第六十二話 日程が決まった
「その、日時はいつ頃でしょうか」
「三日後を予定しているが」
「用意しておくべきものなど、教えていただけますか」
自分のいないところで決まっている話というのは、どうも気持ちが落ち着かない。少しでも手掛かりを得るために質問を重ねたが、ジェイコブ支部長はあくまでも事務的に返答するのみであった。
「特に必要ない。あまりに非常識な格好をされても困るが……君はとくに心配なさそうだ」
それは、額面通りに受け取ってもいい言葉なのだろうか。務めて平静を装っても、自分の内側では神経が張り詰めていくのがわかる。
そんなとき、オリヴィアさんが思いきった様子で会話に入ってきた。
「あ、あの……わ、私も、途中まででもご一緒させていただくことは……」
「オリヴィアさん……」
引きつった表情は、端から見ても緊張が見てとれる。それでも上擦った声をあげてくれたのは、僕のことを考えてくれたからに他ならなかった。
「オリヴィア……この前の試験の合格者か?」
「はい、支部長。まだ未熟ながら吟遊詩人のスキルを用いて貴重な補助役を務め、レッドベアの爆殺にも多大な貢献を見せています」
ギャヴィン試験官に確認したジェイコブ支部長は、改めてオリヴィアさんに向き直った。
「そうか。では、君も準備をしておきなさい。領主には私から話を通しておこう」
「あ、ありがとうございます……っ」
「別に、向こうでお前らを取って食おうってんじゃない。ただ、少し話しをするだけだ」
僕らの様子に、ギャヴィン試験官は苦笑いを浮かべる。この人が言うなら、基本的には、そうなのだろう。問題は、その基本とやらがなんなのかだ。
「ギルドとしても、君たちの貢献には深く感謝している。今日礼を言う機会を得られてよかったよ。では三日後の昼頃、こちらへ迎えに行くので準備しておくように」
それだけ言うと、では、との一言を残しジェイコブ支部長は去ってしまう。ギャヴィン試験官も、お前ら、次はここで待ってろよ、と言い、彼のあとへ続いて行った。
短い時間かつ、とくに威圧的な態度を取らずとも、相手に緊張感を抱かせる油断ならない人物という印象だった。ギルドの支部長クラスともなると、ああいう凄味の効いた、カタギっぽくない風格が必要になるのだろうか。あの風格の年上をハゲ呼ばわりできるあたり、さすがアンナさんは大物である。
去っていく二人を見送りながら、僕は手持ち無沙汰な気持ちで、傍らのオリヴィアさんに話しかけた。
「どうなるのかな」
「こ、こちらの領主様がどのような方かわからないのですが……何か、ジョージさんにお訊ねしたいことや、頼みごとがあるんだと思います」
聞かれたなら、答えられる範囲で返すつもりだが……頼みごとの場合、無条件でとはいかないだろう。
「断るとか、無理な感じだよね」
「か、寛大な方であれば、とくに支障がないこともありますけど……」
口ぶりから見て、大抵そうはならないのだろう。ましてや格下にメンツを潰されたとなれば、その後もこの土地で頭を張っていくため、向こうも必然的になんらかの形での報復を行わざるを得ないはずだ。
わざわざギルドの支部長クラスが、ギャヴィン試験官を引き連れ新米冒険者のところまで根回しに来たのは、そういった背景もあってのことに違いない。
アンナさんやエマさんたちに迷惑をかけ、オリヴィアさんを振り回さないために、果たしてどう振る舞うべきか……。
「オリヴィアさんは、こういうの結構知ってる感じ?」
育ちのよさそうな子だし、もし領主と謁見する際の礼儀などを教えてもらえるなら非常に助かる。そんな期待から訊ねたところ、オリヴィアさんは硬い表情ながらも、躊躇なく首を縦に振った。
「ほ、ほんの少しですけど……でも、わ、わかる範囲で、お答えします……っ」
珍しく僕と目を合わせての、力強い宣言……のあと、いつも通りしどろもどろになってしまったのは、ご愛敬。と言ったところだろうか。
「こ、こちらの風習まで……その、必ずしも全てを把握できているわけではないですけど……」
「十分心強いよ。ありがとう」
感謝の意を込め、僕は彼女に微笑みを作った。身内がいるというのは、とても心強いものだ。
週二回更新を確実に守るため、こちらの都合で申し訳ありませんが短いです。
そのかわりと言ってはなんですが、今日中に二度目の更新(それが無理そうなら来週三度の更新を予定しています)。




