ、これ……!?」


異様な光景に心臓が強く打つ。


──背後から"それ"が迫ってくる。


《──暁人、大丈夫》


紫蜘蛛の熱が伝わる。


「……ああ、大丈夫だ。紫蜘蛛」


息を整え、異形から逃げるように異界を駆ける。


──四方から音がする。


金槌の音、鋸の音。

筆が走る音、紙の破れる音。


部屋なんてないはずなのに、壁の向こうから聞こえてくる。


《──そこ》

「ああ」


立ち止まり、壁を殴る。

壁が崩れ、無いはずの部屋が現れる。


──人影。

いや、作られた"ヒト"。


人体模型、人骨標本、頭のない石膏像。

それらが、黙々と作業に勤しんでいる。


"それら"が、一斉にこちらを向く。


「……マジかよ」


──背筋が凍る。


手には凶器。

命はない。だが、狂気だけがある。


そして──

その奥に巨大な"骨"。

その先には、


未完成の"何か"。


《──来る》


"それ"が一斉に襲い来る。


散開、包囲。


振り下ろし──


「──紫蜘蛛!」


五指から糸を放ち、全てに絡める。


握って糸を引く。

軌道を逸らし、隙間に滑り込む。


《──このまま》

「砕く!」


腕を振り抜く。

模型同士が衝突する。

既に一つ壊した。もう二つも三つも変わらない。


重い音と共に、全員が砕ける。


また、血が飛び散った。


「……どうなってんだ、これ」


血の池を見下ろし、呟く。


血肉を得た模型たち。

"何か"に侵食された校舎。


そして──ここで"何かが造られている"。


──"学校の怪談"は、まだ終わらない。

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