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第二十四話 仲直り? して試験に向かった

 幸い、その後の狩りは順調に進んだ。収穫はバーストドーア二頭、ウィードボア一匹、そしてグリーンベアをなんと二頭だ。二頭目のグリーンベアは、バーストドーア二頭を回収中に僕へ奇襲をかける形で突っ込んできたところを、一度の狩りの制限一杯となる三つ目の投石で仕留めて得た成果である。途中途中の三、四頭で形成された群れをスルーし続けたのは、我ながら正解だったと言えるだろう。


 とは言え、それでも昼の鐘まで時間ギリギリというところだろうか。山の入口まで出ると、そこから全速力で街へ向かい、ギルドへと飛び込む。中では既に、どこかそれぞれ浮わついた雰囲気を醸す、比較的若い年代層の人たちが集まっていた。そこから少し離れたところで、両手にカップを持ったあの子が所在なさげに座っている。僕に気づいた彼女へ片手を上げ応え、それから一度目線を切った。


 さあ、ここから最後の一仕事だ。朝より人の増えたギルドで、僕は目を皿にする。そして、見知った顔を見つけた。昨日僕に因縁をつけてきた方と、もう一人の宥めていた冒険者だ。


「お、おはようございます……」


 おそるおそる、二人へ声をかける。もし駄目そうなら、他の誰かと交渉しなければならない。果たして時間は間に合うだろうか。


「どうした?」


 もう一人が鼻を鳴らし顔を背ける中、話の通じるほうの人が返事をくれる。ここからはもう、足元見られるのを覚悟で拝み倒すしかない。


「その、お願いがあるんです」


「やだよっ。あっち行け!」


 顔を背けたままそっけない彼を、まあまあ、そう言うなよと、僕と彼双方に聞かせながら、もう一度尋ねてくれた。


「俺らになにして欲しいの?」


「ギルドへ俺がさっき仕留めてきた魔物を売って欲しいんです。もちろんタダでとは言いません。十万ギルだけこちらに残れば、あとは全てお二人に……」


「なんだそれ。はした金で俺らを都合よく使おうってか」


 食って掛かるほうを宥めながらも、彼は僕に冷りな眼差しを向ける。


「まあまあ……あのな坊主、俺としちゃあその提案、やぶさかでもないんだが。でもなあ、十万そっちなんて言われても、いったいどれだけ狩ったってーー」


「バーストドーア二頭、ウィードボア一匹、グリーンベア二頭です」


 彼が固まる中、不服そうなもう一人が、信じられるかっ、と僕の言葉を断じた。


「だいたい今日十万ってことは冒険者試験の受験費用だろ? ふざけるな。なんで俺らがお前なんかに手を貸さなきゃならねぇんだ!」


「どうしても必要なんです。どうか協力して下さい。お願いします」


「嫌だって言ってるだろ。おい、お前もなんか言ってやれよ!」


 周囲の視線が集まる中、頭を下げ続ける。痛いほどの沈黙を破り、彼は短く言った。


「受けよう」


「あ、ありがとうございます!」


「おい、ちょっと待てぃっ! なんで俺らがこんな奴なんかに」


「俺も計算は苦手だが、この坊主が言った言葉を信用するなら、どれだけ素材の状態が悪くとも俺たちに五万は入ることになる。お前が嫌なら俺が全額いただくよ」


 その額に息を飲む男を尻目に、彼は僕へ向き直った。


「お前が自力でそんなにも多くの魔物を狩ったという言葉は信じがたい。けど、アンナやエマさんが自分たちの狩った獲物をネコババされて気づかないとも思わない」


 話がまとまったとき、もう一人の男が苦し紛れとばかりに言った。


「そのアンナやエマさんに頼めばいいじゃねぇか。そもそも受験費用を現金で用意できないまま試験を受けようとすること自体、俺たち冒険者、いや延いてはギルドに対する冒涜だよ」


「俺の額はもう揃ってるんです。ただ、向こうのあの子が財布落として、見つかったんですけど金抜かれてたみたいでーー」


 言葉の途中、胸ぐらを掴まれる。興奮した男の顔が近くにあった。殴られてやったら、納得してくれるだろうか。


「お前のじゃないのか!」


「は、はい。あの子の分です」


 男は複雑そうな顔で、僕とあのローブの子を見比べる。あれ、なんだか顔が赤いような……。


「お、おい、やめてやれよ。ガキ相手に胸ぐら掴むのはいくらなんでもーー」


「お前な、そういうことはもっと早く言えよ!」


「え?」


 僕と宥める男が同時に戸惑いの言葉を洩らす中、僕の胸ぐらを掴んだまま男はカウンターへどんどん歩いていく。


「カミラさん、魔物を売りたい! モノはこのガキの収納魔法の中だ!」


「あの……本当に一緒に狩りをしたんですか?」


 疑いというより、もはや呆れた目を向けるカミラさんへ、僕らは白々しい芝居を打った。


「は、はい。ねえおじさん?」


「お、おうペピトーン。俺らスゲェ仲いいんだぜ。年の離れた親友ってやつだ」


 がっちり肩を組まれると、おじさんから痛飲した翌日の嫌な臭いが漂ってくる。でも我慢だ。ここさえ乗り切ればいい。でも僕の名前は倉内譲次であってペピトーンではない。


「そういうことだ。カミラさん、目を瞑ってやってくれないかな」


 宥める男の取り成しに、カミラさんは溜め息を吐く。


「まったく……今回だけ、特別ですよ? ではジョージさん、昨日のようにカウンターのほうへ」


 急いで脇を通って、あの四センチ×二十センチの隙間が空いた魔道具の元へ向かう。なぜか怒りっぽいおじさんもついてくる中、僕は急いでその穴へ魔物を放り込んだ。


「今日のグリーンベアは状態がいいので、十六万五千ギルでいいですか?」


「はい。お願いしますっ」


 カミラさんも、昨日より急いでくれているのがはっきりわかる。僕は二つ返事で了承し、受け取った金のうちの六万五千を、近くにいた怒りっぽいおじさんへ、半ば押しつけるように渡した。


「本当にありがとうございました! 助かりました!」


「ほ、ほんとにいいのか?」


「はい。すいません、十万はあの子に」


「あ、ああ、それは約束通りだからいいよ。俺たちも何もせず討伐の実績を積めたし……」


 なぜか二人とも偉く狼狽しているが、ここは気にしないでおこう。それより今は受験費用の支払いだ。


「これで二人ぶんお願いしますっ」


「こちら記入用紙です。字は書けますね?」


「はい。大丈夫です」


 もしあの子が万が一字を書けなかったら、そのときは僕が書かなければならない。なおさら時間がないな。


 受け取ったそれとペン、インク壺を持って、ローブの子のところへ飛んでいく。僕は収納魔法から、元いた世界で仕事中のメモ用に使っていた汚いボールペンを取り出し、彼女へ短く問うた。


「字は書けるね?」


「は、はい。あの、本当にどうもーー」


「お礼は間に合ってからっ、急ぐよ」


 走らせたペンからは、僕が知らない言葉がみるみる紡がれていく。けど、何を書いているのかを僕自身はわかっていた。英語の筆記体どころかアルファベットすら怪しいというのに、なにやら不思議な気持ちである。


「で、できました」


「よし、すいませんっ。この二枚ですっ」


 彼女のぶんも受け取ってカミラさんへ渡した次の瞬間、正午を告げる鐘の音が響き渡った。すんでのところとは言え、駆け込み乗車には無事成功したようだ。


「お前らで最後だな。よし、受験者は一纏まりになって俺についてこい」


 ぞろぞろと外へ向かう列にローブの子と加わる際、後ろから声がかかった。


「ジョージさん、合格祈ってますから頑張って下さいね!」


「カード貸しただけで六万五千の儲けに討伐の実績まで貰ったんだ。坊主、冒険者になってからもなんかあったら遠慮なく言えよ」


「お嬢さん、自分とこの俺を信じて頑張るんだ! 坊主もまあ、ほどほどに頑張れ」


 他にも何人かの冒険者が、僕にからかい混じりのエールを送ってくれた。気恥ずかしいような気持ちになるが、一礼して応え輪に戻る。そこでも同じ受験者が口笛を吹いてきたり、肩を叩いてきたりした。


「チビなのにやるじゃん」


「名前なんて言うの? これ終わったら一緒にパーティー組まない?」


「お前ら遠足に来たのか! 無駄に騒ぐなヒヨッコ未満ども!」


 矢継ぎ早に入り乱れるような言葉を投げ掛けられ、試験官からの一喝でそれが収まったあと、ローブの子が僕に小さく耳打ちした。


「す、すいません。さっきはあんな大金……」


「気にしないで。いつか返してくれたらいいから」


 別に、僕にはその力があったというだけの話だ。仮に返して貰えなかったとしても、あのお金はもうあげたつもりだし気にならない。そんな僕の気持ちとは裏腹に、彼女はかなり肩に力が入った様子だった。


「は、はい。必ずお返しします。あの、私オリビアと言います。ほんとに、ありがとうございました」


「俺は譲次。よろしくね、オリビアさん」


 なるべく心を込め、柔和な笑みを作ってみせると、オリビアと名乗った少女もはにかみながらの笑みを返してくれた。


「は、はいっ。よろしくお願いします、ジョージさんっ」

このオリビアという子が新しいヒロインです。ちょっとオドオド系。

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