第九話 邂逅
小柳先輩を叩きのめした翌日。
私は真衣と里奈と一緒に学食に来ていた。
週に一回だけ、学食で食べるようにしようと決め、毎週木曜日は学食の日となった。
今日は、先週先輩に勧められたきつねうどんを食べてみることにする。
また、例によって長蛇の列荷並び、食券を購入し、丼をもらって、席に着く。
最初に利用した時よりも列が少し短かった。
多分きっと最初の週は一年生がお試しで利用する層がいたのだろう。
「ねえねえ、きつねうどん美味しいね」
「確かにほっと染み入る味はこの季節にぴったりだわ」
先輩の性格はさておき、チョイスは非常に良い。伊達に毎日学食通いというだけあって、かなりフィットしていた。
「そういえば、昨日の英語すごかったね」
「先生がすごい語っていたわね。まあ、語学の学習は量をこなさないと伸びないものね」
「でも最後のやつはなかなかできなさそうだと思うよ。だっていきなり外国人観光客に話しかけるんでしょ。絶対無理だって」
「そうね」「あはははは、無理だね!」
「まあ、もしできたらすごく伸びるのだろうけど…」
そんな話をしていると一際大きい声で話している机があるようで、少し会話が聞こえて来た。
「おやおや、君が噂のシンデレラの君だね。噂はかねがねうかがっているよ」
「おっと、こんなに可憐な先輩にまで噂が届いているとは、素晴らしい世界の巡り合わせですね。俺の名前は佐藤と申します。先輩の名前を伺っても?」
「おおっと、自分でも名乗り忘れていたようだね、小柳って言うんだ。ぜひこの短い昼食時だけでも、よろしく頼むよ。佐藤くん」
「ええ、もちろん。なかなか混み合っていますもんね。小柳先輩」
あそこだけ異様な空気感を醸し出していた。
小柳先輩の独特の間に入り込むしゃべりと佐藤くんの妙に芝居がかったしゃべりが見事噛み合って、ラノベで見る少し上品な食事会のワンシーンっぽくなっていた。
周りの人たちも若干距離を置き始め、注目しているが、二人は止まらない。
「そういえば、佐藤くんはどこか所属する予定の部活動はあるのかい?」
「はい、サッカー部に入ろうと考えています。主人公になりたいですからね」
「へぇ、面白いね。もしかして、これまでの行動は全てそれが関わっているのかい?」
「ええ、もちろん。物語の主人公たるもの常に何かを成し遂げようとしなければなりませんので」
「いいねぇ。では、私が部長をしている漫画研究部に兼部してみるのは如何かな?必ずや君の待ち望むものが得られるだろう」
周りは少し開け、彼らの表情や息遣いが遠くからでもはっきりと手に取れる。
「得られるものとは?」
「簡潔に答えよう。それは青春だ。そして物語だ。そして愛だ。もし君が入ったならば、必ずやそれらを与えて見せよう」
さては先輩、勘違いで無理やり私たちをおもちゃにしようとしているな。
昨日少し否定しきれなかった私も悪いが、これ以上悪ふざけに彼を巻き込むには…。
「先輩についていけば、ここで『はい』と答えれば、きっとそれらは全て叶うことになるのだろう」
その言葉を聞き、私は二人の机に向かい立ち上がろうとした。
「だがしかし、それは主人公とは言えない。与えられているものはどこまで行っても所詮紛い物だ。物語の主人公という座は自らが勝ち取ってこそ意味があるものだ。だから先輩、申し訳ないが、あなたの提案を断らせてもらおう」
そういうと、先輩はなぜか少し満足そうに少し頷き、私にウィンクし、続けた。
「まあ、いいだろう。それだけの意思があれば、きっと何があっても物語の主人公たり得るだろう。……ところで少し申し訳ないことをしてしまったね。少し昼食が冷えてしまったようだね」
「いえいえ、話し込んでしまった俺も悪いことですし」
「いや気にするな、佐藤くん。学食通の私には奥義がある。ちょっとこっちについて来て」
先輩は佐藤くんを引き連れ、学食の調理員さんに一言二言告げると、二つの皿を渡し、一分後少し湯気の立った状態のものを受け取っていた。
なるほど、学食の調理員さんと仲良くしておくといいこともあるようだ。
「ありがとうございます」
「いや、長話に付き合わせた私も悪いことだし、冷めないうちに食べちゃいなよ」
そう言って二人は席につき、食べ始めた。
「なんか、ねぇ。すごかったね。小柳先輩も。佐藤先輩も」
よく大衆の目の前で、堂々と個人的な話を大袈裟に話して見せるものだ、と思ったけどそんなことはいちいち言わない。
「そういえば、ゴールデンウィーク、この三人でどっか遊びに行かない?」
「いいわね。ゴールデンウィークちょうど予定はなかったし、そこまで遠いところじゃなければ行こうかしら」
「まあ、特に何も予定ないし、どっか行こうよ」
「決まりね! じゃあ、どこに行く?」
真衣が身を乗り出して聞いてくる。
里奈は「あんまり騒がしいところじゃなければ、どこでもいいわよ」と、早くもスマホで周辺のスポットを調べ始めていた。
私としては、少し大きめの本屋がある駅ビルか、あるいは落ち着いたブックカフェなんかが理想だけど……。
「あ、そうだ! 新しくできた駅前のショッピングモールはどう?ほら、中にすっごく大きい本屋さんと、美味しいクレープ屋さんが入ったって話題の!」
真衣がちょうど良い提案をしてくれた。大型書店とクレープ。これは三人全員がきっと楽しめるだろうチョイスだ。
「そこなら定期券内だし、あまり移動も大変じゃないし、ちょうどいいんじゃないかしら」
「私も賛成」
「よし、じゃあ来週のゴールデンウィークの日曜日の十時に駅の改札前集合ね!」
そうして、少し慌ただしかった昼食の時間は、楽しい約束と共に心地よく幕を閉じた。
混ぜるな危険!




