第四話 見直し
回れ右をして、一目散に帰ろうとする私を、漫研の部員(?)に引き止めた。
「ちょっと待って。ねぇ待ってよ。ここにきたってことは、漫画研究部に仮入部に来たってことでしょ。入るとメリットがあるから!」
「いえ、やめておきます」
すかさず私はそう返した。誰もいない部屋でロッカーに入っている人が、まともなわけがない。今すぐにここから出なければ。
「ねえ、図書室ってもう行った?」
私は、無言で足を止めた。
「おやおや?もしかしてこの反応はもう行った反応かな?」
図星であるが、返事はしない。
「まあ、どっちでもいいや。うちの図書室、なんでかサブカル系の新書が入りやすいんだよねぇ」
それとなく、退路を塞がれた。
「さて、なんででしょう?」
「さあ?」
「それはねぇ、うちの部活が新書の選定に少し関わっているからなんだよ」
私は衝撃で持っていたカバンを地面に落としてしまった。
「その反応は、どうやら興味を持ってもらえたようだね。さあ、席に着いて。説明しようじゃないか」
そう促され、私は渋々席に着いた。
「君、イラストは描けるかい?まあ、書けなくても支障はないけど」
「まあ、少しだけなら……」
「なら、話は早い!入り口の『ようこそ漫研へ』と書かれていた看板を見たよね?」
こくりと頷く。
「要はあれさえ描ければ、図書室の新書は思うがままだよ」
「思うがまま……?」
「そう、まあ正確に言うと、『ある程度自由に選べる』だけどね」
それは、魅力的だ。
自分ではなかなか普段手を出さないが、人気な作品などを書架に入れてもらえると、いろんな本が読めてかなりいい。
そして何より、友達に勧める時、図書室にあると友達が借りやすいのだ。
「先々代の部長がなんかやり手だったらしくて、なんか色々学校側とか生徒会とかに交渉して、この部活だけかなり制約もあるけど権利をもぎ取ったんだよね。例えば、新書を選べるのは、行事やパンフレット用にマスコットのイラストを提供することと引き換えにと言った具合にね」
そう言って、棚から何かしらのパンフレットを取り出して見せてくれた。
「ちなみにこの入学案内の2ページ目と5ページ目の生徒のイラストは私が描いたんだよ。まあ、私はそんな上手くないけどね」
「たしかに、去年こんな案内もらった気がします。そういえば、最後のページにあった、『クルッポンの日常』と書かれていたページとかもこの部活が書いていたんですか?」
「あ、見た?あれ、一応うちの学校のマスコットでね。今いないって言うか、あまり部活に来ないけど、なんか『イラストが描ければいい』とか言う理由でこの部活に所属している子が書いたんだよ。美咲って子がね」
「ストーリーとかも全部考えて構成したんですか?」
「そうだね。たしか文化祭で去年『クルッポンの冒険』って言うかなり分厚い冊子をこの部活から出してね。あれだけは部誌とは別で出すことになったね。あっ、そういえば、自己紹介がまだだったね。私は小柳早苗だよ。よろしくね」
「小柳先輩ですか。よろしくお願いします」
「も〜、冷たいよ。もっと砕けた感じで早苗先輩って呼んでくれたらいいから」
「いえ、先輩をいきなり下の名前で呼ぶのは……」
「まあ、慣れたらでいいよ。あと、結構備品とかも揃ってると思わない?」
見渡してみると、大型プリンターに裁断機、ホッチキス、そして液晶タブレットなど学校の漫画研究部には過剰なほど備品が揃っていた。
「これも前の部長の交渉の成果でね、なんかすごい備品がゴロゴロあるから、気をつけてね。早速書いてみる?」
「いえ、今日はまだ遠慮しておきます。もうすぐ帰らないといけないので」
「あっ、そうか。まだ仮入部は早く帰らないといけないもんね。じゃあ、なんか聞きたいことはある?」
「えーっと。この部活は文化祭で部誌を出すって言っていましたけど、どのくらいのものを出すんですか?」
「まあ、うちはかなり備品も揃ってるし、美咲のおかげでかなりのクオリティーのものを出させてもらっているんだけど…」
「だけど?」
「もちろん、直前期にはなぜか計画が崩れて毎日部室に来ることになるんだよねぇ」
「普段はどれくらい部活に来ているんですか?」
「まあ、人によるけど、基本開けているのは月水金かな」
ならちょうど活動しやすいかな。
「他に聞きたいことはないかな?」
「じゃあ、最初、小柳先輩はなんでロッカーに入っていたんですか?」
「あはは。そこ気になるよね。少しラブコメの描写が気になって実際にロッカーの中に入ったらどんなんだろうって気になってね。そしたら出られなくなっちゃった。テヘッ」
……………。
◇◇◇◇
漫画研究部の部室を後にし、帰路へ着いた。
先輩は少し変わっているが、部活自体はかなり魅力的で、利点も多いので部活動は漫画研究部にしようと思う。
空は日が落ち始め、空が赤く染まっている。
春特有の少しまばらな雲が白く反射している。
少し湿り気のある風が気持ちよく私の体を優しく撫で付けてくる。
ようやく学校に通い始め三日も経ち、少しずつこの登下校の道にも慣れ始めた。
そんな道を歩いていると、前方にうちの学校の生徒が一人いた。
そして、何やらおばあさんの荷物を拾っているようだ。
少し進んでいくと、それが例の彼だということがわかった。
そして、私がそこに着く頃には全て拾い終わったらしく、おばあさんから「ありがとうねぇ。あなたがいてくれて助かったよ」とお礼を言われていた。
彼は、その言葉に「いえ、通りがかっただけなんで。あなたこそ帰りに気をつけてくださいね」と返して早足で去ってしまった。
彼はお礼の言葉に少し照れていたのか、すこし歩くスピードが早く、どんどん先に行ってしまった。
少し、彼のことを見直したかもしれない。
7月24日 修正




